第067話 ~パンと棒付飴~
「ところで、二人はショーウィンドで何を見ていたんだ?」
「えっと、お兄ぃ覚えてる?昔お父さんがくれた腕輪の事」
「腕輪?腕輪なんかもらったっけ?」
「ほら、手首に巻いて、切れたら願いが叶うってやつ」
なんだっけ?ミランダ?ミシンが?えーっと、思い出した!
「確かミサンガだな。そういえば気が付いたら切れてたな」
「そのミサンガと似た腕輪が売っていたの。急にお父さんのこと思い出しちゃってさ」
「そういえば、しばらく会っていないな」
「で、イリッシュちゃんにそのこと話していたら、イリッシュちゃんもお父さんがね」
「はい。これからずっと会えないのかと思うと、ちょっと寂しくなりました」
「そうか、これからどうなるかわからないしな。俺達もイリッシュもまだ諦めるのは早いぞ」
「それはわかっているんだけどね」
「ちょっとここで待ってろ」
俺は二人をその場に待たせ、店内に入って行く。
「すいません!あれと同じの三個ありますか?」
「ありますよー。おまちくださーい」
店員はストックの箱らしきものから、同じ腕輪を三個取り出す。
「こちらでいいですか?」
「ああ、いくらだ?」
「三点で千五百ジェニです」
俺は会計を済ませ、店を出る。
「愛、左腕出せ」
愛は何も言わずに左腕を出す。
俺は腕輪を一つ、愛の手首に付ける。
「イリッシュ、左腕を」
イリッシュもすんなり腕を出す。
イリッシュにも腕輪を付ける。
「せっかく付けたんだ、何かお願い事しておけ」
「あ、ありがとう!嬉しいよ!」
「ありがとうございます!感激です!」
二人とも、少し顔を赤くしながらニヤニヤしている。
「じゃ、俺も」
俺も最後の一つを自分の腕に付ける。
「お願い事は何にしようかな!」
一個だけ願いをする。
俺の、俺の周りの人を幸せにしてほしい!
あ、ちょっと待った!俺も含める!
俺と、俺の周りの人をみんな幸せに!
大丈夫かな?間に合ったかな?
「お兄ぃはお願い事、もうした?」
「ああ、した!ばっちりだ!」
「どんなお願い事にしたんですか?参考までに聞かせてください」
「それは秘密だ!言ってしまったら叶わなくなるからな!」
「そうなんですね。じゃぁ、私も自分のお願いは秘密にします!」
「私もお願い事決めたよ!きっと叶う!」
「どれ、皆の願いも決まったし、早く帰ろう。ルエルが心配している」
俺達は店を後にフェアリーグリーンへと向かう。
帰る途中パン屋に寄ってみるが、そろそろ閉店の用でほとんどパンがない。
「まいったな。ほとんど売り切れだな」
「お兄ぃ。三個しかないよ?」
「少し、時間が遅かったせいですね。ご、ごめんなさい。私のせいで……」
イリッシュ!そこで半泣きにならないで!
パン位、あとで何とでもなるから!
「あれ?そこのあなた。今朝も買いに来ていたよね?」
「はい。早朝に来ました」
「何度も買いに来てくれてありがとうね。もしよかったら。パン、買っていくかい?」
「でもほとんど売り切れで」
「まだ、裏にあるんだよ。ちょっと待ってな」
お店の人は裏に行き、トレイに山盛りになったパンを持ってくる。
「これはいったい?」
「これは今日の売れ残りで、今夜うちの晩御飯になる予定のパンだ」
「買ってもいいのか?」
「いいさ、お客様だろ?うちもたまにはパン以外を食べたいからね!」
「そうですか。では、遠慮なく買わせていただきます」
俺達は紙袋にもっさりと山のようにパンを入れてもらう。
この量、少し多くないか?
「会計は?」
「千ジェニ」
「安くないか?」
「売れ残りは安くなって当たり前!ほら、早く持って帰りな!」
「ありがとうございます!」
「おばちゃん!ありがとう!」
「私はおばちゃんじゃない!」
「お姉さん、ありがとうございます。おいしく、いただきますね!」
「そっちの子はわかっているね。いい子だ。ほら、サービス」
イリッシュは棒付飴を手に入れた。
「あ、ありがとうございます」
「さ、閉店だ。またおいで!」
「また来ますね!ありがとうございます」
俺達は頭を下げ、店を出る。
「イリッシュ、良かったな。飴貰えて」
「複雑な気持ちですが、飴は甘くておいしいですね」
「どう見たっておばちゃんじゃ…」
「愛。女性はいつでもお姉さんなんだよ。商売の鉄則だ」
「それは流石に無理があるよ」
「そうそう、さっきの娼婦ギルドとの件は、ルエル達には話すなよ」
「なんで?」
「変な心配をかけたくない。わかったな、二人とも」
「わかった。内緒だね」
「わかりました。秘密にします」
そして、俺達はフェアリーグリーンに帰ってくる。
カラン コローン
「「「ただいまーー」」」
「お帰りなさい。思ったより遅かったわね」
「ちょっといろいろあってな」
「…お帰り」
「おぅ、ただいま!」
「あー疲れた!ルエルさん、何か飲むものある?」
「冷たい方がいいかしら?」
「うん!」
「あ、俺もほしい」
「私もいいですか?」
「三人とも、のどが渇いているのね。今準備するわ」
「ありがとう。パン、どこに置く?」
「随分買ってきたわね。多くない?」
「これも、色々とあってな」
「カウンターにお願いできるかしら。あとで棚にしまっておくわ」
「すまんな。助かるよ」
みんなで同じテーブルに着席し一休みする。
外はすっかり暗くなっており、街もひっそりとし始める。
フェアリーグリーンもそろそろお休みの時間だな。




