第049話 ~仕入れ品と針~
ルエルと二人でギルドに入る。
相変わらず大きい建物だ。さっきも来たが人が少ない。
朝の早い時間以外は空いているのだろうか?
二人で受付のカウンターに行く。
さっきギルカの登録をしてくれたミンミンがいた。
「いらっしゃいませ。あら?今度は二人でどうしたのかしら?」
「商品を仕入れに来たの。二人で品物を見たいのだけど、いいかしら?」
「お二人ですね。かしこまりました。では、ギルカを一度お預かりします」
俺たちはギルカをミンミンに渡す。
「はい。終わりました。お返しいたします。いつもの場所で選んでください」
「ありがとう。ユーキ、行きましょう」
「わかった」
俺は軽くミンミンに会釈し、ルエルの後を追う。
ルエルは階段を上がり、二階へ行く。
俺はルエルの後を追っている。結構急な階段だ。お年寄りには優しくない。
しかし、いい角度だ。俺の目の前にはルエルがいる。
数段先をルエルが上がっていく。これは不可抗力だな。
階段を上がりきり、いくつかの部屋がある。
そのうちの一つにルエルが入っていく。
ガチャ ギィィ
部屋の中は店のようになっており、テーブルや棚、ハンガーラックには色々なアイテムがある。
もちろん、アクセや服、雑貨もあるが、食べ物や家具などもある。
何でもあるな。
ん?でも剣や鎧、兜は無いな。なんでだ?
「ルエル。ここのアイテムを仕入れることができるのか?」
「そうよ。ここでアイテムを品定めして、カウンターに番号と数量を伝えると、あとで店に運んでくれるの。もちろん、自分で持ち帰ってもいいわ」
「色々アイテムがあるが、武器や防具はないのか?」
「一般の商人では武器や防具の取り扱いは難しいわね。簡単な装備なら少し扱うこともあるけど、基本的には専門店で売買するわ」
「そうか。武器防具と一般アイテム、道具類で分けられているんだな。ルエルは武器扱うのか?」
「少しだけね。女性用にスタッフとか短剣、ローブや帽子くらいかしら」
「そのあたりはここで仕入れるのか?」
「刀剣類以外はここで仕入れるわ。刃物は加治屋さんで作ってもらうようにしてるの」
「そうか。じゃぁ、刀剣類以外で仕入れるアイテムを決めますか」
「そうね、二人で一緒に見る?それとも別々に見る?」
「二人一緒でいいんじゃないか?」
「わかったわ。じゃぁ、こちらから見ていきましょう」
俺はルエルと一緒に品定めする。
選ぶのは女性向けで、可愛くて、あとでリメイクできそうなアイテム。
できれば安価で質がいいものがいいな。
「なぁ、魔道具もここにあるのか?」
「魔道具もあるわよ。えっと、向こうにあるわ。あとで見てみましょう」
「あぁ。わかった。しかし、アイテム数が多いな」
「この部屋以外にもあと二部屋あるわ」
な、なんですと!結構時間かかりそうですね!
「そ、それは多いな。全部見れるのか?」
「部屋ごとにある程度商品が分かれているから、大丈夫だと思うわ。さ、急ぎましょう」
俺はルエルと一緒に、可愛いアイテムを選んでいく。
正確には俺が選んだものをルエルに許可を貰っている。
だって、ルエルさんが選ぶもの、結構センスがね・・・・。
他の部屋も回り、何点か購入を決めた。
「こんなもんでいいか?」
「十分だと思うわ。あまり多くても不良在庫になってしまうしね」
お、わかってきましたね。いつでも仕入れることができるのであれば、一気に仕入れる必要はない。
売れた分だけ仕入れればいいだけだ。
ルエルと受付カウンターに行き発注を行う。
「ありがとうございます。お支払いはいかがいたしますか?」
「俺が払う。硬貨でいいか?」
「はい。大丈夫です」
俺は袋から支払金額を出す。まだ、結構余裕があるな。
でも、無駄使いは厳禁だな。今回の仕入れ品が上手く売れたらまた来よう。
「はい。ちょうどお預かりします。全部配送しますか?」
「ええ。いつも通りでお願いするわ」
「かしこまりました。今回の発注はいつもより少なめですね」
「そうね。売れたらまた来るわ」
「ぜひ来てください。お待ちしております。あ、これサービスです。良かったら使ってください」
ルエルはミンミンから何かチケットを受け取った。
「あら、ありがとう。早速使ってくるわ。ユーキ行きましょう」
俺はルエルに引っ張られ、隣のテーブル席に連れて行かれる。
「ドリンク券をもらったわ。何が飲みたい?」
「何でもいいぞ。ルエルと同じ飲み物で」
「そう。じゃぁちょっと待っててね。もらってくるわ」
ギルドの受付カウンターとは別の簡易喫茶?のカウンターにルエルが向かう。
チケットを出し、ドリンクを貰ってくる。
「お待たせ。ユーキも同じ飲み物でよかったの?」
「あぁ、問題ない」
俺はルエルからもらった飲み物を飲む。
え?何この味。初めての味だ。
甘酸っぱく、さっぱりしているが、のどごしはさわやか!
