第057話 ~それぞれの接客と名工~
愛と俺は店に戻る。店内はお客さんが数人いる。
全員男性客で俺から見たらむさくるしい。
が、買い物してくれたら嬉しいな!
「いらっしゃいませ!」
イシッリュは笑顔で声をかけている。
「何かお探し物でもありますか?」
「え、いや、特には無いんだが」
男は返事に困っているようだ。そりゃそうだ、入店動機が不純だからな!
「プレゼントなどお探しでしたらおすすめがありますよ」
「俺はまだ一人身だ」
「そうなんですか。てっきりお付き合いしている方がいると思ってしまいました」
「どうしてそう思ったんだ?」
「お客様は見た感じとても強そうですし、とても優しい目をしておりましたので、つい」
「まだ一人身だが想い人はいる。話しかけたこともないがな……」
「それでしたら、何かプレゼントしてきっかけを作ってみては?」
「いきなりプレゼントしたら不自然じゃないか?」
「プレゼントと言ってしまうと、相手に気を遣わせてしまうので『アイテムショップでおまけでもらったが、俺には必要ない。』とでも言って、さりげなく渡せばいいんですよ」
「そんなことしたら変に思われないか?」
「大丈夫です。高価な宝石よりも、可愛いアイテムの方が貰う方も気が楽にもらえますよ」
「そうなのか?俺は今まで女性にプレゼントなんてしたこと無い。それでも平気か?」
「誰だって初めてはあります。気楽に考えていいのですよ、お客様」
「そうか、じゃぁ何かおすすめはあるか?」
「その方はどんな方ですか?」
イリッシュは接客をしている。
なかなか上手いな。男の方も頬を赤くしながらペラペラ話している。
男の赤面は見たくないが、しょうがない。
このままいけば、イリッシィの接客しているお客様は何か購入してくれそうだ。
ルエルはどうだ?
「何を探しているの?」
おーーい。言葉にとげがあるぞ!
「え、何か便利なアイテムは無いかなと」
「便利なアイテムだったらこれね」
ルエルはドクロのリングをすすめる。
えっと、何がおすすめなのか、小一時間話を聞きたいところだ。
「こ、これはすごいデザインですね。呪われていませんか?」
「呪われてなんかいないわ。普通に流通している魔道具よ。効果はモンスターを凶暴化させることができるの」
「え?それは便利では無いような気が」
「あなたはそこまで強くないわね。このリングを装備して戦いなさい。今よりもっと経験を積めるわ」
「確かに、俺はそこまで強くはないが、戦って死んでしまっては意味がない」
「何を言っているの?死なないために経験を積むのよ。ほら、お連れの方の分も合わせてニ個。買うわよね?」
ルエル。それ押し売りに近いんじゃ?お客さんも断っていいからねっ!
「ちょ、ちょっと待ってくれ。相談してくる」
お客様は二人でこそこそ相談している。
「おい、どうする。何かやばいもの買わされそうだぞ」
「でも、経験を積むということろでは一理あるな」
「本当か?」
「あぁ。今まで楽に倒してきたモンスターともう一戦するんだ。今までと違った戦いができるかもしれない」
「確かに。迷宮の階層を下るより、浅い階層で戦闘をした方が安全かもな」
「でも、魔道具は安くない。値段によるな」
「いくらなら買う?」
「普通はどんなに安くても3万だろ?それ以下だったら買うか?」
「普通は3万切らないだろ。でも、安かったら買っておくか」
「よし、値段を聞いてこよう」
俺はこそこそっとルエルに近づき小声で話しかける。
「ルエル、そのリング仕入れ値はいくらだ?」
「2万ジェニよ」
「よし、一個2万五千ジェニ。二個で五万ジェニで売ろう」
「なぜ?値札は5万ジェニで付けているわ」
「ルエル。のこリング今までに何個売れた?あと何個残っている?」
「販売数はゼロ。在庫もまだるわ」
「だろ。赤字にならなければ売ってしまった方がよい。この店にとっては不良在庫になりつつある」
「わかったわ。二個で五万ジェニね」
「あぁ、よろしくな」
俺は再びコソーリと売り場に戻る。
このままいけばリングは売れるな。
愛はどんな感じだ?
「絶対これがいいって!」
「そ、そうかな?」
「これで彼女も振り向いてくれるよ!」
「何と言って渡せばいいんだろ?」
「そんなの簡単!『お前が好きだ!俺と一緒にパーティーを組んでほしい!』でしょ!」
「そ、そんなストレートに!は、恥ずかしい!」
「女の子はいつでも待ってるの!はっきりしてほしいんだよ!ほら、頑張って!」
「わかった!頑張る!じゃぁ、これ下さい!」
「毎度!会計はこっちね!」
えっと、接客しているのか?
