第076話 ~付与魔法と弾丸~
夜も更けてきた。ルエルはまだ沐浴から帰ってこない。女性のお風呂は長いと相場は決まっている。
一冊目のレポートにはヒントになるような記述はなかった。二冊目を読んでみるか……。
今度のレポートはしっかりとしたレポートを期待する。
二冊目、開くぞ!
二冊目の表紙には『魔石と付与魔法について』
良かった普通のタイトルだ。
早速レポートを流し読みする。
――魔石は魔素の結晶体である。魔素を体に取り込み、魔素に毒されるとやがて魔物となる。
また、生来魔石を核として生きる者もいる。
――ほとんどの魔石は生物の中で結晶化されるが、まれに土中でも発見される。
詳しい事はわかっていないが体内生成と土中生成に何か共通点はあるだろうか?
――魔石には魔法を付与することができる。魔石を手に、イメージを刷り込むだけで付与できる。
しかし、出来る者と出来ない者は明確に分けられる。
確かめ方は一つ。実際に付与してみるしかない。
――魔石に魔力追跡の魔法を付与してみた。実験は成功。
誰でも魔石に魔力を流したら、その魔石を作った者がいる方向を光で示す。
――増幅の魔法を思いついた。魔石を二個組み合わせ、一回発動した魔法を増幅させる。
一回の魔力で効果は二倍になった。
魔石の使い方と、付与の方法が何となくわかるな。ルエルはきっと付与魔法を父から教えてもらったのだろう。
俺は二冊目のサポートを元の場所に戻し、懐から極小の魔石を一個取り出す。
エンチャントできるかな? 試に何か付与してみるか。
魔石を手のひらに乗せ、魔力を流す。
イメージは弾丸。魔力を流したら銃の弾丸の形ができるように念じる。
魔石が淡い土色に変わった。成功したのかな?
魔石をテーブルに置き、人差し指の先で魔力を流してみる。
つんつん
だ、大丈夫だよね? 爆発とかしないよな? 俺一人で実験しても平気かな?
ドキドキしながら指先に集中し魔力を流す。
コトン コロコロコロ
一つの弾丸の形をした鉄の塊ができた。おぉ、成功だ。
調子に乗って、何度も魔力を流してみる。
コロコロ コロコロ コロコロ……。
楽しきなってきた。気が付いたら数十個の弾丸が転がっている。
テーブルが散らかった。まずい、床に散らばってしまう。
カウンターから布袋を持ってきて、とりあえず弾丸を入れてみる。
これでネックレス作ったら売れるかな?
いや、この世界に弾丸は無い。意味の無い形をしたネックレスは売りずらいかな……。
弾丸を一個残し、追加実験を試みる。確かルエルの話だと魔力でできた物質にもエンチャントできるんだよな?
弾丸をテーブルに置き魔力を流す。
弾丸に込めるイメージは水風船。ぶつかった衝撃で爆発するような。
ふぅぅぅん。 おりゃ! これでどうだ!
弾丸がほんのり青くなった気がする。さっきとは色違うよね?
布袋から一つ弾丸を取り出す。並べてみると少しだけ色が違う。成功したのかな?
試してみるか。
俺は水をイメージした弾丸を右手に持ち、木製の扉に向かって投げつけてみる。
おりゃ!
「ユーキ。今、戻ったわ」
俺が弾丸を投げつけた扉からルエルが!
なんでこのタイミング! ルエルよけて!
投げつけた弾丸はルエルの左耳をかすめ半分開いた扉にぶつかる。
バシャーン!
弾丸がはじけ、扉が濡れる。
ついでにルエルの髪も濡れた。
「ルエル! 大丈夫か!」
「び、びっくりした。ユーキ、いったい何をしていたの? レポート読んでいたのではないの?」
ルエルはびっくり顔で俺に話しかける。
水色の薄手ワンピースを着たルエルは少し色っぽい。
髪は少し濡れてしまったが、服は大丈夫だったようだ。
「レポートは二冊読んだ。二冊目にエンチャントの記述があったので、実験していたんだ」
「そうだったの。見た感じ成功しているみたいね」
そう、成功したのだ。破裂したと同時に弾丸は消えてしまったが、水は一面を濡らしている。
恐らく強力な魔法を俺はエンチャントできない。でも、基本的な魔法だったらできるという事が証明された。
――カタッ
ん? 何か音がしたような気が? 気のせいかな?
「何とか成功したかな」
「私を濡らしたけどね」
ルエルはちょっと意地悪っぽく俺に話す。
「そうだな。俺が一発で濡らしてしまったな」
「結構な量だったわね。初めてだったの?」
「ああ。初めてやった。一回で成功するとは思わなかったよ」
「初めてにしてはうまかったと思うわ。普通は上手くできないのだけどね」
「イメージだな。イメージトレーニングで何度も考えていた」
「初めての実戦で成功させるのはすごいと思う。私は初めての時、失敗したもの」
「ルエルは初めての時、失敗したのか?」
「イメージと違って、上手くできなかったの。大きすぎたのねきっと」
「俺のは極小だし、簡単に入れられたぞ」
「ユーキは入れるの上手いわね。才能あるのかしら?」
「どうだろうな。もう一度入れてみるか?」
「そうね。入れるところ見てみたいわね」
「でも、その前にルエルの濡れたところ何とかしないとな」
「大丈夫よどうせ初めから少し濡れているし。たいしたことではないわ」
「そんな事いうなよ。ほら、こっちに来いよ。俺が拭いてやるよ」
「大丈夫よ、自分でできるわ。それにちょっと恥ずかしいし……」
俺はルエルの手を引っ張り、テーブルに連れてくる。
椅子に座らせ、後ろに立つ。
「ほら、少し目を閉じてな」
「ユーキはおせっかいね」
「おせっかいじゃない。俺がしたいんだ。いいだろ少しくらい」
「早く終わらせてね」
――――ガタン!
「な、なんだ? 何の音だ?」




