第054話 ~黒服と尻尾~
「お兄ぃ。何その服」
「ユーキ兄。さすがにこれは」
「ユーキ。いったいどこで買ってきたの?」
あれ?この反応はもしかしてダメっぽい?
「この制服で店舗に立つ!もちろん、俺の分もある!」
「お兄ぃ。これってメイド服だよね?」
「そうだ。俺のは黒服っぽいぞ」
メイド服は黒のワンピースをベースにし、白のエプロンがとってもかわいい!
しかも、少しレース調になっており、そこがまた美しくもある。
若干スカート丈が短かったり、胸を少しだけ強調できたり。
しっかりとオプションもつけてある。我に抜かり無し!
俺のは黒ズボンに白シャツ。エプロンは黒色で腰より下しかカバーしないタイプ。
丈は少し長めで足首まである。
「ユーキ。私達はメイドでもないのにメイド服を着るのかしら?」
「わ、私は奴隷になるところでしたので、ユーキ兄が着ろというのであれば着ます!」
「俺の世界では、喫茶店や店舗でも普通にメイド服着ているぞ」
「お兄ぃ。それって、ごく一部の店だけでしょ?一般化しないでよ」
ナイスツッコミ愛。まったくの正論だな。
「まぁ、確かに一部の店舗限定ではあるが、お客様に支持されているぞ」
「確かに支持はされていると思うけど。ルエルさん、どう思う?この服着る?」
「ユーキ。私たちが制服を着ることによって得られるメリットはあるかしら?」
「もちろんある。店員だと一目でわかるし、清楚感がある。それにこの服を着たみんなはきっと可愛い!可愛い店員のお店は繁盛する!」
三人の頬が少し赤くなる。
「わ、私は大丈夫です!ユーキ兄が選んでくれたなら、きっと大丈夫です!」
「これで売り上げが良くなるなら。その話に乗りましょうか」
「お兄ぃ、私も着るの?」
「もちろん。愛も店員として売り場に出るからな」
「はぁ、しょうがないなー。みんな着るなら私も着るよ」
三人はなんだかんだ言いながらそれぞれの服を持って裏に行く。
心なしか皆嬉しそうにしているのは気のせいあろうか?
さて、俺も着替えるか。
ここじゃ、目立つしお客さん来たらまずいから、カウンターの中でこそっと素早く着替えよう。
上半身を着替え、ズボンをを脱ぐ。
カラン コローン
ちょ!このタイミングで来客!ま、まずい!下はオンリーパンツだ!
「い、いらっしゃいませ!」
「あら、珍しいわね。いつもは女の子がお店にいるのに?今日は休みなのかしら?」
40代位の女性のお客さんだ。話の流れから常連さんか?
「いえ、休みではありません。今、席を外しているだけです」
「そう、残念ね。戻って来るかしら?」
「はい。そんなに時間はかからないと思います」
「じゃぁ、少し待たせてもらうわ。カウンターの席に座っていて良いかしら?」
「えぇ、大丈夫です」
俺は全く大丈夫じゃない!
カウンター越しに女性の目の前でオンリーパンツーだ。
後ろから見られたら非常にまずい。ルエル達が戻って来る前に何とかしなければ。
何とかお客さんを他の方に意識を向かせ、その隙にズボンをはく。
十秒だ、十秒あればいけるはず。どうすれば……
「お客様。本日はどのようなご用件で。よかったら先に伺いますが」
「いいのよ。直接あの子に話すわ」
「かしこまりました。もうしばらくお待ちください。そろそろ戻ると思いますので」
スルーだ!空ぶってしまった。もう一度話しかけたらもっと気まずくなる。
何か手はないか。そうだ!
「お客様、良かったら何かお飲み物でもお持ちいたしましょうか?」
「そうね、少し待ちそうだから頼もうかしら」
よっしゃ!乗ってきた!
「そちらにメニューがございますので、よろしかったらご覧ください」
「えぇ、決まったら声をかけるわね」
お客様はメニューを広げ、目線がメニューブックに移動する。
その瞬間!
俺は加速世界に入る(入ったつもり)。
床に落ちているズボンを足で引き寄せ、左右の足をズボンに入れる。
そして、光速の速さで、しゃがみズボンを上げる。
腰の紐を結び、完了。ここまで約五秒。完璧だ!