三人バラバラだな。これからこの店は大丈夫なのか?ものすごい不安だ!!
「おい、にーちゃん。これは売り物か?」
「はい、どちらになりますか?」
「このナイフだ」
「はい、こちらも販売させていただいております」
「そうか。なかなか良い出来のナイフだな。どれ、一つもらおう」
「ありがとうございます。お会計はこちらになります」
俺はカウンターに行き、ルエルに会計を引き継ぐ。
「ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!!」」」
何も買わなかったお客様もいるが、まぁまぁ売れた方かな?
「ルエル、あのナイフいいものなのか?」
「いいナイフだと思うわ。ボムおじさんの作ったナイフはこの辺では一番いいかも」
「いつでも怒鳴っているボムおじさんか。そういえばお向かいの店だったな」
「一応この国の中でもトップクラスで名工と言われているわ」
「そうなんだ。今度店に行ってみたいな」
「直ぐに行くことになると思うわ」
「まぁ、すぐそこだしな。いつでも行けるか」
「お兄ぃ!売れた!良かった!」
「私も売れました!それなりに高価なアクセサリー買ってもらえました!」
うんうん。イリッシュはいい接客だね。笑顔も可愛いし。
愛は、ノリだな。人にもよるが、今回はあたりだった。
あのやり方を嫌うお客様もいるので、気を付けないとね。
ルエルは、どうしよう。もぅ、性格の問題なんじゃないか?
「みんな、お疲れ様。ちょっとあわただしかったけど、何とか乗り越えられた!これからもがんばろう!」
「そうね。商品の補充もしたいし、売り場も少し荒れたから直さないとね」
「さて、お客様も引いたし作業の続きをするか。そうだ。愛、外の窓は俺が開け閉めする。危ないからな」
「お兄ぃ。優しいね。何か裏があるんじゃない?」
「そんなことはない。妹を危険な目に合わせたくないんだ」
「だったら初めからお兄ぃがすればいいじゃん」
「確かにそうだな。すまん、気が回らなくて」
「まぁ、しょうがない、お兄ぃはそそっかしいからね」
そろそろ夕方だ。窓から夕日が差し込んでくる。
この世界の夕日もきれいだな。地球と違うこの世界でも同じように日が暮れる。
店の中もオレンジ色に染まりつつあり、アクセサリーの宝飾部分が輝いている。
「ちょっといいかしら?」
「どうした?」
「今日の営業はそろそろ終わりにしようと思うの」
「なんでだ?」
「この後、ちょっと用事ができたのよ」
「そうか、ルエルだけ出かけても大丈夫だと思うぞ」
「ごめんなさい。話の流れで全員で行くことになってしまったの」
「ルエルさん。みんなでどこかに行くの?」
「急に決まったな。いつの間に決まったんだ?」
「さっき、一人の女性が来店していたでしょ?その時に決まったの」
「それは急ですね。でも、私もいかなければならないのですか?」
「そうね。全員で来てほしいって事よ」
「詳しいことは店を閉めてから話すか。それじゃ、閉店準備をしますか」
イリッシュは帳簿をつけている。
愛は商品補充と整理。ルエルは店内の清掃。
俺は外の窓閉め。これって雨の日もやるのかな!
閉店準備も終わり、位置口を閉める。
外は少し暗くなりつつある。街灯もつき始めたようだ。
作業が終わり、皆テーブル席に着く。
「さて、どこから話を聞こうか?」
「詳しい事は行った先で聞くと思うわ。今夜食事に呼ばれたの。私たち全員」
「食事会!楽しそう!ね、イリッシュちゃん、楽しそうじゃない?」
「お食事会いいですね!でも、誰に呼ばれたんですか?」
「ボムおじさんよ」
ドカーーン!お向かいのボムおじさんに呼ばれたの?
「みんなを呼んで、食事会をしたいんですって。他にも話があるそうよ」
そ、それは楽しみですね!
「ルエルさん。服どうしよう!何着ていけばいいの!」
「何でもいいわよ。このままでもいいし。特に指定はないわ」
「俺もこの服のままでいいのか?」
「ボムおじさんとの付き合いは、私が生まれる前から交流があるの。服くらい気にしないわよ」
「じゃぁ、俺はこのままでいいや。みんなは?」
「私もこのままでいいわ」
「みんながそのままなら、私もこのままで行く!」
「そうですね。せっかくですから、おそろいの服で行きましょう」
今夜は食事会。
この世界で初めてのお呼ばれだ。
粗相のないように。マナーに気を付けないとね!!




