余命の使い方
初投稿です、至らないところばかりで見苦しいところばかりですが感想を頂戴したいです
「落ち着いて聞いてください、桜井 未来さん…あなたの病気は末期ガンです、残念ですが回復の見込みはありません。手術をしても治る確率はとても低いでしょう。このガンは短期間であなたの身体を蝕み…1年以内には…」
頭が真っ白になった。先生の言った言葉の意味を理解するのに30秒ほどの時間を要した。それ以降先生が何を言っていたかを理解することはできなかった。
17歳と言う若さでの突然の余命宣告。
病院を後にし、泣いている親の顔を見ると私も自然と涙がこぼれた。その日はどれだけ泣いたか覚えていない。声が出なくなるまで、涙が枯れるまで夜通し泣き続けた、死ぬ事など考えたこともなかった。怖くて怖くてたまらなかった。現実を受け入れられなかった。
それからは学校にもいかず、誰にも会わず、しばらく抜け殻のような生活を続けていた。
2週間後。私は大きな大学病院に入院することが決まった。その頃には自分の置かれている状況を少しは理解出来ていた。
準備や手続きを済まし病室へと移動し一通りの説明を受けた。
「若くて可愛らしい子がこんなところに何の用だい?盲腸かなんかかね?」病院の共有スペースにいると
一人の中年男性患者が私に話しかけてきた。
「いえ、盲腸だったらいいんですけどね…」
「ああ、すまない…悪いことを聞いてしまったね…」
私の病気の事を聞くと皆同じ反応をする。だからなるべく病気のことは口にしなかった。
「おれは田口博正。田口さんでいいぞ。
わからないこともあるだろうからよその時はなんでも言ってくれ」
そんな会話をしていると受付で看護婦と一人と若い男性が少し揉めているのを見た。
「どうせ死ぬんだから抜け出してラーメン食いにいったっていいだろ?ほかの患者に迷惑かけてるわけでもあるまいし」
「何度も抜け出されては困ります!いつ命を落としてもおかしくないのですから、安静にしていただかなくては…」
「お嬢ちゃん、あいつ見て見な。あいつは渋谷って言ってな、あれでも末期のがん患者なんだよ。まあ、あいつの場合は少し変なんだけどな」
「へん?何がですか?」
「あいつは入院してきた当初からあんな感じでよ、まさか死ぬ病気の患者だとは誰も思わなかったさ。病院の飯がまずいだ、同じ病室のやつが気にくわないだ文句ばっか言っててまるで死に対して恐怖を抱いていやがらねぇようなんだ。」
どうやら彼も私と同じ病気らしい。
「なんだよさっきからジロジロ見やがって。もうすぐ死ぬ人間が大声で話してんのがそんなにおもしろいか?」
「やめねないか渋谷」
「おっさんじゃねえか誰だその女は」
私は驚いた。
見たところまだ若い男性が、私と同じく余命宣告をされているというのに、落胆しているどころかのんきにラーメンを食べに行っているらしい。
死ぬことが怖くないのか、もっと生きていたいという気持ちはないのか、同じ境遇でここまで違うものなのか、私はその男性の行動が不思議で仕方がなかった。
「へぇ、お前もここの入院患者なんだな。可哀想に。ここの飯は不味いし、なんたってここにいると息がつまる。まあなんの病気かしらんが早く退院しろよ。こんなところにいてもいいことなんて1つもないからよ。」
「あの…」
「大丈夫。めんどくさいと思ってるんだろけど、心配しなくてもおれは誰にも関わらないから。」
そう言って彼は自分の部屋に戻っていった。
検査的に入院していくつかわかったことがある。私の寿命は最初一年と言われていたが、治療と経過がよければ伸びることもあること。あんなに落ち込んでいたのに数日経つと慣れてしまうこと。私の入院している病棟に変わった人がいること。そして、その彼がいうほどここのご飯がまずくないこと。
病院での生活に慣れ始めた時には親だけじゃなく友達も何人かお見舞いに来てくれたりもした。
「本当になんともないんだよね?未来が大きな病気だったらどうしようって心配だったんだから」