「ルエルこれは?」
「これはフラワードリンクと言って、この街でどこでも飲めるジュースね」
「花なのか?」
「そうよ。花の蜜を集めて味を付けているの。結構おいしいでしょ」
「あぁ、初めての味だがうまいな。一緒の飲み物を頼んで良かったよ」
二人で一つのテーブルに座り、お茶をする。
たわいもない話でも、楽しく感じる、
そういえば、俺はルエルの事を何も知らないな。
俺の事もルエルは知らない。
短い時間の付き合いになるのはお互いに分かっているから、深入りはしないようにしているのか。
そんな関係でいいのか?
自分の中に疑問が出る。しかし、今は稼ぐこと優先!
お金がないと、ご飯も食べられ無い!がんばれ俺!
「なぁ、もし。もしもさ。俺が元の世界に帰れないって決まったらどうする?」
「家でずっと一緒にお店をすればいいわ。だって、ユーキが儲けてくれるんでしょ?」
「そうか。じゃぁ、まずは今回仕入れた分で儲けますか!」
ルエルはジュースを飲みながら、俺を見ている。
吸い込まれそうな瞳で何を見ているのだろうか?
「そうね。儲けましょう!」
ジュースも飲み終わり、席を立つ。
「ルエル、そういえば仕入れのアイテムはいつ届くんだ?」
「次の鐘が鳴る頃に届くと思うわ」
え!?それってもう直ぐじゃないか?
「えっと、もうそろそろ届くという事ですかね?ルエルさん」
「そうね、そろそろ届くと思うわ」
ガッデム!まだ受け入れ体制整えてない!
「ルエル帰るぞ!時間がない!急げ!」
「わ、わかったわ」
俺はルエルの手をとり、ギルドを後にする。
ミンミンがニヤニヤしながらこっちを見ていたが、気にしない。
今は時間がない!急げ!
「ルエル!なんでこうなる!」
「え?すぐに届いた方がいいと思って」
「次からは届く時間も俺に相談してくれ」
「わかったわ。次は相談するわね。ごめんなさい、急がせてしまって」
「いや、こっちもすまん。そこまで考えていなかった。急ごう」
俺はルエルの手を取り、フェアリーグリーンへと向かう。
途中人混みもあり、なかなか思うように進まなかったが、何とか店の前に着いた。
「着いた!まだ来てないな!」
「大丈夫よ。まだ着ていないわ」
「店に入って、受け入れの準備だ。あの二人にも手伝ってもらおう」
俺たちが店の扉を開こうとした時中から声が聞こえる。
「アイ姉、初めてなのに上手ですね」
「イリッシュちゃんはすごく上手いね。私はまだ、そこまで経験がないから」
「ほら、もう少し力を抜いてください。それでは奥まで入りませんよ」
「っん。だって、上手く入らないから、力が入っちゃって」
「私が見本を見せますね。ほら、見てください。この穴に入れるんです」
「暗くて良く見えないよ。もっと開いていい?」
「あ、開いてはだめです。それ以上開くと裂けてしまいます」
「ちょっとならいいよね?開くよ」
「あっ、ダメ。アイ姉、お願いそれ以上開かないで。ほら、こうすれば穴が良く見えますから」
「ほんとだ。良く見える。イリッシュちゃんすごいね。こんなに小さな穴なのに、良く入るね」
「コ、コツがあるんですよ。息をとめて、先を舐めて、そっと入れるんです」
「なるほど。私も舐めてそっと入れたら、すんなり入るかな?」
「大丈夫です。アイ姉なら入りますよ。私でも入るんですから」
「じゃぁ、今度こそ。舐めて、力を抜いて、息を止める・・・」
「いい感じですね。入っていきますよ。さっきまで入らなかったのに、今度はうまくできましたね」
「お、奥まで入った。この後、どうすれば?」
「もっと奥に入れてください。ぐいぐいするんです」
「もっと入れるの?先っちょだけじゃダメ?」
「はい。もっと奥まで、しっかりと入れないといけません。さ、アイ姉、一気に」
「い、いくよ!」
「出来ましたね。上手く入りました」
「こ、これでいい?上手く奥まではいってる?」
「はい!大丈夫です!これでやっとミシンが使えますね!」
「良かった、やっとできた!針の穴に糸を通すのが難しい!」
「何度も練習すれば大丈夫です!さ、張り切って縫いましょう!」
「ガンバローー!」
「でもカーテンを開くのは無しですよ。薄い生地なので、破れてしまいます」
「ごめん、ごめん。カーテン避けたら、見えるかなと思って」
「見る場所の角度ををちょっと変えれば大丈夫です」
「あと、一枚で終わるね。急ごう!」
カラン コローーン
「今、帰った!!」
「二人とも大丈夫だった?」
きっと、俺とルエルの顔は赤いんだろうな・・・。
さぁ、仕入れ品が届くまでに準備するか!




