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第094話 ~目隠しと拷問~


 目の前には食事をとる少女が四人。

愛、ルエル、イリッシュ、フィル。

四人が皆、俺を見ている。誰も口を開かずこちらを見ている。

俺が話し始めるのを待っているのだろう。


 いいだろう。俺も腹をくくろう。


「皆に伝えたいことがある。一人一人話すから、最後まで聞いてほしい」


 俺は席を立ち、フィルの隣に移動する。

片膝をつき両手で、フィルの小さな手を握る。


「初めにフィル。昨夜は本当にすまなかった。言い訳はしない。フィルは性格がさばさばしていて、いつでも落ち着いているな。自分の夢も持っているし、努力もしている。一緒にいると安らぐ。もし、俺と一緒になったら、二人で加治屋をしながら、楽しい時間を過ごせると思う。まぁ、掃除は一緒にしような」


「……ユーキ。そんなこと言われると照れる」


 フィルから一言言われ、俺はすぐに立ち上がる。

そしてイリッシュの隣に移動し、片膝をつき、華奢な手を握る。


「イリッシュ。イリッシュと一緒に過ごす事ができて本当に嬉しいよ。一緒にいると楽しいし、勉強になる。イリッシュには幸せになってほしいと、心から願うよ。もし、俺と一緒になったら、毎日が幸せだと思う。料理は一緒に頑張ろうな」


「ユーキ兄。急にそんな事言われても……」


 イリッシュは頬を赤くし、もじもじしながら尻尾をブンブンしている。

次にルエルの隣にへ移動し、同じように片膝をつき、白魚のような手を握る。


「ルエル。こんな俺を受け入れてくれて本当に感謝している。ルエルがいなければきっと俺はこの世界で死んでいたと思う。この恩は絶対に忘れない。もし、一緒になる事ができればお店を一緒にしたいな。でも、ナイフを投げるのは控えてほしい」


「ユーキ……。改まってどうしたの? 何か変なものでも食べた?」


 ルエルは少し悲しそうな表情で俺に話しかける。

冷たい目線ではなく、家族を見るような温かい目だ。



最後に愛の隣に移動し、同じように片膝をつき、両手を握る。


「愛。俺は、愛の事を世界中で一番大切に想っている。世界中全てを敵に回しても、愛だけは俺が絶対に守ってみせる。だから、心配するな。一緒に帰ろう。でも、本気のグーパンは無しな」


「お兄ぃ……。わ、私も一番お兄ぃを大切に想っているよ! お父さんよりもお母さんよりも、世界中の誰よりも!」


 愛は半泣きになりながら俺に話している。

俺ももらい泣きしてしまいそうだ。

そもそも、俺が余計な事をしなければ、この世界に来ることもなかった。

全部俺の責任だ。絶対に、愛だけでも元の世界に帰さなければ……。


「ユーキ、言いたいことは終わった?」


 ルエルが俺に話しかけてくる。

さっきと表情が違い、少し怖い。

良く見ると、イリッシュもフィルも険しい表情になっている。


「ああ、俺の気持ちは伝えた。種族の誓いや掟などいろいろあると思う。俺はみんなに求婚してしまった立場だ。言い訳はしない。煮るなり焼くなりどうとでもしてくれ。反撃はしない」


随分潔(いさぎよ)いのね。感心するわ。じゃぁ、そこに座って」


 用意された椅子に座る。普通の椅子で拷問器具ではないようだ。

短い人生だったな。できれば畳の上で、それも老衰で逝きたかった。

父さん、母さん先立つ不孝をお許しください。

まさかこんな事になるとは、夢にも思いませんでした。


「ルエル。最後に一つだけ、頼みがある」


「何かしら?」


「愛をなんとか元の世界に帰してやってくれ」


「努力はするわ」


「そうか。これで安心して逝けるな……」


 俺は椅子に座らされ、周りを四神少女に囲まれる。

玄武のフィル。百虎のイリッシュ。青龍のルエル。朱雀の愛。

四面楚歌とはまさにこのことだな。



「ユーキ兄。ありがとうございました」


「……ユーキ。ボクを女の子として見てくれて感謝する」


「お兄ぃ。何も心配いらないよ。すぐに終わるから」


「ユーキ。心の準備はいい?」


 俺は目を閉じ、腹をくくった。


「ああ。いつでもいいぞ」


「じゃぁ、目隠しするわね」


 え? 目隠し。そうか、最後は暗闇の中で逝くのか。

それも悪くないな。俺にはお似合いだ。ばーちゃん、そろそろ行くよ。



 目隠しされた俺は、ドキドキしながらその時を待つ。



「みんな、ここは年功序列。私からでいいかしら?」


「私は最後でいいよ。ルエルさん先にどうぞ」


「では、ルエ姉の次に私が」


「……その次はボクだね」




ドキドキドキ




「ユーキ。しっかり味わってね。いくわよ……」





ドキドキドキ






 おぉう! びっくりした!

