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第091話 ~息子と娘~


 ……どのくらいの時間が経ったのか。俺はベッドに寝ている。

目を閉じ、かろうじて意識はまだあるが、今にも寝てしまいそうだ。



 ルエルと一緒に部屋に入ってから、結構時間は経ったと思う。

遠くで深夜の鐘の音が聞こえる。もう、こんな時間になってるのか……。



 隣にいたルエルは俺の頬をそっとなで、静かに立ち上がる。

足音もなく、部屋の扉に行きノブを回す。


「おやすみ、ユーキ。ありがとう」


 かすかに聞こえたルエルの声と扉が閉まる音を最後に、意識が無くなる。









――眠い。まだ寝ていたい。


「…きて! 起きて! お母さんが呼んでるよ!」


 お母さん? え? 母さんがいるのか?


 俺はパッと目を開け、目の前にいる黒髪の男の子に声をかける。


「だ、誰だ? 君はここで何をしている?」


 目の前には黒髪の男の子。耳は少しとんがっているので、エルフ?



「ひどいな。自分の息子の名前も忘れたのか? まぁいい。早く下に。お母さんが呼んでる。先に行ってるよ」


 黒髪の男の子はさっさと扉から出て行ってしまった。


……。俺、いつ父親になったんだ? 


 辺りを見渡すと実験室のままだ。配置や物は多少入れ替わっているが、間違いなく実験室だ。

あの子は誰? 母親って誰? この状況を誰か説明してくれ。


 足元が少しフラフラするがベッドから立ち上がる。

廊下に出ると黒髪の女の子がいた。


「パパ。まだ寝ていたの? 早くご飯にしよう」


 はて? この子は誰? 黒髪に耳がピコピコ。尻尾もある。


「えっと、君は?」


「パパ、まだ寝ぼけてるの? 娘の顔も忘れちゃったの? ひどいな……」


 おっふ。息子の次は娘ですかい。いつの間に二児の父親になったんだ?


「私、先に行くね。後でママに怒ってもらうんだから!」


 黒髪の女の子は階段を下りて行ってしまった。


 息子と名乗る男の子。娘と名乗る女の子。そして、俺が父親らしい。

まいったね! 初経験の前に、子供ができちゃったよ!


 階段を降りようとした時、後ろの扉が開く。

振り返ると、これまた小さな女の子。まだ半分寝ているような目をしている。

きっとこの子も俺の子だな! このパターンは間違いない!


「なんだ。まだ眠いのか?」


「……父さん。眠い。二度寝したい」


 ほらねっ! やっぱり俺の娘だ!


「ご飯らしいから、一緒に下に行くか?」


「……行く。抱っこして」


 俺は女の子を抱っこして階段を下りる。

一階に下りるといい匂いがする。きっとスープの匂いだ。

パンの香ばしい匂いもしてくる。お腹がぐぅと鳴る。


 カウンターキッチンには金髪の女性が。

テーブルにはさっきの男の子と女の子。

そして、銀髪の女性とブラウン髪の女性が、料理を運んでいる。


「おはよう、ユーキはお寝坊さんね。早く座って」


「ユーキ兄。あ、また兄と言ってしまいましたね。ユーキさん、おはようございます」


「……ユーキ。遅い。早く座る」


「お父さん早く! お腹すいた!」


「パパ、こっちこっち。早く座って!」


 えっと。誰か説明してくれ。いつから大家族になった?

このメンバーだと、あれで、これが、こうなって……。


あれ? 愛がいない?


「えっと、愛はいないのか?」


 一瞬、部屋全体の空気が凍りついた。全員沈黙になり、誰もが俺を見ない。

一体なんなんだ? 愛に何かあったのか?


「愛は? 愛はどこだ? 部屋にいるのか?」


 金髪の女性が俺に話しかけてくる


「ユーキ。アイはね、アイは……」


 金髪の女性は涙を流しながら俺に話しかけてくる。


「愛がどうしたって!」


 抱っこしていた女の子を床に立たせ、俺は金髪の女性の両肩を鷲掴みにする。

相手の頭がガックンガックンするまで、猛烈にゆする。


「なぁ、愛は? 愛はどこにいる!」


「わ、私の口からは言えないわ。ユーキもすぐにわかるわよ……」


 どういうことだ。愛はどこに行った?


 俺は部屋の隅から隅まで見渡す。

部屋の一角、カウンターの奥に、一枚の肖像画がある。

隣には花は添えられており、恐る恐る肖像画を覗く。



 愛の肖像画だ。なんで愛の肖像画があって、花があるんだ?