「ごめん沙良。連絡しようと思ったんだけどすっかり忘れててさ、すぐ退院して学校行くから、その期間のノートお願いね?」
「わかった…たまには連絡してね」
沙良は小学校からの友人で親友と言える存在だ。出会ってからほぼ毎日一緒だった沙良には特に心配をかけたくなかったし、私が死ぬとしったら彼女はきっと立ち直れなくなる。そんな沙良を見る勇気は私には無かった。
沙良を見送って病室まで戻る途中、一人で座る彼を見つけた。
どうやら検査の途中のようだった。
「あの…渋谷さんですよね?この前ここに入院して来た桜井です。」
「ああ、どーも」
「病状、良くないんですか?」
普通重病にかかっている人にこんなこと聞くものではない。だが私は彼が死に対してどのように考えてるのか、私と同じ境遇の彼の生き方に興味があった。
それに、先日の会話から彼が死を恐れていないように感じたためにこんな質問に至った。
「良かったら毎日こんな検査してないさ。」
「検査はしっかり受けてるんですね」
「一応入院患者だからな」
それからしばらく沈黙が続いた。
「命に関わる病気なんですよね…?」
「ああそうだよ。医者からは長くても1年の命だろうって言われてる。」
私の質問に対するへんじは想像以上にあっさりとしていた。
「やっぱり死ぬのは怖いですか?」
私は続けた。
「あんたも死ぬのか?」
「!」
「まあ別答えたくないなら無理に言わなくても良いけど、あんた、相当追い詰められた顔してるよ。」
私は一瞬考えたがこの人に隠しても仕方がないと思った。
「ええ。私もあなたと同じ病気で同じように余命宣告をされました。正直まだ全てを受け入れることは出来ていません。だから教えて欲しいんです。なぜあなたはそんなに死ぬことに関して無関心なんですか?怖くはないんですか?」
「無関心か…確かにそう見えるのかもな。あんたは何歳だ?」
「17歳です。」
「まだ若いな。その若さで可哀想に。」
彼は全く思っていないだろう言葉を私に言いはなった。
「あなたもそんなに歳はとっていないですよね?」
「まあ、27だし、そうかもな。」
「生き物はいつか死ぬ。人もそうだ。病気で死ん行く人は俺だけじゃないしお前や俺よりもっと若くしてこの世を去ったものも少なくない。それに何をしたって俺に病気を治すことはできないからな。」
私にはそんなに無関心になれる意味がわからなかった。
「残りの寿命が1年だろうが50年だろうが正直変わらない。そりゃ、長く生きれるに越したことはないけどよ」
「私には理解できないです…関心がないにしても、やり残したこととか、あっておきたい人とか死ぬ前にしておきたいこ
とかはないんですか?!」
「やりたいこと…そんなん探してる時間が無駄だな。だったらここにいて少しずつなくなっていく残り時間をダラダラ過ごしていたい。たまに抜け出してラーメン食いに行ったりしてな。これでもしたいように生きてるんだぜ。死ぬからって焦って何かやり残したこと探してる方が俺からしてみたらよっぽど死に急いでる様に見えるけどな。それに、後少しで死ぬっていうのにこんな楽観的で無関心に見えた方がなんかかっこいいだろ?どうせ死ぬんなかっこよく死にたいしな。」
そんなことを笑いながら彼は言った。
彼の考えを理解することはできなかった。でも、その日の夜は久しぶりに涙を流さずに済んだ。
その日から私は時間さえあれば彼と話そうとした。彼と話しているときは気持ちが少し楽になる様な気がしたからだ。
「あんた貴重な時間を俺みたいなヤツと話す時間に使ってて良いのか?もっとあっておきたい人とかやりたい事とかないのかよ。」
「それ、あなたが言いますか?渋谷さん。」
「俺は良いんだよ。別にこれと言ってやりたいこともないし、あんた女子高生だろ?」
確かにそう、私は高校生。まだまだ遊んでいたいし行きたいところもたくさんある。彼にそう言われるまで私はそんな事すっかり忘れていた。
「お前一緒に遊ぶ友達もいないのか?」
「失礼な、友達ぐらいいます。ただ病気のこと言えないから…」
言ったらどうせ気を使われる。沙良たちの楽しい時間が私のせいで暗い過去になるのは絶対に嫌だった。
