第088話 ~さすさすとケア~
イリッシュはベッドに横になっている。少し顔が赤く、息遣いが荒い。
「大丈夫か? ものすごく苦しそうだぞ?」
お腹を押さえるように、イリッシュは苦しんでいる。
「だ、大丈夫、です。す、ぐに、治ります」
苦し紛れの笑顔だ。
「俺に何かできることはあるか?」
「お、お腹をさすって貰えると、嬉しいです……」
さっきの件もあり、。疑り深くなっている俺がいるが、今回は本当に苦しそうだ。
これも演技だったら、アカデミー賞でも取れるなきっと。
ベッドで横になっているイリッシュのお腹を、服の上からさする。
サス サス サス
「少しは楽になるのか?」
相変わらず苦しそうな表情のイリッシュ。
「す、少しだけ楽になる気がします」
頑張って、笑顔を作ろうとしているのが痛い。
なぜ急にお腹が痛くなったんだ? さっきまであんなに元気だったのに。
「なぁ、この世界に医者はいるのか? あと、薬って売っているのか?」
「お医者様は王宮にいると聞いたことがいます。薬は薬剤師の方作って、街で販売しています」
お、お腹さすさすがきいたのか、言葉に詰まる事無く、話ができてきた。
サス サス サス
細い。華奢な体つき。仰向けに寝ているイリッシュの体全体のラインがわかってしまう。
薄い布一枚向こうには、素肌が。
サス サス サス
「もう、大丈夫かな?」
この状況は俺の精神力をドンドン削っていく。
非常に危険な状況。早く良くなってもらえるといいのだが……。
「ま、まだ痛いです。お腹、直接さすってもらえないですか?」
ドクン
直接だと。それは素肌に直接触れろと?
イリッシュ。こんな状況でも責めてくるのか? それとも、本当に痛いのか?
「してもいいが、良くなりそうか?」
「はい。手のひらの暖かさが直接の方が伝わってくると思うので……」
「そうか。少しだけだぞ」
「はい……。お願いします」
し、失礼しまーす。
イリッシュのワンピのスカート部を少しだけまくり、手をお腹の上に。
……。
サス サス サス
サス サス サス
す、すべすべだ。これは、これで気持ちがいい。
尻尾も良かったが、お腹もこれはこれでなかなか……。
いやいや、今はお腹が痛いイリッシュを何とか回復せねば!
お楽しみはそれからで! え? お楽しみってナニ?
サス サス サス
サス サス サス
自然と目がイリッシュの太ももに。
素晴らしく白い太ももが露わになっちょります。
これは大変危険です。デンジャーゾーンです。
俺は片手で布団を引っ張り、イリッシュに。
少しでも体温かくした方がいいのかな?
俺は医者じゃないので、対応が良くわからない。
適切な対応ができないのは困るな。
病気も魔法で治るのかしら?
サス サス サス
サス サス サス
「魔法で病気とか治るのか?」
「な、お治る病気もあると思います。私は外傷の治癒はできるのですが、病気は……」
「そうか。治せるんだな。ちょっと試してみていいか?」
「え? ユーキ兄は回復魔法使えるのですか?」
イリッシュの目はキョトンとしている。目がパッチリで、可愛いね!
直ぐに治してしてやるよ。苦しむ顔は見たくない。
「いや、まったく使えない。でも、何となく使える気がする。そのまま寝ていてくれ」
残念だが、お腹から手を引く、さよならすべすべのお腹。またね……。
俺は左手をイリッシュの頭に。右手をつま先に置く。
魔法はイメージ。イメージを形にする、きっとできるはずだ。
直ぐにその痛みから解放してやるぜ! 待ってる、イリッシュ!
イメージだ。痛みの特定と、除去。
痛みはどこにある? 体のどこが正常ではない?
イメージだ。俺は白衣を着て、聴診器を首からぶらぶらしている。
イリッシュは看護師さんだ。そんなイメージを作り上げていく。
「目を閉じて、しばらく寝ててくれ。違和感感じたり、危険だと思ったらすぐに言ってくれ」
「分かりました。ユーキ兄の事、信じていますから。大丈夫ですよ」
「ああ、成功するといいな」
俺は左手から右手に流れるように魔力をイメージする。
体全体を調べる、異常部分を見つける、そんなイメージだ。
イメージ、そう、イメージが全てだ。
――はい、検査しますから、服上げて。
医者の俺と看護師のイリッシュ。
看護師を目の前に座らせ、服をまくり上げてもらう。
聴診器でペタペタ。
「どこか痛いところは?」
「はー、そうでうすかー。お腹が痛いんですね?」
「じゃぁ、少しお腹を押していきますね。痛みがある所を教えてくださいね。」
イリッシュは半裸状態。前はフルオープン。
お俺は右手の指二本で、イリッシュのお腹をちょっとずらしながら押していく。
グイっ。「んっ……」
イリッシュから、吐息が漏れる。
グイっ。「んっ……」
グイっ。「んっ……」
グイっ。「んっ……、痛い」
「ここですね。もう少し続けますね」
グイっ。「んっ……」
グイっ。「んっ、んっ……」
グイっ。「んっ……」
グイっ。「先生、そこ……」
「はい、大体分かりました」
半裸のイリッシュの問診を終える。
「そのまま口開けて」
イリッシュはあーんとしている。
お、犬歯がすこし大きい。ちょっと牙っぽいけど。
「少しだけ喉が赤いですね」
痛い所は、こことここ。
「では、お薬出しますね」
「せ、先生。それを私の中に入れるんですか?」
「そうだ。イリッシュの為にこれを中に入れて、全部注いでやる」
「お、お願いします」
「初めては痛いかもしれないが、我慢してくれ。すぐに終わる」
ゆっくりとイリッシュに入れる。
「……先生、痛いです」
「直ぐに終わる。もう少ししたら、気持ちよくなるから、我慢してくれ」
「……んっ、先生まだですか?」
「もう少しだ。もう少し、奥に」
「せ、先生。ジンジンしてきます」
「終わった。全部中に入れたよ。抜くぞ」
「んっふ……。あ、ありがとうございました……」
注射もう打ち、効いてくればよくなるはずだ。
――魔法はイメージだ。
体全体を検査する、チェックするイメージ。シーティースキャン。
異常部分を見つけ、元の状態に戻す、ケア。
左手から右手に魔力が流れるイメージ。
対象者の体の隅から隅まで、俺の魔力で検査し異常を見つけ、治す。
行くぞイリッシュ! これで治るといいな!
オリジナルケア魔法! 『スキャンケア』!
左手から魔力が流れ出るのがわかる。ごっそり血を抜かれている気分だ。
そして、右手に自分の魔力が流れてくるのもわかる。
右手から、イリッシュの体につての情報が、俺の中に入ってくる気がする。
一つになった。俺とイリッシュは一つになったと、そう感じた。
イリッシュの顔を見る。赤みが引いている。
汗も引いたようだ。
「どうだ? 何か変わったか?」
目を閉じているイリッシュに聞いてみる。
「ユーキ兄は、なんでもできちゃいますね」
イリッシュは笑顔で答える。
「それは良かった。一つお願いがある」
「なんですか?」
「手料理の味見は俺以外禁止だ。そこにイリッシュも含める。しばらくは俺と二人で練習」
「はい! ユーキ兄と二人で練習ですね! わかりました!」
尻尾ブンブンしているが、自分の味付けの事は、わかっているのかな?




