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第093話 ~朝食と想い~


「ユーキ兄は朝から大胆ですね」


 俺に押し倒されたイリッシュはゆっくり立ち上がり、俺の方を見る。

少し乱れた服を直しながら俺に歩み寄ってくる。


「すまん! ちょっと出かけてくる!」


 イリッシュの横をダッシュで駆け抜け、服を着ながら階段を三段抜かしで駆け降りる。


 一階に降りた俺は真っ直ぐに店舗の入り口を目指す。


「ユーキどうしたの? そんなにあわてて」


 ルエルがカウンターの中で朝食の準備をしているのが見えた。

テーブルには料理もほとんどそろっており、とてもおいしそうだ。


 だがしかし! 俺は旅立たねばならぬ。

正直なところ、頭の中で処理しきれていない。

一度落ち着き、ゆっくり考えたいんだ!


「ルエル、すまん! 急用だ! 今すぐ出かけてくる!」


 ナイフ、ランプをカバンに詰めこんで。

今、旅立とう。空に浮かぶ城を探しに……。


 後数歩で外に出られる!

と、言うところで、後ろの方で誰かが何かを叫んだ。


「ルエルさん! お兄ぃを止めて! 絶対に外に出しちゃダメ!」


「ルエ姉! ユーキ兄を捕まえて下さい!」


 よ、余計な事を! 俺は二人の叫び声を後ろに扉のノブに手をかける。

行ける! これで俺は自由の身だ!


「ユーキ、ごめんなさい! 『風の聖霊よ、我に力を与えん。ウインドプリズン!』」


 ルエル! この場で魔法か! だが、俺は行かなければならないんだ!

目に見えない何かに行く手を遮られ、前に進めない。

こ、このぉ! 無理やり進もうとすると何かの力で押しも戻された。

あ、あと一歩なのに! ここで捕まってたまるかぁ!


 などどしている間に、後ろには皆がそろってしまった。


「ルエルさん、解除しても平気だよ。あとは私が力ずくで連れ戻すから」


「ありがとうございました。ルエ姉の魔法は素晴らしいですね」


「……ユーキ。諦める」


 ち、ちくしょーー! お、俺の命もここまでか……。


「ユーキ、ごめんなさい。理由もわからず、引きとめてしまったわね。でも、どうせまた何かしたんでしょ?」


 はい。まぁ、事故と言えば事故なんですがね。

でも、不可抗力でもあるよね?


 俺は愛に首根っこを引っ張られ、連れて行かれる。

あぁ、愛。苦しいよ。そんなに強く引っ張らなくてもいいよ?

この状況になったら逃げられないんだからさ。



「お兄ぃはそこに座る」


 朝ごはんの並んだテーブルを横目に、昨日と同じ椅子にちょこんと座る。

皆も席につき、イリッシュがコップに飲み物を注ぎ始める。


「さて、お兄ぃ。色々と話を聞かないといけないと思いますが」


「朝食を取りながら、ユーキ兄の話を聞きましょう」


「……温かスープが一番おいしい。さっきの件は別に考える」


「えっと、みんなとユーキの間に何かあったのかしら?」


 一人ハテナマークを出しているルエルが問いかける。

昨日買ってきたパンもほのかに温かく、スープ、サラダ、炒め物など色々とそろっている。

確かに、温かい食事が一番ですよ。でも、食事する時は楽しい話をしたいですよね?


「あったと言えば、少しばかりな……」


 愛、イリッシュ、フィルの順に顔を見ていく。

怒ってはいないよね? グーパンも来なかったし。


「お兄ぃ、食べながら話そうか?」


「ああ、俺は構わないが、皆はいいのか?」


「私は別に問題ないわよ? イリッシュとフィルは?」


「平気です。ユーキ兄が逃げなければ。でも、今度逃げたら身体強化してでも止めに入ります」


「……ボクも問題ない。お腹すいた」


「じゃぁ食べよう! 私もお腹すいたし! いただきます!」


「「「「いただきまーす」」」」


 とは言っても、俺は料理に手を付けない。

正確には、つけてはいけない気がする。


「ユーキ、いったい何があったの? 様子が変よ?」


 サラダをフォークで刺しながらルエルは俺に聞いてくる。

皆もそれぞれ食事を進めているが、俺は無理だな。

何も喉を通らない気がする。


「どこから話せばいいのか……」


「モグモグ……、ありのまま話せば?」


 愛はパンを食べながら俺に話しかけてくる。

ありのままの。どこかで聞いたセリフだ。

ありのー、ままをー話したらここは血の海になるんじゃないか?

言葉の選択を誤ったら、死につながる可能性がある。

昨日の夜も同じ感じだった気がする。


「いいか、簡潔に話すぞ。愛に好きだと言われ、気が動転し、イリッシュを押し倒して口づけしてしまった」




ピキ





 空気が固まり、時が止まる。




『ザ・コールド! 時よ止まれ!』




――俺はそんな力使っていない。

しかし、皆、微動だにしない。本当に時間が止まってたり……。



 体感で五秒経過した。



「わ、私は!」


 イリッシュが声を上げる。頬を少し赤くし、潤んだ瞳で俺を見てくる。

同時に、空気も時間も元に戻ったようだ。

この能力はイリッシュが発動させたのか? まー、そんなわけないか。


「私は、大丈夫です。気にしてません。ユーキ兄だったから大丈夫です」


 俺だったから。他の奴だったらダメで、俺だったからいいと。

そのように捕えていいのですね? イリッシュさん。


「……イリッシュもユーキが好き?」


 わっふ。フィルさん、今回も直球ですね! ど真ん中ストライクですよ!

もう少し、言い回しを覚えた方がいいかな!



「好きです。命の恩人でもありますし、死ぬまで添い遂げたいと思ってます」


 おぉ。はっきりと言った。素晴らしい。俺にはまねできない。

ここまで清らかで真っ直ぐな心を持っているイリッシュは本当にいい子だな。

是非、幸せになってほしい。


「イリッシュちゃん。お兄ぃの事好きなの? この世界の人じゃないんだよ?」


 愛もすぐにイリッシュに問いかける。

愛の表情は険しくなく。どちらかというと悲しげな表情だ。


「それでも、好きです。もし、この世界に残れるのであれば、一緒になります」


「ちょっと待って。私もユーキの事想っているのだけど?」


 おーーと! ここでルエルさんも参加してきた!

さらに話がややこしくなる! 俺はそろそろ退場したいぞ!


「……ルエルもユーキの事を? じゃぁ、ボクも」


 おーーと! ここでフィルも参加してきた!

さらにさらに話がややこしくなる! 俺はついで扱いか!



「えっと、お兄ぃ。この状況って理解してる? 」

 


 みんな俺を見ている。



 逃げちゃだめだ

 逃げちゃだめだ

 逃げちゃだめだ

 逃げちゃだめだ

 逃げちゃだめだ

 逃げちゃだめだ



 男勇樹、十八歳。ここは男を見せるべきですよね!



「ああ、理解している。」


 次の言葉に詰まる。どう話したらいいのか……


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