表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/142

第096話 ~開店準備と固いもの~

今回は妹、愛の視点でお送りいたします。


 お兄ぃはルエルさんと二人でどこかに行ってしまった。

今回はしっかりと話を聞いたつもり。

きっと、元の世界に帰る何かが、あっちの部屋にあると思う。


 でも、ルエルさんはお兄ぃだけを連れて行った。

きっと、私たちが行ったら何か問題になるのかもしれない。


……。


 気になる。すごく気になる。もーれつに気になってしょうがない。

行きたい。すぐに行きたい。行かせてほしい。行ってもいいかな? いいよね?



「イリッシュちゃん、フィル。これからどうする?」


 私は二人に話しかける。もしかしたらこの二人も同じことを考えているかもしれない。

一人だけ抜け駆けするのは良くないよね? みんな平等に行かないと。

でも、頭では分かっていても、体と心が……。



「どうしましょうか? 戻って来るまでここに居ますか?」


 イリッシュちゃんは普通に話してくる。動揺もしてないようだ。

紅茶を飲んでいるイリッシュちゃんはこんな状況でも落ち着いて、ちょっと大人に見える。


「……ボクは特に何も。二人ともここに居るのであれば、ボクもいるよ」


 フィルまで大人っぽい態度をしている。もしかしたら精神年齢は私が一番下なのでは? と疑ってしまう。

果物を口に入れ、ほっぺたが膨らんでいるフィルはちょっとかわいい。


 私は今すぐにでも二人の後を追いたい。でも、ここで一人だけ行きたいと言えない。

どうしよう。行きたいのに……。



キュピーン



 頭の上で電球が光った気がした。

いい事思いついた。これなら問題なく二人の後を追える!



 私は二人に提案する。


「ねぇ。いつ戻ってくるかわからないから、開店準備でもしてようか?」


 イリッシュちゃんとフィルを見ながら私は提案する。

もし、ここで二人が話に乗ってくれば、私は倉庫に行くふりをして堂々とお兄ぃを追える。


「そうですね。開店準備もまだ終わっていないですし、先に準備しておきましょう」


「……アイ、名案。早めに準備することは悪くない」


 乗ってきた。いい感じに乗って来たね。


「よし、じゃぁ私は今日必要になる販売品を倉庫から持ってくるね」


 これでオッケー! 早く二人を追わないと!


「じゃぁ、私は倉庫から掃除道具持ってきて、店の掃除しますね」


 あれ? それじゃだめだよ。

お兄ぃ達は倉庫に行く廊下に行ったんだよ?



「……ボクは倉庫の裏口から工房にアイテムを取りに行く。売れるものが確かあったはず」



 あれ? それじゃだめだよ。

お兄ぃ達は倉庫に行く廊下に行ったんだよ?



 これはもしかして、もしかする?



「二人とも、一応確認ね。良く聞いてね」



 イリッシュちゃんもフィルも私を見て頷く。



「二人ともルエルさんとお兄ぃが気になるの?」




 イリッシュちゃんもフィルも顔が少しニヤつく。

そして、互いに視線を躱し、三人で廊下の扉に向かって歩み寄る。


 言葉はいらない。みんな同じ気持ちだから。


 私は二人に小声で話す


「音出さないように、静かに歩いてね。なるべく声も、息も殺して……」


 二人とも私を見て頷く。こそーりこそーり歩く。


 廊下の扉をゆっくり開け、中を覗く。

あれ? 誰もいない。おかしいな、さっき二人はここに入って行ったのに。

倉庫の方に行ったのかな?


 私はゆっくり、こっそり、そろーり進んでいく。

後ろにはイリッシュちゃんとフィルがいる。

同じようにコソーリ歩いていく。



 ドキドキドキ……



 廊下を進んでいくと少しだけ声が聞こえる。

トイレだ。二人はなぜかトイレにいる。

なんで二人で入っているの? ナニしているの?


 私はトイレの扉前まできて、耳を傾ける。

イリッシュちゃんも耳をピコピコして、何か聞いているようだ。

フィルは私の隣で、トイレの扉にがっちりと耳を付けている。

遠慮がないのね……。



 そして、中から声が聞こえてくる。




「ユーキ、早く出して」


「ちょっと、待てって。ここで出すのか?」


「そうよ。ユーキしか持っていないでしょ?」


「確かに俺しか持っていないが……」


「だったら早く出して」


「分かったよ。 ん? こんなんじゃ無理だな」


「ちょっと、私にやらせて……。ん、か固い」


「そんなに強くしたら、余計に固くなっちゃうだろ」


「もう少し、ここを、こうして……。ユーキ、すごく固いわ」


「だから言ったじゃないか。俺がやるよ」


「ユーキの力でやるの? 余計に固くならない?」


「多分大丈夫。ほら、ここをこうしてやると、んっ! ほらできた」


「すごい、ユーキはうまいわね。中がしっかり見えてるわ」


「じゃぁ、あとはルエルに任せていいのか?」


「いいわよ。あとは私に任せて」



 ……。えっと、二人でナニしてるんだろう?