「お兄ぃ、何しているの?」
ドキーーン!え、見られた?
「お客様、少々お待ちください。戻ってきたようなので、一度席外しますね」
「えぇ、わかったわ」
俺は愛の方に歩み寄り、愛の顔の目の前まで顔を近づける。
小声で愛にささやく。
「愛か。いつからそこに?」
愛も小さな声で俺に話す。
「何かお飲み物でも、って所から」
「なぜもっと早く声をかけない?」
「見てて楽しそうだったから」
「俺、バカみたいじゃないか」
「バカなんでしょ?みんな着替え終わったよ」
「じゃぁ、売り場に来るように伝えてくれ。あとルエルにはお客さんが来ていると」
「わかった。お客さんに変なことしないでよ!」
「しない!いいから早く呼んできてくれ」
「お客様。お待たせいたしました、間もなく戻ります」
「ありがとう。飲み物だけど、紅茶をいただけるかしら」
「かしこまりました」
タイミングよく、三人が戻って来る。
おー!みんな似合っているじゃないか。予想通り!
ルエルはちょっと胸を強調気味のメイド服。
愛はスレンダーな感じにまとまっている。。
イリッシュはレース多めで可愛さをアピール。
「みんな、似合っているじゃないか。サイズもあっているし、良かった」
「お兄ぃ、みんなで着るとちょっと楽しいかも!」
「そうですね!おそろいの服ですもんね!」
「思ったより動きやすそう。しばらく着てみましょうね」
「ルエル宛にお客さんだと思う。紅茶の注文も合わせて受けている。対応をお願いできるか?」
「わかったわ。カウンターにいるお客さんね」
ルエルはそのままカウンターに行き、紅茶の準備をしながらお客さんと話をしている。
「さて、着替えも終わったし、ルエルのお客さんがまだいるが、仕事を始めよう」
「「はーい」」
「さっきのテーブルに一度もどるか」
二人は先にテーブルに向かて歩いていく。
後姿もいいね!思ったより可愛い感じだ。
そうそう、イリッシュも尻尾を出して、スカートをまくりあげて って!
ストーーーップ!イリッシュ下着見えてる!
「愛!」
「ん?どうしたのお兄ぃ」
俺は無言で、イリッシュの尻尾を指さす。
「イ、イリッシュちゃん!これはまずいよ!見えてるよ!」
「え?あ!ご、ごめんなさい!尻尾隠すの忘れてました!」
イリッシュは尻尾をスカートの中にひっこめる。
「イリッシュ。尻尾が普段から出るように、穴とか開いていた方がいいか?」
「そ、そうですね。結構無意識で尻尾が動く事が多いので、開いていると助かります」
「では、あとで穴を開けるか」
「せっかく新しい制服なのに、穴を開けてもいいのですか?」
「構わない。穴があった方がいいだろ」
「ありがとうございます。あとで開けておきますね」
三にんでテーブルに着くと、さっきのお客さんはもう帰るようだ。
カラン コローン
「ありがとうございました」
ルエルはお客さんに対して声を出したが、無表情だな。
ルエルもテーブルに来て、4人そろった。
さて、制服も着たしお仕事しますか!
「では、やっと本題だ。これからの仕事分担を発表する!」
俺はみんなにそれぞれ仕事を割り振りする。
「愛はカーテンの取り付け」
「オッケー!さっきのカーテン付けるんだね!」
「イリッシュはこの紙を見て、縫い物を」
「わかりました!頑張ります!」
「そして俺はお店の商品を陳列をする」
「私は何をすればいいのかしら?」
「二階の実験室からルエルのお父さんが残した資料を探してほしい。俺たちが帰る為のヒントを探したい」
「何冊かレポートがあると思うから、探してみるわ」
「それらしいものがあったら一階に持ってきてもらえるか?俺も見たい」
「お兄ぃ、私たちが見てもわからないよ。まったく字が読めないんだからさ」
「っふ!じゃじゃーーん! 翻訳メガネー。これがあれば字が読めるのさ!」
「いつの間にそんなアイテムを!」
「さっき買ってきた。これで多分俺も字が読めるはず!」
さぁ!フェアリーグリーンの店舗運営開始だ!




