第059話 ~ベッドと華奢な体~
俺はイリッシュを残し、警戒しながら二階へ行く。
どこにいる?
「お兄ぃ、なにこそこそしてるの?」
ほぅぁ!び、びっくりした!
「愛。後ろから急に声をかけるな。ドキっとしたじゃないか」
「あ、ごめん。ちょっとこっちに来て」
俺は愛に連れられて、ルエル父の実験室に入る。
もしかして何か発見したの?
俺達帰れるの?
「ユーキ。ごめんなさいね、急に呼び出しで。急いで知らせいたいことがあって」
「問題ない。何かあったのか?」
「ええ、これで一気に解決できたわ」
やったぁ!!!解決した!帰れる!!
さすがルエル!でかした!!
「そうか、問題が解決したか。悪かったな色々と迷惑をかけて」
「そんな事無いわ」
「お兄ぃ!良かったね!これで安心でしょ!」
「あぁ、安心だ。本当に良かった」
俺はうっすらと涙を流し、思い出す。
スッポンポンで飛ばされたこと。
ナイフを投げられたこと。
グーパンを貰って、投げ飛ばされたこと。
腹にけりを貰った事。
三人に熱いものを貰った事。
あれ?結構俺いじめられてないか?
「ユーキ。何涙流してるの?そんなに嬉しいの?」
「ああ、嬉しいに決まっているだろ?愛も嬉しいよな?」
「私は別に。まぁ、良かったねー 位かな」
あっさりしておりますね。帰れなくても良かったの?
「愛はずいぶんあっさりしているな?」
「お兄ぃが喜びすぎなんだよ。さ、準備しちゃおう!」
「え?今から?」
「あまり遅くなると、うるさくなってしまうから。まだ日が出ているうちの方がいいわ」
「明日でもいいんじゃ?」
「何言ってるの?今夜必要よ」
はい?今夜必要?
何か会話がかみ合ってないな?
「ルエル。今夜、何が必要なんだ?」
「何って。実験室に簡易ベッドがあったから、ユーキが使えるように準備しないと」
「へ?ベッドの事?」
「お兄ぃ?どうしたの?頭の上にハテナが出てたよ?」
「すまん。ちょっと勘違いしていた。ベッドは必要だな!なんだあるじゃないか!」
「ごめんなさい。すっかり忘れていたの。実験中にそのまま横になって朝を迎えてたお父さんを思い出したのよ」
「これで今日は愛と一緒に寝なくて済むな!」
愛の頬が少し赤くなる。
何で赤くなるの?別に家族なんだし問題ないだろ!
昔は一緒に良く寝ていたしな!
「お兄ぃ。あれは仕方なくなんだよ?年頃の可愛い女の子が一緒に寝るなんて。本当はありえないんだからね?」
自分で可愛い言うな。確かに可愛いとは思うが、まー妹だしな。
「愛。今日もポニテが可愛いな!」
「わざとらしい。はぁ、お兄ぃは少し黙っていた方がいい男に見えるよ。残念でしょうがない」
「さりげなくひどいこと言うな。俺にクールなキャラは無理だ。これが個性だ!」
「二人ともベッドを一回出すから、手伝って。話はすんだわね」
「「はーい」」
実験室は若干散らかっていいるが、さっきよりずいぶん整理されている。
きっとルエルが整理してくれたんだな。カウンターにあるレポートも後で目を通したいし、今夜寝る前にでも見てみるか。
思ったよりベッドは大きい。これで簡易ベッドなのか?
しかも、かなりふかふか。いいベッドじゃないか!
「ルエル、このベッド俺がつかっていのか?」
「いいわよ。それと、この部屋も整理したからそのまま使っていいわ」
「いいのか?」
「いいわよ、どうせ誰も使ってないし。ただ、魔道具には魔力流さないでね。私にもわからないものが多いわ」
「わかった、助かるよ」
「お兄ぃ、一人部屋だね!きっと夜中まで仕事してくれるよ!ルエルさん良かったね!」
さりげなくすごいこと言うな。俺だって眠りたい!朝も蹴りではなく、小鳥のさえずりで起きたい!
