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第092話 ~恋とアタック~


 まだ空が薄らと赤みを帯びている。そんな時間、愛に無理やり起こされた。

まだ眠い。すごく眠い。昨日はなんだかんだで遅かったし、魔力も結構使ったっぽいからな。


「もう少しだけ寝ていいかな? まだみんな寝てるだろ?」


 少し寝ぼけた声で愛に話しかける。


「もうみんな起きてるよ。ルエルさんはご飯の準備。イリッシュちゃんはお店の掃除。フィルは工房の準備している」


 なんだと……。なんでみんな朝早いんだ? ここはゆっくり起きたかった。

昨日の夜は疲れたんだよね、色々として。


「そうか、じゃあ俺も起きるか」


 仕方なくベッドから降りる。えっと、着替えはどこだ?

おかしいな、たしか椅子にかけた気がするのに。


「お兄ぃ。探し物はこれ?」


 愛の指差す所には綺麗に畳まれた制服がある。


「ああ、それだ」


 制服がある机まで歩き、上半身裸になる。


「お、お兄ぃ。急に脱がないでよ!」


 少し目線をずらし、そっぽを向いている。

でも、瞳だけたまに俺を見ているのは知らない事にしよう。


「気にするな。減るものでもない。それとも何か? 俺の裸には興味がないと?」


「きょ、興味無い! 全く無い! お兄ぃの裸は見慣れてるし、大丈夫!」


 顔が赤くなっている愛は、少し挙動不審になっている。

手をもじもじさせ、女の子らしく振舞っている。愛らしくないな……。


「着替えもすぐに終わるら、一緒に下に行くか」


「い、一緒に行ってもいいけど、一つだけ質問していい?」


 愛は急に真面目なトーンの声で俺に話しかけてきた。

赤みがあった顔も、普通になっており、真剣な眼差しだ。


「なんだ? そんな真剣な顔で」


「お兄ぃは誰に服を畳んでもらったの? お兄ぃは自分で畳まない。いつもまとめて椅子に掛けるから。誰に、いつ畳んでもらったの?」


 え? 確かに畳まれていたが、いつからあったんだろう? 全く覚えていない。

確か、昨日は風呂に入った後、どたばたして、自分の服はバックと一緒にまとめて持ってきて、適当に椅子にかけた気が……。


「えっと、ちょっと覚えてないな。部屋には昨日の夜イリッシュとルエルが来たが、畳んだかは覚えていない」


 愛の目が鋭くなる。ちょっと怖い。俺は何かまずいことを言ったのかな?


「昨日の夜、イリッシュちゃんとルエルさんが来たんだ。へー、それで?」


「べ、別に(やま)しい事はない。ちょっと三途の川を見て、おなかさすって、実験して、少し話し込んだだけだ」


 俺は間違った事を言ってないよね? でも、上半身裸のまま話を続けるのもちょっとね。服着ていいかな?


「お兄ぃ、私の事をほっといて……。なんで私も誘ってくれなかったの?」


「誘うも何も、イリッシュもルエルも俺から誘っていない。二人が俺に会いに来たんだぞ?」


 愛はジト目で俺を見てくる。激しく、疑いの目だ。


「ふーん。お兄ぃに会いに来たんだ。会いに来てくれれば、お兄ぃは誰でもいいんだ」


「誰でもって。少し話をしただけだ。ちょっとハプニングはあったがな」


「私も会いに来ていいんだよね? みんなが寝た後に来てもいいんだよね?」


 愛は急に俺の目の前まで迫ってきて、問いかけてくる。

鼻と鼻が触れそうなくらい近い距離。ぐいぐい迫ってくる。


「ちょ、愛そんなに近寄るな! 転ぶだっ!」


 と、言っているそばから後ろに転んだ。

愛も勢い余って一緒に転ぶ、俺に覆いかぶさるように。


「うーん、愛。痛い。そんな勢いで迫って来るな」


 上半身裸の俺はもろに背中を床にたたきつけられる。ちょっと痛い。

俺に抱き着くようにもたれかかっている愛が上目づかいで俺の方を見る。



 二人の間にしばし沈黙の時間が訪れる。

見つめ合う二人。俺は上半身裸で、愛は俺の胸の中。

兄妹の危険な恋の始まりが、音を鳴らして始まる……。




 ガチャ! と音を鳴らしたのは誰かしら?


 部屋の扉が開く音がする。


「……ユーキ。朝ごはん。早く来る」


 俺と愛は急に部屋に入ってきたフィルを見る。

フィルも俺と愛の状況を確認したようで、動揺しつつ、赤面していく。


 愛はあわてて立ち上がり、少し乱れた服を直す。

そして、フィルに向かって叫ぶ。


「えっと、これは違うの! 事故なの! 何でもないからね!」


「……大丈夫、誰にも言わない。見なかったことにする」


 フィルは何もなかったかのように後ろを向き、部屋を出て行こうとする。


「違うの! 何もないの! 勘違いしないで!」


 フィルは歩みを止め、愛の方を見る。


「……アイはユーキの事が好き?」



 フィル。ど直球ですね。朝からえぐい所をついていくる。

愛は何と答えるのかな?ドキドキワクワク。



「私は、お兄ぃが好きだよ。ずっと前から」



 えーっと。それは兄として、家族として好きなんだよね?



「……それは兄としてか?」


 だから、朝からきついってば。なんで朝からそんなに飛ばすのかな?

もう少し穏やかな朝を迎えようぜ!


「違う。もっと、もっと大きな好き。きっと、お兄ぃに恋をしていると思う」



 それを聞いた瞬間、俺は服を右手に、テーブルにあったバックを左手に持ち、廊下をめがけ走り出す。

足元に魔力を集中し、少しだけ足を浮かせる。風魔法も同時発動させ、ホバークラフトの原理で二人の間をすり抜ける。


 行ける!


 この速さで、この距離、問題ない。二人はまだ俺の動きに気が付いていない。

一瞬の隙をみて、二人の間をすり抜ける。




 と、思ったら廊下にはイリッシュがいた。


 何でそんなところにいるのさ? 立ち聞きでもしていたのかしら?

思いっきりイリッシュにぶつかり、倒れ込む。


 俺の口がイリッシュの口を覆い、右手はイリッシュの左胸に。

上半身裸のままで、イリッシュにアタックをしてしまった。



 この状況を後ろの二人は見ている。間違いなく。

俺には見えていないが、絶対にこの状況を見ている。



 そんな中、イリッシュの目は輝き、頬を赤くしている、

少しもじもじして、尻尾もブンブンしている。


か、かわいいなぁー。このまま持ち帰りたい!



「お兄ぃ、そろそろ起きたら?」


「……ユーキ、起きるの手伝う?」



 俺はそのまま無言で立ち上がった。

さて、この後どうしようか……。


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