第045話 ~レイアウトと売れるアイテム~
俺はルエルと一緒に店内を見渡す。
愛とイリッシュは集計で忙しそうだ。
「なぁ、ルエル。この商品が乗っているテーブルの位置とか、もともとこうなっていたのか?」
「いいえ。初めは違ったわ。ギルドから仕入れた商品を並べているうちに、位置を変えて今の位置になったわ」
見る限り、導線もなければ配置も適当になっている。
通路幅も狭い所と広い所がありまちまちだ。
「まず商品よりもこの商品を置いているテーブルや棚の位置を変えようと思う」
「でも、どの商品も手に取れるし、通路も全て通れるわよ?」
「それはそうだが、来店したお客様の事を考え、見やすい配置、通りやすい通路幅が必要だ」
「そうなの。お店の事に関してはユーキの方が知識がありそうね」
「俺もそこまで詳しくはないが、店舗を運営するうえでは基本だと思うぞ」
「私にはあまり商売の才能はなさそうね。ユーキの魔法の才能と同じくらいね、きっと」
それって初心者レヴェルって事ですね、ルエルさん。
俺は、ルエルと一緒に新しい配置を考えていく。
テーブル、棚、壁面にある飾り棚など、全ての導線を考え紙に書き起こしていく。
「ユーキは図面を書く才能も有りそうね。わかりやすいわ」
「これは自宅の店で何度もやったからな。父さんが結構うるさくてね」
店舗全体を枠にし、入り口、テーブル、棚、カウンターなどを配置。
店の奥にあるスペースは喫茶店として機能するようにテーブルといすを配置。
カウンターテーブルもこの店にはあるので、お客様が座れるように椅子を配置する。
「全体の配置はこんな感じでいいか?」
「いいわね。今よりもすっきりしてるわね」
「あと、店の明るさだな。全体的に暗い。もっと明るくしたいが、何か案はあるか?」
「閉めている窓があるから、天窓も含めて全て開けてみる?」
「そうだな。でも、なんで半分くらいの窓を閉めているんだ?」
「日に当たったら商品が傷むかと思って、出来るだけ閉めておきたかったのよ」
なるほど。一理あるな。
確かに服とかバックとか直射日光があたると日焼けするし、色も抜けるな。
「開けた窓に、薄い白のカーテンとかつけたらいいんじゃないか?直射日光は避けることができるぞ」
「そうね、それがいいわね。確か倉庫にあったと思うから後で準備しましょう」
これで店内の明るさが解決すればいいが・・・。
「あとは、実際に販売する商品のピックアップだな。ルエル、絶対に残したいアイテムはあるか?」
「絶対に残したいのは、この指輪と、このローブ、あの髪飾りくらいかしら?あ、あとこの指輪も」
ルエルが言ったアイテムを見てみる。
真っ黒なローブ。ドクロノリング。骨の形をした髪飾り。
えっと、この世界の『可愛い』は俺の認識と違うかもしれない。
最後に言った指輪は俺がつけている指輪と同じデザイン。翻訳の指輪だな。
「ルエル。この三点は可愛いのか?」
「可愛くないわね」
「では、なぜ残す?」
「売れたら高いのよ、この三点は」
ルエルさん。違うよ。俺さっき説明しなかったけ?
可愛いお店で攻めると。
ルエルさんも自分で言ったじゃない!
可愛いお店がいいって!
「ルエル。この指輪とこの髪飾り。来店した女性のお客さんが買うと思うか?『わぁ、このドクロリングかわぃー、こっちの骨の髪飾りもいいわね!』とか話している所、想像つく?」
「まったく想像できないわね」
「だろ?だったらこれはルエルのお店には合わないって事だ」
「そぅ・・・。残念だけど仕方ないわね。仮に売れないとしたら、このアイテムはどうするの?」
うーん、そこなんだ。売れないアイテム、要は不良在庫が恐らくこの店には多い。
かといって捨てるわけにもいかない。
「ギルドに返品できるか?」
「未使用品だったら卸価格の半額で買い取ってもらえるわ」
「半額で買い取られるよりも、原価で販売した方がいいな。何とかして売ろう」
「でも、売れないわよ。仕入れてから一個も売れていないし」
一個も?一個も売れてないの?これだけ数あって、一個も売れてないの?
うーん、ちょっと難しいな。あの手で、いくか。
「ルエル。ミシンある?」
「ミシンだったら、お母さんが使っていたミシンが倉庫にあるわ」
『ミシン』は翻訳してくれるんだな。
この翻訳の指輪は恐らく共通認識のアイテムだったら翻訳出来て、共通認識できない未知の物だったら、ただの言葉として発せられるんだな。
凄いぜ翻訳の指輪!
「あとで、ルエルにミシンを使ってもらいたいんだが」
「私、使えないわよ」
「え?なんで?」
「教わっていないから。今まで縫い物は手縫いしかしたことがないの。生地から何か作るのはずっとお母さんがやっていたの。ごめんなさい」
予定外だな。
あとでミシンを見せてもらおう。最悪、俺が使いこなす!
電気屋にミシンはあるからな!何回か修理もしたことあるし、たぶん大丈夫だろう。
「よし、この件はあとで俺が何とかする」
「ユーキ、ごめんなさいね。私、結構不器用なの」
不器用であのナイフ捌きはないよね!絶対器用でしょ!
「お兄ぃ!集計終わったー」
「終わりました!」
どうやら愛たちの作業が終わったようだ。
「店舗のレイアウトはできたから、在庫確認もしたいし一度戻るか」
「そうね。きりがよさそうだから、お茶を入れるわ」
みんなテーブルに着き、ルエルの淹れてくれたお茶を飲む。
「ルエ姉の淹れてくれるお茶は、とってもおいしいですね」
「ありがとう、イリッシュ。お店でもこの紅茶を出すのよ」
「そうなんだ!こんなにおいしいのに、お客さん来ないね!」
そう、問題はここにもある。来店するお客さんがほぼいない。
通りはにぎわっている。他の店はそれなりにお客さんがいるっぽい。
でも、この店は カコーーン だ。
「早速だがこの店は今、危機に瀕している!売り上げが無い!お客様もこない!でも在庫はある!」
「反論はないわ。残念だけどね」
「ルエルさん、これからたくさんお客さん来るから心配しないでね!」
「私もお店せしたこと無いけど、頑張ります!」
「アイもイリッシュもありがとう。ユーキ、期待してるわ」
「今からこの店を繁盛する店にする為、皆で一丸になり共に行動を開始する。皆、準備はいいか!」
「「「はい!」」」
こうして、ルエルのお店 フェアリーグリーン 繁盛への第一歩を踏み出す。




