第066話 ~娼婦ギルドと初めての戦闘~
俺は愛が走って行った方向に走っていく。
道にはたくさんの人であふれており、この中から一人を見つけるのが困難な状況。
全く!一人で走ってくなよな!
イリッシュも探しに行ったが、二人とも背が低い。
人に埋もれていたら、絶対に見つけられない。
人を探す魔法って何かあったけ?
元の世界だったら気を感じ取ったり、ダウジングで探したり、霊気を見つけたり。
俺にはどれもできないな。
さて、どうしようか。
俺が愛の立場だったらどうする?
店には戻らない。戻りずらいから。
どこかで休むはずだ。あのままずっと走り続けるのは不可能だしな。
愛の体力を考えるともう少し先かな?
恐らくイリッシュとはもう出会っているだろう。
上手くなだめてくれればいいのだけど。
俺は一人考えながら小走りで二人を探す。
いた!
二人で店のショーウィンドウを眺めている。
良かった。ひやひやしたけど、これで帰れるな。
二人に声をかけようとした時、見知らぬ男女が愛とイリッシュに後ろから近づく。
何だあいつら?店の者じゃないな。
二人はナイフを手に持ち、愛とイリッシュの首元に突きつける。
愛とイリッシュは何か話し込んでいたようで、二人の気配に気が付いていなかったようだ。
「お嬢ちゃん達。こんな時間に遊んでるなんて、悪い子だね」
愛とイリッシュが男に話しかけられたが、すでに自分の首元にはナイフがある。
流石にこの距離だとイリッシュも動けないようだ。
「動いたら危険。できれば動くな。切りたくない」
「お前はだまってな。俺が話をする」
「認識した。話はマスターに」
「このナイフはよく切れる。さ、一緒に遊びに行こうか。楽しい所にね」
「わ、私達をどこに連れて行く気?」
「すぐそこだよ。男と女が遊ぶところ。まぁ、お嬢ちゃん達は遊ばれる方だけどな」
「私達が行かないといけない理由は?」
「なぁに、簡単な理由だ。人手不足。お嬢ちゃん達は二人とも顔がいいからすぐに人気が出るよ」
強面のおっさんがそんな事を話している。
隣の女はずっと無言だ。さて、そろそろ助けに入るかな?
「断ったらどうなるのでしょうか?」
「このまま裏路地に行って朝日が見れなくなるね」
俺は話をしている男の後ろから声をかける。
「すまない。その二人は俺の家族だ。引き取ってもらおうか?」
「誰だお前は?私は仕事の話をしている。そちらこそ、引き取ってもらおう」
「そうはいかないな。力ずくでも引き取っておらう。お前は何者だ?」
「随分強気ですね。私は娼婦ギルドの勧誘員。仕事の邪魔をしないでもらおうか?」
男は首をくいっとし、連れの女に指示を出す。
女は黒髪を後ろでまとめており、鼻から下はマフラーのような物で隠している。
黒の軽装備で、胸掛けのベルトにはナイフが数本刺さっている。
「こいつに勝ったら二人を解放してもらえるのか?」
「はははっ!勝てたら解放しよう。もし勝てたらの話だがな!」
男は高笑いし、こっちをニヤニヤ見ている。
「男。悪く思うな。これも仕事なんでな」
「こんな人通りの多い場所でやるのか?」
「問題ない。すぐに終わる」
愛とイリッシュは背後を強面の男に取られており、身動きが取れない。
二人とも涙目になっており、俺を見てる。
心配するな。すぐに終わるさ。
女は俺の右頬を殴りにかかってくる。
そんなに早くはないな。半歩下がり、躱そうとする。
グキ! 嫌な音が聞こえる。
避けたはずなのに、パンチを貰ってしまった。
い、痛いじゃないか!
「な、殴ったな!おやじには殴られたことが無いのに!」
おかしい、確かに避けたはずなのに。モロにくらってしまった。
「今のは様子見だ。お前、弱いな」
悔しい!綺麗にかわして、カウンター入れる予定だったのに!