だから沙良には会えない。少なくとも今は会う勇気が出ない。
「ふーんまあ、好きにしろ死ぬ者どうしだ。暇な時なら相手してやるよ」
「どうせ毎日暇ですよね?」
「本当に失礼なやつだな」
「じゃあ、明日の外出の時どこか連れてってください。私はまだまだやり残したことがいっぱいある高校生ですから」
「はぁ?なんで俺の貴重な時間をおまえのやり残したことのために割かないとならないんだよ。そんなもん一人で行け!」
「でもさっき死に仲間だから暇だったら相手してやるって言ってましたよね?明日は検査か何かなんですか?」
「いや、違うけど…」
「じゃあ決まりですね。」
自分でも不思議だった。つい先日まで絶望の淵に立たされ笑うことなど一生ないと思っていた私がこんなに明るくなれるなんて。
久しぶりに外出した私は渋谷と空港にやってきた。
「行きたいところってここか?まさか飛行機に乗ろうなんて言い出さないだろうな?」
「流石にそこまでまはしないですよ。私小さい頃からCAさんになりたくて…高校卒業したら専門学校に入るつもりだったんです。でもまさか高校すら卒業できないなんて…」
「結局誰ときても暗い話になるんじゃねぇか。」
「渋谷さんは入院する前は何をしてたんですか?」
「なにって…ふつうに働いてたよ。」
「なんのお仕事をしてたんですか?」
「そんなんおまえには関係ないだろ。」
彼は自分の話をしたがらなかった。
「気が済んだら黙って実家に帰れ。親もおまえと過ごしたいはずだろ。俺はこのまま病院に戻るよ。」
「渋谷さんが病院に戻るなら私も戻ります。親といると毎回お母さんが号泣で、私まで沈んでしまうんです。それに明日は検査で親には会えるし。」
その後も何度も帰れと言われたが結局彼が折れ、私も病院に帰ることになった。
この日はなんだか自分が病気であることを少し忘れることができた。
だが次の日、私は一気に現実へと引き戻された。
「先生、どういうことですか?」
「おもったよりも病気の進行具合が早く、このままでは一年も経たないうちに…」
どうやら私の中病状は良くないらしく、予定より早く最後の日を迎えることになるかもしれないと言うのだ。
もちろんお母さんは泣いていた。
私は死が迫ってくる恐怖に押しつぶされそうだった。
ショックで涙が出なかった。
その夜、私は渋谷さんに話した。
「私、一年も持たないみたいなんです。」
「そうか。」
「またお母さん号泣してた。私も怖くて怖くて震えが止まんないや。」
「そうか。」
「渋谷さんは強くていいよね。こんなことになってもきっとあっさり受け入れられるんだろうね。私はそんなに強くないから…」
「そうか。」
「私のことなんて興味ないですよね…ごめんなさい。部屋戻りますね。」
席を立とうとした時、彼が口を開いた。
「俺はな、弁護士になりたかったんだ。」
「え?」
「だけど俺には親父がいなくてな、うちの家庭的にはとてもじゃないけど、俺が大学に行くことはできなかった。それでも弁護士になる夢を諦めきれなくてさ、バイトして金稼ぎながら必死に勉強して、10年かかってようやく今年合格したんだ。夢が叶ったって、これでようやく親孝行できるっておもった矢先にこれだよ。」
私はなにも言うことができなかった。
「全部が無駄な気がしたよ。何もかもがどうでもよくなって…そっからはこの通りだ。だから生きてる意味なんてない。どうせなら早く終わらせてほしい。そうおもってたんだけど、逆に俺は治療が順調ときたもんだ。まあ、死ぬことには変わりないけどな。」
彼の無関心の裏にこんなことがあったなんて考えもしなかった。
「お前は自分が強くないって言ってたけどな、十分強いと思うぜ。こんな状況でと親とか友達のこと考えてやれるんだからよ。」
涙がこぼれた。せき止められていたダムの水が一気に放水されるかのようにように泣いた。
「渋谷さんの残りの時間を少し私のために使ってくれませんか?私、まだまだやりたいことがたくさんあるんです。いつまで自由に体が動くかわからないですけど、元気なうちはできな勝俣こと全部やっておきたいんです。」
