第064話 ~コームの値段と極小魔石~
ギルドに入った俺達は、ブロッサムに会う。
「小僧。立ち話もなんだ、向こうの席に。嬢ちゃん達も一緒にな」
「そっちの用件は終わったのか?」
「さっき終わった所だ」
俺達はブロッサムに誘われ、テーブル席に移動する。
この時間だとさすがに人が少ない。
俺たち以外は誰もいない。貸切状態だ。
「エールでいいか?」
「俺達は酒は飲まない。フラワードリンクでいい」
「そうか。今日だけ奢ってやろう。前祝いだ」
ブロッサムは店員にドリンクを注文する。
「先にこれを渡しておこう」
ブロッサムは小さめの箱を懐から取り出し、俺に渡す。
「この後、ルエルちゃんの店に行くところだったんだ。手間が省けた」
「何だこの箱?」
「前に言っただろ?販売前に渡すと」
「そうか、もう販売できるようになったのか」
俺はブロッサムから箱を受け取り、中身を確認する。
木目と黒のコームだ。各五本ずつ入っており、ちゃんとリーフと翼の彫り物もされている。
「ちょっと試してみるか」
俺はコームに魔力を流す。
おぉ、ちゃんと機能している。
さすが魔法の世界。電気が無くてもちゃんと動いている。
「大丈夫そうだな。ちなみに市場価格はどれくらいになったんだ?」
「一万ジェニ。卸値が五千ジェニってところだな」
「随分安くなったな。どうやったんだ?」
「小僧が安くしろというから開発担当に直接話をしてな」
もともと、魔石は大きければ大きいほど、大きな力生むことができる。
魔法具や武器などに使用する魔石はそれなりに大きくなければ使用できない。
翻訳の指輪に使われている魔石もそれなりの大きさが必要らしい。
しかし、今回のコームについては、極小の魔力で事足りる。
今まで使わなかったような極小魔石を使ってコームを作った。
この国に極小魔石は大量にあるが、消費はそこまで多くない。
魔法の練習位にしか極小魔石は使われなかったが、今回採用されることになった。
コームを作成するのに一番のコストは魔石。
その魔石分、コストが浮いたら格安コームの出来上がりだ。
お値段安く、性能そのまま。
ブロッサム、グッジョブ。
「ずいぶん頑張ってくれたんだな。ありがとう、感謝する」
「礼などいらん。新しいアイテムを開発し、市場が少しでも良くなればいい」
「お兄ぃ。いよいよだね」
「ユーキ兄の考えたアイテムが市場に出るんですね」
「ああ。明日から色々なところで販売されるんじゃないかな?」
「今夜中に商品を商人ギルド本部に登録し、支店でも取扱いできるようになれば、明日の午後にでも市場へ出るだろう」
「ユーキ兄!楽しみですね」
「お兄ぃ、フェアリーグリーンでも取り扱うよね?」
「もちろんだ。明日また来てみよう」
「用件は以上だ。小僧、ルエルちゃんによろしくな」
「わかった。伝えておく」
ブロッサムは席を立ち、受付に何か話した後、ギルドを出ていく。
「こんな時間まで仕事して、ブロッサムも大変だな」
「偉い人だからしょうがないよ!」
「忙しいから、ストレスも溜まって、髪がうす」
「ユーキ兄は何を仕入れに来たんですか?」
イリッシュ。気を遣わなくてもいいんだよ!
「んふー。秘密。明日にはわかるよ」
「お兄ぃ、顔が変。何か変な物買ってくるんでしょ?」
「そんなこと無い!じゃ、ちょっと行ってくる。すぐに戻るからな」
俺は受付に行き仕入れの話をし、二階へ移動する。
商品部屋から仕入れの商品を選び、再び一階へ戻り受付に話をする。
「ミンミン。極小の魔石ってある?」
「ありますよ。魔石は高価な物が多いので展示はなく、カウンターでの販売ですね」
ミンミンは後ろの棚から袋を一つ持ってくる。
「お兄ぃ、見てていい?」
「ユーキ兄。私も気になります」
「なんだ暇になったのか?いいぞ、一緒に見るか」
「では、参考までに。大、中、小、極小のサイズを見せるわね」
カウンターのトレイには宝石のような魔石が一個ずつ並ぶ。
「お兄ぃ、綺麗だね!」
「ユーキ兄、キラキラしていますね!」
「今回はこの一番小さな魔石、極小の魔石の販売で良いでしょうか?」
「お兄ぃ。魔石買うの?」
「ちょっとな。ミンミン、この魔石いくら?」
「一個百ジェニです」
「安!な、なんでそんなに安いんだ?」
「ほとんど消費されないからかしら?子供の魔法練習位しか必要ないからねきっと」
需要無いのか!でも、コームのせいで、少し流通価格は変わるかもな。
これからも需要が出てくるはず。先買いしておくか?
「この先、魔石の買取価格って変わるの?」
「変動しますね。需要と供給になどの影響で変動します」
「極小魔石、どれくらい在庫有りますか?」
「少々お待ちください」
ミンミンは棚から袋をとり出し、確認している。
「全部で百個位ですね」
「全部買う」
「え?全部ですか?」
「全部だ」
「お兄ぃ、本当にいるの?」
「問題ない!絶対に必要!」
「ユーキ兄。そんなに大量に。大丈夫ですか?」
「だいじょーーぶ!問題ない。俺を信じろ」
「お兄ぃ。何か怪しいけど、しょうがないね」
「お会計お願いします!」
俺はミンミンにお金を払い、ギルドを後にする。
帰路も二人は俺にぶら下がっている。
「あのー、非常に歩きにくいのですが」
「お兄ぃ。我慢」
「ユーキ兄の為です」
そうですか!俺の為なんですね!
あ、足がちょっともつれそう。
「そこのにーちゃん!羽振りがよさそうだな!」
「二人もねーちゃん連れて、いい身分だなぁー!」
突然俺達の目の前に男が二人。
何だこいつら?酔っ払いか?
顔は赤く、目はうつろ。
若干、よだれが垂れているが、なにより、酒瓶を手に持っている。
「すまん。邪魔したようだ。道を開ける、悪かったな」
こんな所でもめたくない。めんどくさいし、怪我もしたくない。
「そんなんで、いいと思っているのかぁ!」
意味が分からん。なぜ俺に絡んでくる?
男が二人、俺に殴り掛かってくる。
さて、俺は両手に花状態だが、どうやって反撃しようかなー。




