第065話 ~戦闘と兄妹のそれぞれの想い~
「いい気になってんじゃ、ねーぞぉ!」
酔った男二人は俺に向かってくる。
「二人とも、離れててくれ」
俺は愛とイシッリュが腕から離れた事を確認し、男二人を受け入れる体制に入る。
カウンターでさっさと終わらせるか。
俺がまさに男二人の攻撃を受け用としたその時!
「あのー、愛とイリッシュは何をしているのかな?」
右手にいた男の攻撃は愛が。
左手にいた男の攻撃はイリッシュが受け止めている。
しかも、受け止めた腕とは反対の手でカウンターを入れている。
愛はグーパンを男のあごに。
イリッシュは手刀を男の喉に。
男二人は、その場に崩れる。
「なんだ!弱っちいね!これならお兄ぃでも、大丈夫だったかな?」
「アイ姉、油断は禁物。万が一ユーキ兄に何かあったら大変ですよ」
「えっと、俺の出番は?」
「出番?お兄ぃは弱いんだから、私達に任せればいいよ!」
「そうですよ。ユーキ兄は私より弱いのですから。あまり、無理をしないようにお願いします」
愛とイリッシュになぜかそんなことを言われる。
あ、星が見える。今日の星もきれいだな。
泣いてなんかいないよ!目にほこりが入っただけなんだからねっ!
「お兄ぃ。泣いているの?」
「この位で泣くはずないだろ」
「ユーキ兄。怪我、ありませんでしたか?」
「あぁ、大丈夫だ。二人とも、出来ればあまり危険なことはしないでほしい。二人が傷ついたら、俺は悲しくなる。自分でできる事は自分でする。女の子なんだし、あまり戦闘行為はしてほしくないな」
「お兄ぃが傷ついたら、私は悲しいよ。だから私が戦うの。それじゃ、だめなの?」
「愛はたった一人の妹だ。女の子なんだぞ?傷がついたら取り返しがつかない。俺には愛を守る義務がある」
「お兄ぃだって、たった一人の兄だよ?大切な家族を守るのに、理由はいらない!」
「俺は男だ!愛は女だろ!」
「男女は関係ない!戦える人が戦う!家族を守る!それじゃだめなの!私はお兄ぃを守りたいの!」
「分からず屋!」
「お兄ぃのバカーー!」
愛は半泣きで俺の胸ぐらをつかむ。
そして、なぜか投げ飛ばす。
あぁ、世界がスローモーションになる。
イリッシュがこっちを見て走って来る。
愛はすでに向こうへ走り出している。
あ、愛!行くな!夜の街は危険がぁぁぁぁ。
ドン ゴロゴロゴロゴロ ズザーーーーーー
俺は地面にたたきつけられ、勢い良く転がっていく。
最後には道端にある樽に当たって、その勢いを止める。
っぐふ。愛、強くなったな。拳は交わせても、投げ技は流石に無理だ。
「ユ、ユーキ兄。大丈夫ですか?」
「あ、俺は大丈夫だ。それより愛だ。イリッシュ。急いで、愛を追いかけて、フェアリーグリーンまで戻ってくれ。俺も起きたらすぐに行く」
「わ、わかりました。では、行きますね」
イリッシュは目を閉じ、集中している。
あ、身体強化使う気か?
「イリッシュ!身体強化はやめ」
イリッシュはその身を大きく変化させる。
背が伸び、ナイスボディへ。いやー、何度見てもすごい美人ですね!
大人になったイリッシュは、俺をみて微笑む。
っぽ。
いやいや、ちょっと待て。今はそんな事を。
「イリッシュ、身体強化は解除して!」
気が付いたらすでにイリッシュはいない。
ずっと向こうの方に背中が見える。
早いね。世界選手権あったら、トップでゴールだな。
俺も急がないと。
地面から起き上がり、俺も愛とイリッシュを追いかける。
念の為ルエルにも連絡をしておくか。
俺は耳に魔力を流す
『ルエル。聞こえるか?』
『ユーキ、どうしたの?』
『おぉ、ちゃんと聞こえるんだな』
『魔道具だからね。何かあったの?』
『大したことじゃない。愛と街ではぐれた』
『あら、それは大変』
『もし先に店に帰る様だったら向かい入れてくれ』
『わかったわ。アイと喧嘩でもしたんでしょ?』
『何故そう思う』
『ユーキの声でわかるわ。ただはぐれただけじゃない。もっと深刻な声をしているわ』
『ルエルに嘘は付けないな』
『ふふっ。私達も探しに行く?』
『いや、店が無人の方が困る。そのうちみんなで帰るから待っててくれ』
『わかったわ。あまり無理しないようにね』
『ああ』
通信を終わらせ、二人を探す。
どこだ?どこにいる?
まったく、何でこんな事になる?
俺が悪かったのか?俺だって、戦える。
愛には戦ってほしくない。大切な妹だ。万が一何かあってからじゃ遅いだろ。
……。
愛にとっても同じ事なのか?
結局兄妹でいる限り、お互いに同じこ事を考えてしまうのか?
俺は男で年上で、愛より強く、しっかりしている。と思う。
元の世界に一緒に帰る。学校にも行かないとな。
今年から高校一年なんだ愛は。まだ未来があるんだ。
絶対に守ってやらないと。
俺が、絶対に。
愛も、同じように想っていたって事か?
バカな兄妹だな。
早く店に帰って、デザートでも食べようか?
愛、どこにいる?