再び、女は俺に向かってくる。
今度は左右の手にナイフを持っている。
次、躱せなっかたら結構まずいな。
俺は左手に魔力を集める。
女が俺の懐に入ってきた!
今だ!
左手から水を女の顔にかける。
女は一瞬びっくりして、目を閉じる。
その瞬間、俺は右の手に魔力を込め、右手で女の右耳を平手打ちする。
パシーーン!
「それで攻撃したつもりか?」
「ああ。攻撃した。お前、何か違和感を感じないのか?」
女はきょとんとしている。
「お前、何をした?」
「ちょっと細工した。右耳、もう聞こえないだろ?」
俺は魔力を右手に込め、平手打ちの瞬間、右耳の中に小さな鉄の塊を置いてきた。
これで右耳は使えない。
「次は反対の耳を狙う。次はその両目を。ついでに匂いもわからなくしてやろう」
女は俺から距離を取り、少し離れる。
間合いを取るつもりか!そうはさせない!
俺は女に近づき、両手に魔力を込める。
左耳を狙って平手打ちをするが女は警戒したのか、左腕で俺の手首をナイフで刺そうとする。
しかし、再び女の顔に水かかかる。
「っち!小賢しい!」
その隙に俺は女の鼻を掌底で攻撃する。
女は避けられず、俺の掌底をもろにくらう。
「ほら、これでもう何の匂いもわからないだろ?」
「お前、何者だ?」
「俺か?俺はただの店員だ。後、そこの二人の兄だ。家族を守らせてもらう」
「次は外さない!」
女は両手に持ったナイフで俺に切りかかってくる。
さっきは半歩下がってくらってしまったが、何か理由があるはず。
今度は下がることをせず、ナイフを受け流す。
ナイフのさばき方はルエルに教わったからな。
速さはルエルの方が早い。
俺は女のナイフを両手でさばき、懐に入る。
両手に魔力を込め、女の両頬をひっぱだく。
「おえぇ。お、お前イラつくな」
女の口から鉄の塊が大量に出てくる。
「次は腹の中に直接入れてやろうか?」
「殺す!」
女は顔を赤くし、むきになって襲って来る。
何だこいつ、単純だな。
再び俺はナイフを躱し、両手で女の頭から水をかける。
女はずぶぬれになっている。
「なんだ。お前、濡れた方が美人に見えるぞ」
周りに人が寄ってくる。
「おい!もういい!なに手間取っている!」
「も、申し訳ありません!今すぐに!」
「もういいと言っているだろうが。何をしている。戻るぞ!」
「なんだ、最後までやらないのか?」
「こんなに時間がかかって、人だかりができてしまったら商売どころではない!」
「俺は最後までしていいんだぜ」
「小僧。次に会った時が最後だ。俺の顔を忘れるな」
「すまん。人の顔と名前を覚えるのが苦手でな。すぐに忘れる」
「おい、行くぞ!」
「はっ!」
娼婦ギルドの二人はこの場を去っていく。
「二人とも、大丈夫か?」
「お兄ぃ、ごめん。ごめんね!」
「ユーキ兄。ごめんなさい。動けなかった。本当に、ご、ごめんなさい」
二人は泣きながら、俺に抱き着いてくる。
「二人とも無事でよかったな」
「良かった!ありがとう、助けてくれて!」
「ユーキ兄。ありがとうございました!」
二人は泣きながら俺に話しかける。
「愛、鼻水出てる。イリッシュ、髪がすごいボサボサだ」
「ちょ!そんな事言わないでよ!」
「ユーキ兄。ひどいです!」
二人とも少し、落ち着いたかな?
俺はさっき殴られた頬が少し痛い。
口も少し、切れたかな?あの女!思いっきり殴りやがって!
少し美人だからって、いい気になるなよ!
次にあったらもっと濡らしてやる!
「さ、帰ろう!」
「うん!帰ろう!」
「はい!帰りましょう!」
「帰る時にパン、買うの忘れるなよ!」
ちょっとトラブルがあったけど、三人で無事に帰ることができそうだな。
あぁ、頬が痛い……。




