第078話 ~使いとバック~
みんな二階へ行き、寝床に着く。
店舗には俺一人になった。シーンと静まり返る店。
まだ外には若干人がいるのか、少しだけ話し声が聞こえる。
ちょ、ちょっとだけ怖いかな……。
三冊目に手を伸ばした時
コンコン
びくぅ!
な、何の音?
ノックの音。
良かった。お化けの音じゃない。
こんな時間に誰だ? みんな二階に行ってしまった。明日にでも出直してもらうか。
俺は寝たことにして、居留守を使う。
コンコン
しつこいな。一度対応して、明日出直してもらうよう伝えるか。
俺は店舗の入り口を少しだけ開け、誰なのかを確認する。
――いない! そこには誰もいなかった。
おかしい。確かにノックの音はした。空耳か?
「下です」
俺は目線を下に移動する。
小学生くらいの女の子だ。髪はブラウンでショートカットにしている。
黒のワンピースに黒のローブ。腰には大きめの肩掛けバックを持っている。
ルエルの知り合いか?
「あなたが黒のローブを貸してくれた人ですか?」
誰だ? 俺にこんな子の知り合いはいないぞ?
「誰かと間違っていないか? 君のような子にローブを貸した覚えはない」
少女は困った顔でこちらを見ている。
「昨夜、黒のローブを四枚を貸しませんでしたか?」
俺は深く考える。ローブ四枚。 何となく思い出せそうな気がする。
「バーガー」
「俺はバカじゃない」
「違います。バーガー。昨夜一つなくなりませんでしたか?」
俺の頭の上に電球がつく。思い出した! ゴブリン一家にローブ貸した!
「ああ、思い出したよ。確かに昨夜貸したな」
「思い出してもらって良かったです。少しだけお話いいですか?」
あのゴブリン達の使いか? 戦闘になっても多分大丈夫だよね?
扉越しに話をするのも悪いから、店舗に入ってもらった方がよさそうかな?
外から見たら女の子を閉めだしているようにも見えるしな。
「念のため聞くが、敵意は無いな?」
「ありませんよ。お礼に来ただけですから」
御礼参りじゃない事を祈ろう。
店舗の扉を開け、女の子を店舗に入れる。
中に入ったことを確認し、扉を閉め内側から鍵をかける。
邪な意味じゃないよ?何かあった時に逃げられないようにしておかないとね。
防犯の意味だよ。勘違いしないでよねっ!
「そのへんに座ってくれ」
女の子はその辺の床にペタンと座る。
体育座りをしているので、少しだけスカートの中かが見えている。
「すまん。床ではなく、適当な椅子に座ってくれ」
女の子はすくっと立ち上がり近くのテーブル席に座った。
俺も向かいに座り、お互いに向かい合った状態になる。
「さて、話を聞こうか」
俺は少しだけ警戒しながら女の子を見る。
「初めまして。私は例の者達の使い。私も彼らと同じ種族です。名はモーリ」
そ、そんな馬鹿な。どう見ても人間に見えるぞ?
俺の知っているゴブリンはもっと亜人ぽく肌も見た目も違っていたはずだ。
「モーリだな。俺の名はは勇樹だ。君は本当に彼らと同じ種族なのか?」
モーリは指に付けた指輪を俺に見せる。
「これは姿身の指輪。魔道具の一つですが、使用者の見た目を偽ることができます」
「それはすごいな。体格や声も変わるのか?」
「そこまでは変わりません。体格や声はそのままです」
なるほど。完全な変身アイテムでは無いという事か。
「便利なアイテムだな。それで、今日は何のために?」
モーリはバックの中をゴソゴソと何かを探す。そして、それをテーブルに置く。
「これは長からのお礼の品です。これを渡しに来ました」
モーリの置いたアイテムは布のバック。どこから見ても普通の薄茶色のバック見える。
「モーリ。これはバックか?」
モーリはテーブルに置いたバックを広げる。腰に巻きつけるよな紐があり、ウエストポーチのようなバックだ。
バック自体のサイズはそこまで大きくない。サイドポケットが二か所、メインのバック部分は紐が付いており、中身が飛び出ないようになっている。
最後に全体にカバーができるようになっており、紐とおしゃれなコンチョがついている。
コンチョ部分に何個か魔石があり、このバックが魔道具だという事がわかる。
「はい。これは『マジックショルダー』というバックです」
「肩掛けバックだな。魔道具なのか?」
「そうでうす。このバックは見た目よりも多く物が入るようになっています」
きたこれ。異世界名物バック。きっと中の時間は停止し、容量無制限、なんでも入る夢のアイテム。
やっぱり異世界に来たらこれだよね! これが無きゃ異世界物じゃないよね!
「何故これを俺に?」
「長より命の恩人に渡すよう、命じられました。詳しいことは中の手紙を」
モーリに言われバックの中に手を入れる。人生初の異空間バック。手の入れ心地はどんな物か……。
――にゅるん
え? にゅるん?




