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第097話 ~密室と密着~


 ルエルと二人でトイレにこもっている。魔石に二人分の魔力を流し込み、トイレに出した。

出したというか、ルエルに渡したというか、二人で一緒にトイレに入れた。


 『ケーキ入刀。夫婦で初めての共同作業です!』と、親戚の結婚式で聞いたことはあるが、ルエルとの初めての共同作業がトイレで魔石に魔力を流す行為。

この狭いトイレで二人っきりでいると、変な気持ちになってくる。早く出たい……。


「今の魔石はどこへいったんだ?」


 ルエルの話が、正確にはレポートの内容が正しければ異世界に転移したと思われるが、実際は消えてしまったのでまったくわからない。


「レポートが正しければ、恐らくユーキの世界に飛んでいるはずよ」


「確かめる方法は?」


「無いわね」


 ですよねー。でも確かに魔石は消えている。そもそも、この消滅箱に入ったものはどこに行くのだろうか?

消滅と命名しているのだから消えるのか?本当に移転しているのか?


「確かにヒントかもしれないが、これでは全く分からないな。レポートには他に何か書いてあったのか?」


「そうね、他には魔石に複数人で異なった魔力を一度に入れた後、消滅箱に入れる事とか、物理的強度のあるアイテムを入れなければとか書いてあったと思うけど、まだ詳しくは読んでないの」


 ルエルは真剣な眼差しで俺に話しかけてくる。本人は大まじめだが、俺にはルエル父の御茶目な一面が出ているとしか思えない。

 ここはトイレだ。建物の生活排水などは地下の管を通って、ここに集められ、消滅させている。

確かに魔石は消えたが、きっとレポートにはまだ他にヒントがありそうな気がした。

魔力を一度に入れた後、消滅箱に入れる。これだけ実験してみるか。


「あと一回実験をしてみてもいいか?」


「いいわよ? どうするの?」


「みんなを呼んで魔石に複数の魔力を入れ、消滅箱に入れてみる」


「それだったらすぐにできそうね」


 ルエルの了承を得て、俺は店の方にみんなを呼びに行く事にした。




ガチャ




「愛、イリッシュ、フィルいるか?」



「い、いるよ! ずっとここに居た! みんなここに居たよ!」


 愛の声がした。みんなここに居たようだ。


「ちょっと、すまないが実験に付き合ってほしい。すぐに終わる」


 三人とも俺の方を向いているが、心なしがみんなの目線がいつもと違う気がする。

どうしたのだろうか? 俺とルエルの二人でいなくなったことを気にしているのだろうか?


「分かりました。私達三人でユーキ兄と一緒に行けばいいのですね?」


「そうだ。大丈夫か?」


「……大丈夫。問題ない」


 俺は愛、イリッシュ、フィルと共にルエルの待つトイレに行く。

大人数でトイレに向かう。はたから見たら思いっきり変な光景に見えるだろう。

だがしかし、これは必要な実験だ。もうすぐ、何か掴めそうな気がする。


「ルエル、待たせたな。みんなを呼んできた」


「ごめんなさいね、付き合わせちゃって」


 ルエルは少し、申し訳なさそうに話す。



「簡単な実験だ。この極小魔石にみんなで魔力を流す。その後すぐにトイレに入れる。いいか?」


 三人は頭の上にハテナが浮かんでいるようだ。まあ、そうですよね。実験の意味が分からないと意味不明ですよね。



「えっと、実験の趣旨を説明するぞ」


 説明をしようとした時、ふいに愛が声を上げる。


「大丈夫! 説明なしで問題ない! 転移の実験でしょ? 早く実験して終わらせよう!」


 あれ? 俺説明したっけ? もしくは俺が起きる前にルエルが説明していたのかな?



「あ、ああ、そうだ。転移の実験だ。分かっているのであれば話が早いな。早速するぞ」



 みんなで狭いトイレに入る。五人も入ったらぎゅうぎゅうだ。

満員電車のように、全員が密着しており、若干身動きが取れない。

俺の右腕にルエルのバイーン。左腕にイリッシュのポイーン。

背中の方にはフィルと愛のチョイーンが。いいような、悪いような、少し蒸し暑く、肌が触れるたびに変な気分になってくる。

は、早く実験を終わらせよう。これは非常に、非常に危険だ!