俺の両頬に手が添えられた。


な、何だ? 俺はこれから何をされる?

口を裂けられるのか! も、もう少し柔らかい拷問にしてぇぇぇ!






と、思ったら唇に唇の感触が伝わってくる。






「んっ……」





 ルエルの吐息が少しだけ聞こえる。



 はい? ちょっと、何してるんですかぁー!




「んー! んー!」




 俺は完全に口をふさがれ、言葉を出せない。

キスの時は息を止めるってマニュアルに書いてあった。

い、息が……。



「……ぷはぁーー! ル、ルエル! 何してるん! ちょ、皆いるんだろ! 止めに!」



 話している最中に、再チューされた。

こ、この手はイリッシュか!

い、息が……。




「ん……」



 イリッシュの声も少しだけ聞こえた。

み、見えない分なんかすごいことになっていそう!

これはまずい!息もできないが、他もまずい!



「んはぁ……」



 俺の唇からイリッシュの唇が離れる。



「お、ちょっと待って! な、何でこんな事に! あ、愛! 愛は!」



と、話しているのに頭を抱え込まれる。

今度は誰だ? この感触はフィルか!




「ハムッ……」



 ちょーーっと! ハムって! 俺の唇持っていかないでーー!



「ん……」




 フィルも息を止め、俺と口づけをしている。

あ、愛はここに居るのか? いたら何とかしてくれ!



やっと、唇が解放された。

こ、これは何という拷問。まったく予想していなかった。



「お兄ぃ。あいさつ代わりにキスをする国があるって知ってる?」



 おいおい。まさか、お前もか! 一線越えたら戻れなくなるぞ!



「ま、待て! 良く考えろ! 愛は、俺の!」



 俺の頬に温かい手が添えられる。

愛の手は暖かい。なぜか落ち着く、何故だろう……。




「ん……」





 やった。やってしまった? やられてしまった?

越えてはいけない線を越えたよ。どうするのさこれから?

でも、本音を言うと心地よい。落ち着く。なぜだ?




「ん、ふぅー。 ……お兄ぃのバカ」



 目隠しで見えない分、今の状況はわからない。

みんなどんな表情なんだ?

いや、それよりもなぜみんなの前でちゅっちゅしなければならない?




「ユーキ。みんな、あなたの事が好きよ。貴方を独占することはできない。でも、これでみんなの気持ち伝わったかしら?」


「そ、そうか……。好きと言われると、照れるな……」


 俺は今どんな表情になっている?

顔は赤くなっているのか? 鼻の下は伸びていないのか?

鼻水出ていないか? テントは張っていないのか? 

お願い! 早く目隠し取らせて!


「さっきの。お兄ィの言葉もなかなかだったよ」


「ユーキ兄の言葉、私も照れましたよ?」


「……ボクも。あんなこと言われたこと無かった」



 目隠しがとられ、みんなを直視する。

おっと、全員テレテレモードだ。これはこれでなかなか……。



「すまないな。みんなを巻き込んでしまって」



「そんな事無いわ。ユーキがいると、みんな幸せよ」



 微笑む少女たちは、本心でそのように思っているのか?

愛は、愛は本当にいいのか? この後俺達は帰るんだぞ?



「これで、ひと段落したね! まったくお兄ぃは……」


「……ごはん続き食べる。まだ途中」


「ユーキ兄も食べますよね?」


「ユーキ、ご飯は楽しく食べましょう」


 そうだな。みんなで楽しい食事をしたいな。


「ああ、俺もお腹がすいた」



 みんな、元の席に戻り、俺の拷問? 時間は終わった。

食事をとりながら、さっきあった事などまるで何もなかったかのように会話が進む。


……。


なぜ、普通に食事ができる?

俺は手が震えながら、フォークもカタカタ音を出しながら食事をしているのに。



「ユーキ、食事しながらでいいから聞いて」


「ん? どうした?」


「昨日のレポートの事、話しておきたいの」



 そうだ、帰るヒントがあるって言っていたな。

吉とでるか凶と出るか……。


「ああ。分かった、話してくれ。愛もしっかり聞いておいてくれ」


「おっけー! 今回は起きたばっかりだし、寝ないよ!」


 ルエルはレポートのヒントを俺達に話し始める。



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