第087話 ~羽ペンと寝相~
イリッシュはベッドに寝ている。すやすやと寝息を立て。
俺は静かに明かりのそばへ行き、魔力を調整する。すると部屋がうっすらと暗くなる。
イリッシュに近づき、そっと顔を覗く。可愛い寝顔だな……。
隣に座り、軽く頬をなでる。
ドキドキ
起きないよね?
人差し指でイリッシュの足首から内ももまでゆっくりとなぞってみる。
触れるか、触れないかのギリギリのところで止める。
反対の足でも同じように、足首から内ももまでそっと人差し指でなぞる。
イリッシュの肩に触れる。華奢な肩だな。イリッシュは全体的にラインが細い。
この状態だと、胸は見えそうで見えない。ちょっとだけ、服を引っ張ってみようかな……。
鎖骨辺りを触る。とてもすべすべしており、柔らかい。女の子って感じだ。
ふと、俺はある事に気が付く。
イリッシュの耳が少し動いている。尻尾の先も少しだけ左右に動いている。
……。
俺はベットから立ち上がり、部屋を見渡す。
机の上にあった鳥の羽のペンを手に持ち再度ベッドへ座る。
そして、そっと左手でイリッシュの足首を握る。
持ってきたペンの羽先でイリッシュの足の裏をコソコソっとしてみる。
イリッシュの口元はニヤついている。
コショコショコショコショ……
「ん、んーー。だ、だめ……。ユーキ兄。そ、そんなところ責めな、いで下さい……」
「ん? 何か言ったか? 寝ているんだろ?」
コショコショコショコショ……
「だ、だめ……。も、もうやめてください。お、起きてます」
コショコショコショコショ……
「く、くすぐったいです。や、やめて下さい……」
「起きた?」
「起きました。も、もうやめて下さい」
俺は、羽ペンをテーブルに置きイリッシュの方を見る。
イリッシュは少しだけ涙が出ている。
「さて、イリッシュ。起きた、のか?」
「はい、起きました」
「もう一度聞くぞ。起きたのか?」
「……。えっと、起きていました?」
イリッシュは狸寝入りならぬ、銀狼寝入りをしていた。
顔を近づけた時、すこーしだけ瞳が動いたのが見えた。
ちょっとだけからかおうと思ったのだが、しぶとく寝たふりをしているのでくすぐってみた。
「なぜ寝たふりなんかしたんだ?」
「ユーキ兄と一線を越えようかと思いまして」
はい? この子ったら大胆発言ね! 最近のこはおませさんで困るわ!
「詳しく話してもらおうか?」
「そ、そうですね……。以前メイド長より、関係を持ちたい異性がいる場合は、彼の部屋に行き、手料理を作り、ベッドで寝たふりをすればすぐに彼から関係を迫ってくれる。と、教わりまして……」
……。
「イリッシュ。もう少し自分を大切にしろ。そんなに急ぐな」
「でも……。ユーキ兄は私じゃダメなんですか? やっぱり胸が大きい方がいいんですか?」
「イリッシュ。以前も言ったが俺は美乳派だ。大きさではない」
いつもなら、ここで愛やルエルの攻撃が来るところだが今回はその心配はない。
ここには俺とイリッシュしかいないからな。
突然、イリッシュは服を脱ごうと、スカート部をまくりあげようとする。
俺は全力でイリッシュの腕をつかみ、動きを止める。
「何をしている? 自分を大切にしろと言っただろ?」
「ユーキ兄に私を見て欲しいの。フィルのは見たのに、私は見てもらえないのですか?」
痛い所をついてくるな。あれは本当に事故だったのに。
でも、俺は見ていないよ。ふにふにを少ししただけで、見てないんですよ。
「俺はフィルの胸は見ていない」
イリッシュの腕から力が抜ける。
「どうしたら振り向いてもらえるか、教えてください」
……。
「どうも、こうもまずは先にやるべきことをする。色恋沙汰はその後だ。この意味わかるか?」
「借金返して、店舗が軌道に乗ればいいんですね?」
理解が早くて助かるね。
「まぁそんなところだ。みんなで幸せになりたいだろ?」
「私はユーキ兄と幸せになりたいです」
なかなかドストレートなご意見ですね。素晴らしい。
俺も見習いたいところだ。
「この先、どうなるかは分からない。でも俺と愛は元の世界に帰るぞ」
「もし、帰れなかったら、この世界にずっといるんですよね?」
もう、この子ったら。鋭い突っ込みありがとう。確かに帰れる確証はないんですよ。
「帰れなかったらそうなるが、帰れるさ」
きっと、帰れる。帰らないといけない。俺と愛はこの世界の異分子だ。
もしかしたらこの世界に悪影響を出してしまうかもしれない。
帰るなら、早い方がいい。
「私、諦めませんよ。ユーキ兄の帰る方法は一生懸命探します。でも、帰れない事がわかったら、考えてくださいね」
「ああ。帰れない事が分かったら『考えておく』よ。絶対だ」
「約束ですよ」
イリッシュは笑顔で答える。この笑顔、守ってやりたいな。
皆で幸せになる方法ってあるのかな? 難しいね。
「ああ、約束だ。ほら、もう遅い。自分のベッドに行って寝てくれ。俺も寝る」
「一緒に寝てもいいんですよ?」
「遠慮しておく。俺は寝相が悪いんだ」
「奇遇ですね。私もです」
イリッシュと見つめ合いながら、互いに微笑む。
この感じいいね。空気が柔らかく感じる。イリッシュと家族になったら楽しいのかな?
料理は勉強してもらうがな!
「ほら、行くぞ」
「はい」
イリッシュがベッドから立ち上がろうとした時、不意にイリッシュは倒れる。
「どうしたイリッシュ?」
イリッシュの顔がみるみる青くなっていく。少し汗もかき始めた。
イリッシュは両手で腹部を抑えているが、とても苦しそうだ……。
「だ、いじょ、うぶです。ちょ、っとだけ、おなかが……」
イリッシュはそのままベッドに寝てしまい、うずくまっている。
「待ってろ! 今ルエルから薬貰ってくる!」
「待って! 行かないで! ここに居てください。大丈夫ですから……」
イリッシュの額から汗が出ている。顔も少し赤くなってきた。
こ、これは結構まずいんじゃないか? 一体何が起きている!
正解は六番!『銀狼寝入りしているのでくすぐる』でした!
正解した読者の方は是非作者までメッセージを!