「魔石を出すぞ。ルエルがオッケーの声を出したらトイレいいれる。準備はいいか?」



 俺は右手の手のひらに魔石を乗せる。

みんな指先を魔石に触れ、魔力を流し始める。俺も左での指先で魔力を流す。


 魔石が破損するギリギリのところでトイレに入れる。

タイミングが重要だ。






「……ルエル、まだか?」


「んっ、まだよ。もう少し」


「お兄ぃ、暑い。くらくらする」


「ユーキ兄。私もなんかいつもと違う気分です。何か変です」


「……ユーキ、暑い。密室にこの人数。ボクは少し不安」



 た、確かに暑しい、密着しているし、魔力を流して、みんな少しくらくらしているようだ。

俺もなんかボーっとしてきている。あれ? これってもしかけて結構まずい?


 すると、愛が俺に寄りかかってきた。


「お兄ぃ、ちょっと寄りかかる。倒れそう……」


「わ、私も少しいいですか?」


 イリッシュまで俺に寄りかかってきた。

あ、暑い。肌がくっつき、より暑さを増す。あ、俺もなんか倒れそう。


 ふっ、っと気を抜いた瞬間、ルエルに倒れ込んだ。

顔に宝双山が当たる。ああ、気持ちいい。このまま寝てしまいそうだ……。



「ユ、ユーキ! ちょ、ちょっと! みんなの前で何しているの! しっかりして!」


 はっ、と気づき体制を整える。魔石はまだ手のひらだ。危ない危ない。


「す、すまん、ちょっとくらっとした。ま、まだなのか?」


「そろそろいいかしら?」


 みんな額に汗をかき、ハァハァしてきている。早めに終わらせた方がいいな。



「いいわよ!」


 突然ルエルが大きな声を出し、みんなハッとする。

俺は急いで魔石をトイレに入れた。




バヒューーーーン!




 魔石は七色に輝き、消えて行った。

さっきと少し違う反応だ。複数人数の魔力を入れた魔石だと、反応が変わった。

という事は、レポートは正しいという事だ。


「み、みんな実験は終わりだ。ここを出よう」


 みんな汗だくになり、トイレから出る。廊下は涼しい。最高だ!

俺も汗をかいているが、俺以外のみんなも汗だくだ。

狭い密室にこの人数は無しだな。次回は気を付けなければ……。


「ユーキ、実験は終わりでいいかしら? さすがに私も疲れたわ」


「お、お兄ぃ。体が火照って、私もうダメかも……」


 愛はかれそうな声で訴えかけてくる。


「ユーキ兄。私も、ちょっときついです」


「……ボクも汗だく。ちょっと体がペタペタする」


 ペタペタなのはフィルの胸だな、と思いつつ体を流したい気持ちもわかる。


「ちょっと体を流すか。俺はあとでいいから、みんな先に汗を拭いてきたらいい」


「そうね、さすがにこの状態で一日過ごすのは気分が悪いわね」


 ルエルが沐浴の準備を始める。俺はあとで入る事にして、ちょっと気になるところを先に確認しておくか。


「ルエル。みんなで先に入っていてくれ。俺はあとでいい。その間にレポートの続きを見たい。レポートはどこにある?」


「私の部屋の机の上に置きっぱなしよ。黄色の付箋があるからそのページを見て」


「分かった。沐浴が終わったら声をかけてくれ。店か実験室にいる」


 ルエル達はみんなで着替えとタオルを持ち、洗面所に移動し始める。

そうだ、フィルに制服を渡さないとね。


「ルエル、沐浴後はみんな制服を着るのか?」


「その予定だけど?」


「だったらフィルに制服を渡しておきたい。昨日買っておいた」

 

 俺は急いで店舗に置きっぱなしにしておいたフィルの制服を持ってくる。


「じゃぁ、またあとでな」


 俺店に戻ろうとした時、フィルが声をかけてくる。


「……ユーキ、ボクにも制服あるの?」


「もちろん。あるに決まっているだろ。フィルもこの店の一員だからな!」


「そうだよ! フィルも同じ仲間だよ!」


「そうです。おそろいの制服は可愛いですよ!」


 フィルは少しニコニコしながら、洗面所に向かう。

気に入ってくれるといいのだが……。



 みんな沐浴をしに洗面所に行った。

俺は二階に行き、レポートを手にする。

実験は恐らく成功している。でも、何かが違う。

そもそも、異次元に転移できるとしても人が入れる大きさではない。

何かからくりがあるはず。このレポートには恐らく実験結果も書いてあるだろう。


 もう少し、もう少しだ。


 階段を下りながらレポートをめくる。

廊下の奥から、きゃっきゃうふふな声が聞こえてくる。


 少女四人の沐浴。スッポンポンが四人。秘密の花園。

だがしかし、俺は集中しレポートを読む! 俺は鉄の心を持っている!

この誘惑に、負けはしない! と思う……。



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