第095話 ~転移とポイント~
食事も進み、食後のデザートの時間になる。
ルエルとイリッシュが果物と紅茶を持ってくる。
「ユーキとアイには今からレポートの話をしようと思うのだけど、二人は席を外す?」
ルエルはイリッシュとフィルに問いかける。
俺と愛が元の世界に帰るヒントとなる話だ。
二人には関係ないと言えば、関係ない話になるのか?
「私は出来れば一緒に聞いておきたいです」
「……ボクも」
イリッシュとフィルは俺の方を見ながら目で訴えている。
そんなに聞きたいのか? 多分つまらない話になると思うのだが。
「ルエル、この二人に聞かれても問題ないか?」
ルエルは少し困った顔でイリッシュとフィルを見る。
「聞いてもいいけど、絶対に他の人には話さないと誓える?」
その前ふりをするという事は、話されたらまずい事があるのですね。
まぁ、この二人なら大丈夫だと思うが、いったいどんな内容なんだ?
「大丈夫です。口が裂けても話しません」
「……問題無い」
愛はさっき方果物をじーっと見ている。
なんだ、そんなに食べたいのか?
「愛、食べてていいぞ。でも、話は絶対に聞いておくんだぞ」
「さっすがお兄ぃ。話さなくても、私の気持ちがしっかりわかっているね!」
愛は果物を食べながら話を聞くようだ。
「ルエル、話し始める前に一つ頼みたいことがある」
「何かしら?」
「簡潔に。要点をまとめ、簡潔に話してほしい」
ルエルの話は過去に何回か聞いたが、長い。
熱が入ると本当に長い。念を入れても長い。
「分かったわ。簡潔に話すわね。紅茶が冷めてしまうわ。いただきましょう」
ルエルの淹れる紅茶はおいしいんだよね。
いい香りもするし、喉にスゥーっと入ってくる感じ。
店でも提供しているが、もっとたくさんの人にこのおいしさを知ってもらいたいものだ。
イリッシュもフィルも紅茶を飲みながら果物を食べ始める。
俺も赤い果物を手に取り、食べる。甘い香りと一緒に口に少し甘酸っぱい味が広がる。
桃に近い味だが、食べごたえはリンゴに近い。不思議な感じがする。
「ユーキ。この世界に転移する時、どうやって転移したかわかる?」
ルエルの質問に対する回答はいたって単純。俺も、愛も掃除用具入れから転移した。
恐らくこれは間違いないと思う。しかも、原因となるアイテムも特定されている。
「ああ、絶対とは言い切れないが心当たりはある」
「そう、もしかしたらこっちから元の世界に転移できるかもしれないわ」
ドクン
鼓動が高鳴る。なんだって? そんなに簡単に答えが出たのか?
ヒントというより、もろ答えじゃないか。
「詳しく話してくれ」
俺は真剣な目でルエルを見る。交差する目線。お互いに見つめ合う。
さっきの件もあり、ちょっと照れたりもする。
「詳しく話していいのね?」
「ストーーップ! やっぱり簡潔にお願いします!」
ルエルは微笑みながら俺に話す。
「ふふっ、ユーキは単純ね。予想通りの回答だわ」
単純で悪かったな! ルエルの話が長いからだよ!
「悪かったな。簡潔にお願いします」
イリッシュもフィルも真剣に聞いている。
愛はどうだ? 果物を食べながら紅茶を飲み、あさっての方を見て、何かニヤニヤしている。
ちょっとイラっとしたので、頬をつねる。えいっ!
「い、痛い! なにするのお兄ぃ。痛いよ?」
「愛、ルエルの話聞いてるか?」
愛は俺の方を向き、グッドサインを出す。
満面の笑顔だ。絶対に聞いていなかっただろう。
「頼むから、話をきちんと最後まで聞いてくれ。大切な話だぞ?」
「だいじょーぶ! お兄ぃがしっかりと聞いてるから!」
……。
「ルエル、続けてくれ」
俺がしっかりしていればいい事。愛にはあまり負担かけたくないしな!
と、自分に言い聞かせる。
「レポートによると、異世界転移は可能。実験も成功したと書いてあるわ」
ルエルの話を聞くと、どうやらこっちから異世界へ行くゲートを作るのは不可能に近いらしい。
でも、異世界からこちらの世界にゲートを繋げることは可能かもしれないと。
この世界に繋がるように作ったゲートを異世界に送り込み、異世界人にゲートを設置してもらう。
その後、扉を開けてもらえば異次元空間を経由し、この世界へと転移できるらしい。
転移用のゲートは作成。このゲートを異世界にどう送り込むか。
今回のポイントはここ。この異世界に送り込む方法がわかれば、帰れるかも。
「ルエル、異世界へ送り込むポイントのようなものはあるのか?」
「あるわ」
「そうか……。そのポイントに行くにはどうしたらいい?」
海の向こうか、山の頂上か、迷宮の地下深くか。
どこに存在していても、行くには相当困難する事だろう。
そんなところに俺と愛は二人で行けるのだろうか?
問題はポイントについても、元の世界に帰れるか保証が無い事だ。
ポイントについて『帰るよー、あ、間違って死んじゃった、えへ』何てことになったら大変だ。
「ポイントに行くのね?」
「ああ。とりあえず、場所を知っておきたい。詳しい場所はわかるのか?」
ルエルはコクリと頷く。そして、ゆっくりと人差し指を突出し、後ろの方を指さす。
ルエルの指さす方向に、ポイントがあるのか。
「どのくらいで着くのかわかるか?」
ルエルは俺に向かって、手のひらを出す。
じゃんけん『パー』ということは5日間かかると言う事かな?
結構遠いな……。馬車や馬が必要になるかも。
「私が案内するわ」
「そこまで世話になれない」
「大丈夫。最後まで案内させて」
ルエルの表情は少し険しい。きっと、最後まで俺と一緒に居たいんだな!
可愛いやつめ! しょうがないな! 今回だけだぞ!
「分かった。一緒に行こう」
おもむろにルエルが席を立つ。
なんだ? 何かあるのか?
「ユーキ。こっちに来て」
ルエルは席を立ち、後ろの扉を開け、廊下を進んでいく。
「ちょ、ちょっと待て!」
あわてて俺も席を立ち、ルエルの後を追う。
一体どこに行くんだ? 何か便利アイテムでもあるのか?
ルエルはトイレに入っていく。
なぜ俺を呼んだ? トイレに行くなら一人でいいだろ?
なんだ、あれか? つれしょんってやつか?
流石に異性では無理でしょ?
え?お、俺もトイレに入らないとダメなの?
ルエルは手招きし、俺をトイレの中に入るように誘っている。
ルエル、それ本気? 一緒にトイレに入るの?
「ユーキ。早く入って。ちょっと狭いけど我慢してね」
あ、やっぱり俺も入るんですね?
「一つ聞かせてくれ」
「何かしら?」
俺はトイレに入っているルエルとべったりくっつきながら問いかける。
む、胸が当たる……。これはこれで、いいのかもしれないが。
「なぜトイレに?」
ルエルはにっこりしながら口を開く。
「ここがポイントよ」




