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第075話 ~一族の血とオートライター~


 店舗内にはイリッシィの姿が見当たらない。カウンターの中も見たが隠れているわけではなさそうだ。

おかしいな、確かにさっき階段を下りてきた音は聞こえてきたんだが……。

もしかしてトイレに行ったのかな? 


 俺は廊下への扉を開き、トイレに向かう。夜になると廊下は暗いな……。

ちょっとだけ怖いかも。廊下の奥には脱衣所兼洗面所がある。

あそこはまだルエルが使っているからイリッシュはいないはず。


トイレの扉をノックする。



コンコン



シーン



 誰もいないようだ。おかしいな、どこに行った?

店舗に戻ろうとした時、倉庫の扉が少しだけ開いているのに気が付く。

ここか。


「イリッシュ。いるか?」


 倉庫の扉をかけ、声をかける。中は真っ暗でほとんど何も見えない。


「……はい」


 良かったここに居たか。店の外にでも出て行ったらどうしようかと思った。


「こんな暗い所で何をしている? 早く戻っておいで。愛も待っている」


 倉庫の奥の方は真っ暗。手前の方だけ少し明るくなっており、徐々にイリッシュの姿が見えてくる。

イリッシュは悲しげな顔で俺を見ている。少しおどおどしたようにも見えるな。


「ユーキ兄。ごめんなさい。私、やっぱり邪魔ですよね」


 涙目になりながら俺に訴えかける。


「何ってるんだ? そんな事は無い。明日も早い、早く寝るぞ」


俺は倉庫から出ようとイリッシュに背を向ける。


 次の瞬間イリッシュに抱きつかれた。顔を俺の背中に押し付け、両手でがっちりホールドされてしまった。

これが愛だったら、ジャーマンが決まるところだ。イリッシュは多分大丈夫。


「どうした?」


「ユーキ兄は私の事、好きって、さっき言いましたよね?」


「ああ、イリッシュの事大好きだよ。それがどうした?」


「わ、私もユーキ兄の事。だ、大好きです!」


 イリッシュの鼓動が聞こえてきそうだ。まだ幼い少女の精一杯の告白だろうか?


「ありがとうイリッシュ。俺もだがこれからもみんなと仲良くしていってくれ」


「はい。ユーキ兄、一つ聞いてもいいですか?」


「何だ? 俺に分かる事であれば答えるぞ」



少しだけ沈黙の時間が流れる。




「ユーキ兄はアイ姉の事、好きですか?」



それはどういうことだ? 家族として好きという事か?それとも……。



「愛は俺の妹だからな。好きに決まっているだろう」


「違います! 一人の女の子として。アイ姉の事、好きなんですか?」


 うーん、難しい質問だ。家族、妹としては間違いなく好きだ。

所が一人の女性として見たらどうなるか?見たこと無いからわからんなー。


「すまん。愛の事はそんな目で見たこともないし、考えたこともない。答えは、わからない」


「質問を変えます。もし、アイ姉が妹じゃなかったら、好きになっていましたか?」


 そう来るか。どうだろう?

愛は若干好戦的。家事は結構できる。性格もそんなに悪くない。

明るく、元気でハキハキしているし、頭だってそんなに悪くない。むしろ成績はいい方だ。

見た目だってモデルとまではいかないが、可愛いと思う。背は低いがな。


もし、同じクラスメイトだったら惚れるか?




……多分惚れるな。多分気が合うし、一緒にいいたら楽しいだろう。




「イリッシュ。恐らくだが、もし家族じゃなかったら好きになっていたかもしれない」


「そうですよね。何となく答えはわかっていました」


 イリッシュは腕をほどき、先に出て行ってしまう。


「何故そんな事を聞く? 何かあるのか?」


「何もないから聞いたんです。気にしないで下さい」


 振り返る事無く、店の方に歩き出すイリッシュの声はいつもより少しトーンが低い。

機嫌でも悪くなったのか、俺の対応が悪かったのか。


「イリッシュ。様子が変だぞ」


「大丈夫です。私、負けません。ルエ姉にもアイ姉にも。一族の血をかけて」


 な、何か勘違いしていないか?

イリッシュはそのまま階段をかがっていき、部屋に戻ってしまう。

少しだけ嫌な予感がする。動物的本能が何かを訴えかけてくる。


 と、とりあえず、イリッシュは部屋に戻ったし、いいことにしよう。

問題の先送りとはわかるが、今日はもう遅い。それよりもレポートが読みたい。



 店舗に戻り、やっとレポート一冊目に手をかける。

なんだかんだで、まだ手がかりがない。よし、一冊目読むぞ!





じゃじゃーーん。再び登場、翻訳メガネ!


それでは一冊目いきますか!



……。



表紙には『魔法と魔素のきゃっはうふふな関係について』




 ルエルの父はどんなキャラだったんだ? 真面目じゃなかったのか?

と、とりあえず読んでみるか。





――レポートは『オートライター』の魔法で記述する。

記述内容に若干ぶれがあるが、自分で書くよりも早いので魔法に頼ることにした。


これを読む者が自分のわかるように翻訳して読んでほしい。




なるほど。そんな魔法もあるのか。



 俺は一冊パラパラっと流し読みする。


――魔法と魔素のについて書いてしていくねっ。

本当かわからないけど、多分そうじゃないかなーって思うんだよね。


この世界の人は呼吸をしているよね? 息をしないと死んじゃうから。


その辺、どこでも魔素ってやつがふわふわしていて、息すると体に入ってくるんだって。

それが血液と混じって体内に残るらしいよ。


色々な種族や血筋にもよるけど、体内に溜まった魔素を外に出せる人と、出しにくい人がいるみたい。

ほとんどの人が自分の魔素と自分の周りの魔素を融合して魔法を使うんだってさ。


でも、自分の体内魔素だけを使って魔法を使うこともできる。すごく弱っちぃけどね。

猫耳の人とかは外に出さずに、体内の魔素をそのまま体内で使うみたい。身体強化って魔法らしいよ。


種族によって結構使い方は変わるみたいなんだって。


魔法を使うと体の魔素が減るから、体がだるくなるんだって。へー、知らなかった。

魔素ってなんだろうね?昔からあるみたいだし、自然に放出されてるのかな?


今日はここまで! じゃ、二冊目にまた会いましょうねっ。




 何なんだこのレポートは。レポートと言っていいのか?

小学生の日記みたいじゃないか。オートライターの魔法はこんなもんなのか?




オートライター。





自動書記。





児童書記。




ま、まさかね! 



次、二冊目読もう。

二冊目はきっと普通に読めるはず!



ルエル父、頼むぜ。俺の期待を裏切らないでくれ!




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