「暇だったらな。」
その日から私は毎日彼と過ごした。友達でも、恋人でもない 死に仲間として。それが一番楽で、病気のことを忘れることができた。
高校生らしい遊びにも付き合ってもらった。外出の時は食べたいものを食べに行たり。一時退院の時は一泊の旅行にも行った。
「渋谷さん、病気が無い常態で出会いたかったです。」
「病気がなければ27歳の俺と女子高生のお前が会うことなんてないだろ。」
「渋谷さんはなんでこんなに私のわがままに付き合ってくれるようになったんですか?。」
「暇だからな。それに今までバイトして稼いだぶん使い切ってやりたいし。」
「暇でも旅行なんて来てくれます?普通。」
「じゃあかえる。」
「ごめんなさい!冗談です!」
「子供は早く寝ろ。」
「えー、先に寝たら渋谷さんが襲って来るかもしれないじゃないですか。」
「じゃあなんで同じ部屋にしたんだよ…それにそんな事しないし、俺ももう寝るぞ。」
渋谷さんは私のわがままを全部聞いてくれるようになった。でも、彼の態度はあった時から全く変わっていなかった。
正確に言えば変えないようにしているように感じた。
「渋谷さん、起きてますか?」
「なんだ。」
「私、死ぬなら渋谷さんと一緒がいいです。」
「いきなり何を言ってんだ。」
「私。渋谷さんとこうして一緒にいる時だけ病気のこと少しだけ忘れられるんです。一人で死んで行くのはすごく怖いけど、渋谷さんも一緒だったら平気な気がするんです。だって、唯一私の気持ちがわかる人だもん。」
「馬鹿なこと言ってないで寝ろ。」
「なんでだろうね、死ぬってわかるまでこんなこと思わなかったのに…できることなら生きてこのままずっと一緒にいたいのに…それはできない。こんなことだったら、いっそ合わなければこんなこと思わなかったのかな…もう遅いけどさ。」
「そうかもな。」
病気になってから5ヶ月がたった。私の病気は徐々に進行していき、この頃になると元気に出かけられる常態ではなくなっていた。
彼もまたそれは同じようだったが進行具合の関係だろう、私の方が明らかに衰弱していた。
弱って行く自分を見るとやはり怖くてたまらなかった。それと同時に、辛さ、苦しさ、恐怖が生きていると言うことを強く実感させたのもまた事実だった。
自分だけではまともに食事も取れなくなり歩くのも困難で、私は病室から出ることがほとんどなくなった。
私は病室で一人抜け殻のようになっていた。
そんな時、私の部屋にとつぜん渋谷さんが訪れた。あの旅行からほとんど会っていなく、自ら私の部屋に訪れたこともなかったので私は驚いた。
「なんですかいきなり。」
「全然顔見せないと思ったら もういつ死んでもおかしくない状況だって聞いたからよ、死ぬ前に顔拝みに来たけど本当に死にそうな顔してんな。」
「会いに来た欲しかったんですか?」
「おまえは来て欲しくなかったって顔してるな。」
「別にそんなつもりじゃ…」
「心配しなくてももうお前がいきてるうちには会いに来ないから大丈夫だ。ただ一言礼が言いたくてな。この数ヶ月間は本当に楽しかった。ありがとな。もう2度と会うことはないだろうがせいぜい残りの命を楽しんでくれ。じゃあな」
「バタンッ」
それだけ私に伝えると、私の返事も聞かずに渋谷さんは部屋を出ていってしまった。
「おい…ほんとに言わなくて良いのかよ…」
「なんだよ聞いてたのかおっさん…良いんだよこんな俺のことなんて綺麗さっぱり忘れてった方があいつのためだ。それに今は自分のことだけ考えててほしい。変に心配されても困るしな。あんたにも世話になったな…ありがとな。」
それからさらに2週間が経ち、私の身体はとうとう一人では立てないほどに衰弱していた。
あの日以来本当に渋谷さんは私の前に姿を現さなかった。検査のために病室から出た時も姿すら見かけなかった。
ある日の検査後に車椅子で外の空気を吸っていた時、わたしは同じ向かいの女性患者二人が話しているのを聞いた。
「同じ病棟の渋谷って人いるじゃない?
