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大切にする方法

  

「雨鈴殿、とても美しく歌われていましたねぇ」


 後ろに控えている蒼信も夕明と同じように大きな拍手を送っていた。彼は雨鈴と知り合いであるため、彼女の意外な姿を見た、と言ったところだろう。


「夕明様の御友人ですか?」


「はい、そうなんです。同い年で……」


「え……」


 そう言って疑問の意味を含めて、聞き返したのは訊ねて来た桃仙ではなく、成蓮だった。


「夕明殿は雨鈴殿と同い年……なのか?」


「そうですよ。私、十六歳です。お伝えしていませんでしたか?」


 成蓮はどこか気まずそうな表情で眉を小さく寄せていた。


「いや、わざわざ女人に歳を聞くものではないだろう、普通は……。だが、私とも同い年だったのか」


「やはり、同い年には見えませんよねぇ」


 そう言って夕明は仕方ないというように苦笑する。


「私の一族は、毒の影響で身体が発達しにくいんです。あ、別に身体に悪いところがあるわけではないですよ? ……ただ、成長しにくくてあまり、年相応には見られないんです」


「……」


 努めて笑顔で答えたが、何故かその場に沈黙が流れてしまう。


「あっ、私は全然、気にしていませんし、若く見られることは良いことですからっ」


 必死に弁明するように夕明は手を横に振って答える。


「だから、皆さんもあまり気にしないで下さい」


「……夕明殿はそうやって、いつも自分自身を切り捨てるのだな」


「え?」


 あまりにも早口で何と言ったか聞き取れなかったため、思わず聞き返してしまうが、目の前の成蓮はどこか悲しげな瞳をしていた。


「こうやって毒見役をやってもらっている分際の私が言えることではないと思うが……もう少し、自分を大切にして欲しい」


 成蓮の手がふわりと夕明の頭に乗せられる。


「君自身が、自分を大切にしてくれないと、少し……悲しくなる」


「……」


 彼の手の温度が伝わって来る。視線を感じ、無理に作っていた笑顔を崩して、成蓮と目を合わせる。成蓮の瞳には自分しか映っておらず、それが何故か無性に嬉しく思ってしまった。


 急いで顔を伏せて、深呼吸しながら心を落ち着かせる。


 悲しいと、言ってくれた。

 自分が、この身を大切に扱っていないことが、悲しいと。


 ……だって、私はそういうものだもの。


 生まれながらにして与えられた役目。生きるための方法。そして、その全てが天から与えられた定めなのだと受け入れていた。


 身体が年頃の娘達と違って小さいことも、五感が特別優れていることも、──短命だということさえも。


 いささか、捨て鉢のようになっているのは分かっているし、(さい)一族は自分で終わりとなってしまっても構わないとさえ思っていた。

 この役目に誇りはあっても、自分の身内を危険にさらしてまで、受け継がれていくべきではないと思っていたからだ。


 新しい曲が始まったのか、楽器が奏でられる音が遠くに響いている気がした。


「……分かり、ました……」


 かろうじて、絞り出すようにそれだけを答える。


「自分のことを大切にするって、どうすればいいのか、まだ分からないですが、それでも……。殿下の言う通りにちゃんと、大切にしますから……」


 具体的にどう大切にすればいいのか分からないが、彼が望んでいるならそうしよう。成蓮が悲しい顔をするのは嫌だ。


「だから、殿下! 大切にする方法を私に教えて下さいっ」


 頭に置かれていた成蓮の手を取り、夕明は自身の両手で強く握りしめる。


「……えっ? ……えぇ!?」


「ぶふっ……」


 思わず驚きの声を上げる成蓮と、同時に噴き出す(すい)兄妹に構わず、夕明は詰め寄る。


「ゆ、夕明様の、発想が……」


「斜め上過ぎましたね、兄上」


 後ろで忍び笑いをしている二人の方にちらりと助け船を求めるように成蓮の視線が行きかうも、夕明はそれを許さず、顔をぐいっと近づけていく。


「お願いします、殿下。殿下の言った通りにしたいのです。どうか、自分を大切にするにはどのようなことをすればいいのか、教えて下さいませっ!」


「いや、だから……。その、あの……。……蒼信、桃仙!」


「くふっ……。殿下がご自分で仰せられたことですので……私共は口出しなど出来ませんよ」


「同意です」


 笑いを堪えている二人に向かって成蓮が助けを求めるが、それをあっさりと断られ、いよいよ逃げ場がなくなる。


「あ……うっ……後で! とりあえず、保留!」


「えぇ? ご自分で仰ったのに……」


 不服そうに夕明が手を離し、頬を丸く膨らませる。成蓮はどこか気まずげに指先で頬を掻いていた。


「今は宴に集中しないか」


「……もう。後で絶対に教えてくださいね」


 渋々、再び身体の向きを前方に向ける夕明に成蓮は気付かれないように安堵の溜息を吐く。


「殿下、夕明様に一本取られましたな」


 声を抑えつつも忍び笑いを消すことなく蒼信が耳打ちする。


「……あとで、一緒に考えてくれ」


「お断りいたします」


 そんな二人を見て、桃仙はさらに息を漏らすように笑うのであった。

    


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