「なぁ、これの説明してくれ!」


 俺は、近くにいた銀髪の女性に駆け寄る。


「アイ姉の肖像画です。随分前から、そこにあります。なぜそこにあるか、忘れてしまったのですか?」


 そ、そんな馬鹿な……。俺は、俺は守れなかったのか? 帰れなかったのか?



「す、すまない。ちょっと席を外す」



 廊下の奥、洗面所に行く。

顔を洗う。水は冷たい。俺はここで何をしている?

確認だ。今すぐ、確認せねば!


 走って店に戻ろうとした時、不意にトイレの扉が開く。



バチコーーン



 思いっきり顔面をぶつける。い、痛い。



「誰だ! 急に扉を開ける奴は!」


ゆっくり扉が閉まり、俺の目の前にポニーテールの女性が立つ。



「ご、ごめん。まさかお兄ぃがいるとは……。大丈夫?」


 愛だ! 間違い無い!

俺は愛に抱き着く。力強く、抱きしめる。


「え? 何? どうしたのお兄ぃ? 何かあったの?」


 俺は少しだけ涙を流しながら話しかける。


「心配した! 大丈夫なのか? けがは? 何ともないのか?」


「えっと、昨日食べ過ぎて、ちょっとお腹がね……」



……はい? 食べ過ぎ?



「それだけか?」


「えっと、それだけかな?」


「カウンターにあった愛の肖像画と花は?」


「常連さんの絵描きさんが描いてくれた肖像画と、私に好意をよせているシャイボーイのプレゼント?」


「……。そうか、心配して損した気分だ」


 でも、心の中では大号泣だな。心配させやがって!


「そろそろご飯でしょ? 早く戻ろうよ」


「そうだな。戻ろう」


 愛に手を引かれ、店に戻る。


「ユーキ、アイに会えて良かったわね」


「そうだな。会えて本当に良かったよ。心底そう思う」


「アイの居ない理由、わかったかしら?」


 金髪の女性は微笑みながら俺に話す。

俺が勘違いしているのがわかっていたのだろう。

ちょっと意地悪だな。こっちはあわてていたのに!


 黒髪の男の子も絡んでくる。

席を立ち、俺の目の前にやってくる。


「お父さん、なんであんなにあわててたのさ!」


「色々大人の事情があるんだよ」


「教えろよ!」


「今度な」


男の子はポカポカ俺のお腹をたたき始めた。


「痛いな、あまり強くたたくなよ」


「じゃあぁ、教えてよ! なんでアイ姉の事であわててたのさ!」


ポカポカポカ。

温かさじゃないよ、叩かれているんだよ?



ポカポカポカ。



ドスドスドス。



ドドドドド。



オラオラオラオラ!




 鳩尾(みぞおち)に数発もらう。



「い、痛いじゃないか! そんな本気でパンチするな!」


俺は目を閉じ、軽くうずくまる。うーん、鳩尾痛い……。







――い、痛い。まるで愛のグーパンを貰っているようだ……。



「……きた? お兄ぃ、起きた? もう少し強くした方がいいかな?」


 俺はゆっくりとまぶたを開ける。そこにはいつものポニテになっている愛がいる。

ここは実験室。目の前には愛。そして、いつものグーパン。


「愛。俺の上にまたがって、何故パンチしている?」


 仰向けに寝ている俺に対して、愛は布団の上からまたがり、グーパンのポーズ。


「だって、ノックしても反応ないし、声かけても無反応、何かゴニョゴニュ言っている、キモかった」


 キモかったって……。実の兄に対して、すごい発言しますね。


「起きたから降りろ。あと、本気でパンチするな。こっちは寝ているんだ」


「はーい。お兄ぃもそろそろ私が起こさなくても起きれるようにならないとね!」


 愛はニコニコしながら下りる。


「そうだな。でも、愛に起こされるのも悪くないぞ。普通に起こしてくれればな」



 外は明るくなり始め、朝が来た。


 さっきのは夢だったのか。いろいろあったから、変な夢見てしまった。

今日は忙しくなる。あれも、これも、それもやらなくては!

さぁ、踏ん張り時だ!


「愛、今日も一日やるぞ!」


「オッケー! 朝からヤル気満々だね!」



 もしかしたら、帰れるかもしれないんだ!

愛と一緒に元の世界に……。


やるっきゃない!



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