あの人あんなに元気に先生や看護師に文句言ってたのに急に病状が悪化して集中治療の個室に移動したって聞いたわよ…なんでも今日か明日が山場見たいよ。」
「…それ…本当ですか?」
「え…?本当だけど…未来ちゃん一体どうしたの?そんな驚いた顔して」
「集中治療室ってどこにあるんです?!」
「三階のb塔だけど…それがどうかしたの?…ちょっと未来ちゃん?!」
なぜ私は気づけなかった…あの時私に会いに来てくれたのは私の最後をみにきたんじゃなかった。自分の命がもう残り少ないことをわかっていながら最後に会いに来てくれた。私は自分の最後ばかり見ていて彼のことなど全く考えていなかった。
気づいた時には私は車椅子を捨てて壁伝いに歩いていた。私も伝えたいことがいっぱいあった、聞きたいこともいっぱいあった。最後の力を振り絞るように彼のいる三階へと急いだ。
三階に着く頃には足の力は抜け立っていられず、這うように病室に向かった。
ようやく部屋の前に着き、私は扉を開けた。
私の目の前に現れたのは様々な機械に囲まれ他彼の姿だった。
意識は少しだがあるように見えた。
「ごめんなさい…気付けなくて。」
「なんで来たんだ…ようやくあんたのこと忘れてそろそろお迎えが来る頃だったのに…」
消えいるような声だった。
「私、あなたのおかげで生きてることが実感できた…こんな弱いに生きる道をくれたのはあなたなんです…だから…」
「違う。」
渋谷は私の言葉を遮った。
「本当に弱いのは俺なんだ…俺は死ぬことに無関心なふりをしてただけで本当はとても恐れていた…怖くて怖くて、最初の頃は人に気づかれないように声を殺して泣いてた…俺は死ぬのが怖くないわけじゃない。ただ死ぬことに向き合いたくなかった…だからかっこつけて平気なふりをして逃げていたんだよ。」
かれは続けた。
「死ぬって分かってからは誰とも関わりたくなかった…どうせ死ぬんだったら誰かと関わりをもったって辛いだけだからな…そんな時に俺はお前と出会った。
お前は俺と違って死と向き合っていて、俺と同じように死を恐れてた…なんだか本当の自分を見ているような気がしてな…他人だとは思えなかったんだ。
そこからお前と過ごした時間は俺の中でかけがえのないものになった…俺もお前と同じように一緒にいるときは病気のことを少し忘れられた。だから…助けられてたのは俺の方なんだ…弱かったのは俺だったんだ…」
彼の目には涙が浮かんでいた。
私も自然と涙がこぼれた。
私は彼の手を握った。
数分が立ち、
身体の力が抜けていくのを感じた。宙に浮くような気分だ。
彼の方を見ると既に意識はないようだ。
私は手を握ったまま目を閉じた。