ちょっと、ドキドキしちゃう。


 イリッシュちゃんは……。あ、ダメだ。完全にのぼせてる。

顔を真っ赤にして耳がペタンとしている。これはこれで可愛い。


 フィルは……。目を閉じ、耳を扉にあて、真剣に聞いているみたいだ。

一体何を考えているのだろうか? 鼻息も心なしか荒くなっている気がする。



 ここで何かあれば、私は扉を破るよ。

いいよね、お兄ぃ……。



「ルエル、これでいいのか?」


「いいけど、思ったより小さいわね」


「でも、普通はこんなもんだぞ?」


 お兄ぃの小さいの? そうなの? 一般的なの?


「私の知っているのは、もう少し大きくて固かったわ」


「でも、これだって使えるぞ? ちょっと力不足かもしれないが、しっかり機能すると思う」


 お、お兄ぃのは力不足だけど使えるのね。だったら多分大丈夫。

私は大きさなんて気にしないから!


「じゃぁ、これを使うわね」


「ああ、ここでいいか?」


「そのまま動かないでね。いくわよ……」


「ル、ルエル。そんなに力を入れて、大丈夫か?」


「大丈夫よ。この位力を入れないと、きっと役に立たないわ」


「あまり無理するなよ。ちょ、そ、そんなに急に擦るな、熱くなる」


「擦った方がいいわ。ほら、ユーキもしっかり力を入れて」


「わ、わかった。んっ、こ、この位でいいか?」


「いいわ。いい感じよ。もっと早く擦るわね」


「そ、それ以上早くこするな、だ、だめだって……」


「んっ、んっ……、そ、ろそろいいかしら? もう出そう?」


 で、出そうって何が出そう何ですか!

お兄ぃ! まだ朝だよ! 今日は今から始まるんだよ!

ここで出していいのですか! というか、そろそろ止めた方がいいのかな?


「そ、そろそろだ、一気に出すぞ! ルエル、しっかり受け止めてくれよ!!」


「いいわよ、そのまま出して!」


「いくぞぉ!」


「いいわよ!」


 よくないよー! ここに、外に三人いるよー。

きっと、イリッシュちゃんもフィルも、まぁ私もだけど大変な事になってるよー。




バヒュゥーン……。




 変な音が聞こえた。

え? 何の音? 今の音、何があったの?




「ルエル、成功か?」


「分からないわ。でも、魔力を流しこんだ魔石は確かにここに投げ入れて消えたわ」


「でも、俺が魔石を巾着に入れているって良く知っていたな」


「ふふっ、私はユーキの事なら何でも分かるのよ。でも、紐は変えた方がいいわね。固くてほどけないわ」


「そうだな、あとでイリッシュに交換してもらおうかな。ちなみに、魔石に魔力を入れる時は擦った方がいいのか?」


「気分の問題ね。集中していれば指先だけでも問題無いと思うわ」


「だったら擦るなよ。支える方だって、結構疲れるんだぞ」


「気にしないで。私は大丈夫よ」


「いやいや、俺の方だよ……」


「それで、レポートにはね。トイレに使っている『消滅箱』がヒントだって」


「『消滅箱』がなぜヒントなんだ?」


「もし、これが『消滅』ではなく『転移』しかも、『この世界ではないどこかに転移』だったらどう?」


 ふ、二人とも真面目に話をしているね。

大丈夫だね。私は二人を信用しているから、何の心配もしていないよ。

今回だって、たまたま倉庫に行く途中だけだったし。


 私は静かにイリッシュちゃんとフィルにジェスチャーで『店に戻れ』という。

コソーリ、ゆくーり、さささと店に戻る。


 みんな元の席に座り、お茶を飲む。


 ふぅ……。


「お茶、おいしいね!」


「そうですね! おいしいですね!」


「……ん、おいしい」



 お兄ぃの事、信じてるよ!

でも、あまり私に心配かけないでねっ!



次回より主人公視点に戻ります。

たまにはルエル視点やイリッシュ視点もしてみたいような気が。

してほしい! という読者の方がいらっしゃいましたらお知らせください。


あ、ランキングのクリックも合わせてお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当作品の評価&感想は最新話の最下部より可能です!
是非よろしくお願いいたします。


↓小説家になろう 勝手 にランキング参加中!是非清き一票を↓
清き一票をクリックで投票する
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