「まぁ、レポートも読みたいし、店の事も考えたいし部屋をかりれるのはいいな。実験もしたいし」
「実験?お兄ぃ実験するの?」
「魔法とか、エンチャントとかまだしていない実験が多いな。なかなか時間がなくてね」
「私も実験したい!魔法使いたい!」
「アイ、寝不足はお肌に悪いのよ?」
「お兄ぃ!実験は任せた!私は早寝にする。魔法覚えたら教えてね!」
「あぁ、覚えたらな」
「そろそろ下に行きましょうか?イリッシュが待っているわ」
「そうだな。早く戻ろうか」
三人で階段を下りていく。
俺は先に階段を下り、イリッシュを探す。
そこで俺が見たのは、イリッシュの後姿だ。
ただし上半身は薄い白のタンクトップみたいな服。
下は下着オンリーだ。
透き通るような白く美しい肌。銀の髪は腰まであり、輝いている。
尻尾もフリフリしているし可愛いなー。
しかし、思ったより華奢な体ですね。あの模擬戦で出ていた力はどこから来るの?
ちがーーーう!そうじゃない!何じっくり見ているんだ俺は。
何故、服を脱いでいる?
考えろ、考えるんだ。
さっきまで普通にしていただろ?
愛とルエルはまだ気が付いていない。
この状況は非常にまずいな。
過去の経験上、二人の平手がきて、その後ルエルに投げ飛ばされる。
どうする?
「ゴフン!ゲホゲホ!」
イリッシュがこっちに気が付いた。
あわてて服を手に取る。
「ユーキどうしたの?咳きこんで」
「お兄ぃ、早く行ってよ。階段の途中で止まらないで」
「ちょっと、のどに何かひっかっかてな。今降りるから待ってくれ」
俺は時間を稼ぎながら階段を下る。
三人とも店内に入り、半裸のイリッシュを目の前にしてしまう。
「お、お兄ぃーーー!見ちゃダメーーーー!」
愛は俺の目の前に来て、俺の頭を抱え込む。
それはそれは力いっぱい。
い、息ができない……
「イリッシュ、何をしていたの?」
「ご、ごめんなさい。制服に穴をあけようと思って、縫っていました」
「こんな所でそんな格好になったらいけないわ。あなたは女の子なのよ?」
「す、すいません。すぐに終わると思ったので、つい」
あ、愛。い、息が……。
愛はまだ俺の頭を抱え込んでいる。
この状況、愛は気が付いているのだろうか?
「アイ、イリッシュも服を着たし、もうそろそろいいんじゃない?」
「もう、大丈夫?離していい?」
「アイがまだ胸を押さえつけたいなら、まだそのままでもいいわよ?」
愛の手から急に力が抜けて、俺は解放された。
呼吸ができるってすばらしいー。
「はひゅーーー。愛、強すぎだ。息ができないじゃないか!」
「お、お兄ぃこそ!私の胸に顔をうめて!恥ずかしくないの!」
「ちょっと待て!愛が勝手にしたんだろ?俺は何もしていない!不可抗力だ!」
「お兄ぃのバカーーー!」
グーパンが来るか!
と、思ったら愛は二階に走っていた。
珍しいな、愛がグーパンも平手も、投げ飛ばしもないなんて。
具合が悪いのか?
「な、なんだったんだ?」
「アイはきっと恥ずかしいのよ。そのうち戻って来るわよ」
「アイ姉は結構勢いが強いですからね。私が後で、見てきますよ」
「すまんな。騒がしくて」
「いえ、もともと私が悪いので。ごめんなさい」
服を着たイリッシュの後姿は、ちゃんと尻尾が出ている。
これで、スカートがまくれたりしなくなるね。
しかしイリッシュは縫い物上手いな。
「ちょっと私、見てきますね」
イリッシュは二階に上がっていく。
「騒がしくてすまん」
「にぎやかでいいわね」
時間がゆっくりと流れていく。




