第055話 ~脚立とギリギリ~
俺達は店舗のプチ改装の準備を進める。
「さっきも話した通り各自業務を進めて欲しいが、その前に一つ行う事がある」
「何かしら?」
「挨拶の練習!そして笑顔の練習だ!」
「そうですね!挨拶も笑顔も重要ですからね!」
「お兄ぃ、なんか張り切ってるね。何かあったの?」
「特に何もない!この店でどれだけ儲けられるか、俺の力の見せ所だ!」
「ユーキ、張り切りすぎて疲れないようにね」
「わかってる。では、まず笑顔から!こんな感じで笑顔を作ってみてほしい」
俺は営業スマイルをみんなに見せる。
「お兄ぃ。変な顔」
「ふふっ。ユーキ面白いわね」
「ユーキ兄。楽しい顔ですね」
すごい言われようだな。そんなにおかしいか?
「愛。笑顔!はい!」
「こ、こうかな?」
愛は笑顔を作っているがにやけている。
「はい、ぶーー。次、ルエル!はい!」
「こうかしら?」
ルエルも笑顔を作っているはずなのに、にらみつけられている感じだ。怖い。
「ルエル!怖い!次、イリッシュ!はい!」
「こですかね?」
イリッシュはにっこりと、とてもかわいらしい笑顔をする。
いやん。かわいい。ぎゅっとしたくなるわ。
「合格だ!他の二人もイリッシュを見習うように!」
「お兄ぃも見習うように!スケベ顔だったよ!」
「そうよ、ユーキも人のこと言えないわ。ユーキもがんばりなさい」
「わかった。俺も頑張ろう。イリッシュ、いい笑顔だ。とてもかわいいぞ」
イリッシュは頬を赤くしながら、笑顔になっている。
「では、次に声出しを行う!俺が初めに声を出すので、はい! と言ったら続くように!」
「いらっしゃいませ!」
軽くお辞儀をする。
「「「いらっしゃいませ!」」」
三人も軽くお辞儀をする。
「かしこまりました!」
「「「かしこまりました!」」」
「お待ちくださいませ!」
「「「お待ちくださいませ!」」」
「お待たせいたしました!」
「「「お待たせいたしました!」」」
「ありがとうごじゃいました!」
あ、かんだ。
「「「ありがとうごじゃいました!」」」
あ、みんな続けて言っちゃった。ごめん。
「すまん、かんだ」
「ユーキ、あなたがかんでどうするの?しっかりしなさい」
「すまん。まぁ、こんな感じで、オープン直前にみんなで仕事をする雰囲気を作っていく」
「お兄ぃ。お店! って感じがするね。ちょっとワクワクする」
「ユーキ兄。これから楽しくなりますね!」
「そうだな。ただ、楽しいだけではダメだ。売り上げがあって初めて店をしている意味がある」
「そうね、売れなければこれから先、やっていけないものね」
「では、先ほど話した通り、作業を進めようか!」
「「「はい!」」」
愛は縫い終わったカーテンを持って、窓に取り付けを始める。
結構高い位置の窓もあるので、脚立もしっかりと準備している。
ルエルは資料を探しに二階へ。
帰るヒントが見つかればいいのだが……。
イリッシュは縫い物の図面を見ている。
「ユーキ兄。これって?」
イリッシュが指さしたのはワンピースの図面だ。
「これは、店にあるワンピースにベルトループを付ける。そこにリボンを通し、結べるようにする」
「ただのワンピースではなく、リボンを通すのですか?」
「そうだ。見たところ、このあたりで売っているワンピースにはアクセントが何もない」
「確かに、そうですが。色はどうしますか?」
「そうだな、濃くない、さわやかな感じがいいな」
「わかりました。この位だったら簡単なので、すぐに作ってみますね」
「ありがとう。助かるよ」
「あと、この小さな布バックみたいのは?」
「これは財布だ。お金を入れる巾着袋の代わりに使う。ギルカやメモ用紙も入るようにしてある」
「これは結構便利そうですね。他では見たこと無いアイテムです」
「他には何か聞きたいところはあるか?」
「今の所大丈夫です。わからなくなったらまた聞きますね」
「あぁ。よろしく頼む」
俺はイリッシュとの話を終え、売り場の在庫を見る。
結構売れ残り品が多いな。今回イリッシュの力で、何とか不良在庫をさばいて、新しいアイテムを投入できれば……。
とりあえず、リメイク用のアイテムはこっちの箱に入れて、カウンター付近に移動。
空いたスペースに倉庫から新しいアイテムを補充する。
入り口入って目の前はおすすめアイテム。
右手は衣料やバック、帽子などのやや大きめのアイテム。
左手はアクセサリーや雑貨。
カウンター付近には魔道具を並べる。
プライスはとりあえずこのままでいいか。
あとでルエルに相場を確認しよう。
「お、お兄ぃ!ちょっと手伝って!脚立が揺れる!押さえて!」
「大丈夫か?今、行く」
俺は愛が使っている脚立を抑える。
「ありがとう!危うく倒れるところだったよ。そのままちょっと押さえててね!」
危ないな。この作業、俺がやった方がいいのか?
と、上を見る
なんてこった。窓を開けてカーテンを付けているから風が入って来るじゃないか。
愛のスカートがひらひーら揺れている。
ギリギリ見えそうで見えない。
いや、見てはいけない。俺は兄だ!脚立の上には妹がいるんだ!
でも、妹って普通に可愛いよね。クラスでも結構もてているようだし。
いやいや、そんなことは関係ない!
でも、この見えそうで見えないところがぁ!!!
「ユーキ何しているの?顔が怖いわよ」
はうぁ!!びっくりした!
「ルエルか。資料は見つかったのか?」
「話をそらさないで。何を見ていたの?」
「ナニモミテナイヨ」
ルエルの右手が俺の左頬を狙って来る!
俺はとっさに後ろに下がる。
目の前を ヒュ! と平手が通り過ぎていく。
危ない!何とか躱せた!
が、脚立がぐらーーんと揺れて、倒れる!
し、しまった!!!
愛が上から落ちてくる。
スローモーションのように時間が流れる。
ルエルも気が付き、愛の助けに入る。
俺もルエルも受け止める体制に入った。
よし!いつでもこい!!!
「お、お兄ぃ!!!!」




