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第041話 ~イリッシュの父と新しい家族~




沈黙のまま時間が流れる。



モグモグモグ ゴクゴク カチャカチャ



「「「・・・」」」



モグモグ ゴクゴク プッフー




「お兄ぃ、そこのパンとって!」


「アイ。今どんな状況かわかるか?」


愛はひたすら食べている。さっきからずっとだ。

そんなに食べたら太るんじゃないか?


「わかってるよ。イリッシュちゃんがこれからどうするか。食べながらちゃんと聞いてるよ。寝てないからね!」


「さすがの愛でも、食べながら寝るのは無理そうだな」


「ふふっ、寝ながら食べていたら、面白いわね。アイだったらできるかもしれないわね」



愛のおかげで長い沈黙の時間が、ちょっとだけ明るい場に戻った気がした。




「わ、私は戻れません!帰る家はもうないんです!」


「帰る家がない?イリッシュの両親は家にいるのだろ?」


「両親は家にいません。今は恐らく王宮にいると思います。そして、きっと帰る事はありません」


「帰ることはない?詳しい事はわかるのかしら?」


「私が売られる直前に父が話していました。本当かどうか、私にはわかりません」


「今、その話を聞いてもいいか?」


「はい。皆さんは私の恩人です。ぜひ、話しておきたい事が」


イリッシュは落ち着いた様子でこちらを見ている。

瞳には何かの意思を感じる。



イリッシュの父と母は今、王宮にいる。捕えられたのだ。

ゴブリンを逃がした事による責任追及の為。

財産も没収となり、賠償金の請求額が大きい。

イリッシュを奴隷として売ってしまったのは、一家で死罪より、まだましだと考えたからだ。


イリッシュの父は恐らく戻って来ることは難しいと話していた。

そもそも、なぜゴブリンを街の中に入れたのか?そのあたりもイリッシュは聞いている。


イリッシュの父は先日の、ゴブリン討伐隊メンバーとして参加していたようだ。

そこで、一方的な攻撃に疑問を持ちつつ、参戦している。

しかし、現地にてその態度を変えた。


『ゴブリンとは会話ができる。私が証明するから、もう侵略をやめよう』と。


その場にいた兵士を何とか説得し、ゴブリンを4匹捕え、帰ってきた。


証明を行う為に準備をしていたところ、逃げられてしまった。



イリッシュは両親と別れる直前にこう言われている。


『私たちはきっと戻る事は出来ない。本当にすまない。イリッシュ、慈愛の心を持って生きなさい』


それがイリッシュが両親と交わした最後の言葉。



「ユーキ様は魔物と会話ができると思いますか?」


「できるだろ。彼らも種族は違うが意思も知恵もある」


「私の父と同じ考えですね。良かった、ユーキ様にも分かってもらえる」


イリッシュの目には涙が溜まっている。

今にも泣きそうだ。


泣くなよ!今泣いたら俺が泣かしたみたいじゃん!




「イリッシュちゃん!泣かないで!お肉上げるから!」


「イリッシュ、頑張ったわね。ここでは気を遣わなくていいのよ」



「グス。ひゃい、ありがどうございまず」



「イリッシュ。あなたが良ければここに居てもいいのよ?」


「ルエル様・・・」


「そーだよ!つい最近までルエルさん一人だったんだこの家!今さら一人くらい増えても全然大丈夫!」


「愛。だいじょーぶ! じゃない。それを決めるのはルエルとイリッシュだ」


「いいのですか?ルエル様」


「いいわよ。三食、ベッドに沐浴付き。ただし!その分しっかりと働いてもらうわよ」


「あ、ありがとうございます!」


「あともう一つ条件があるわね」


「何でしょうか?」


「私達の事を 様 つけて呼ばない事。一緒に暮らすのだから、もう家族よ」


「そ、それでは困ります。ユーキ様には300万ジェニの」


「あー、それは返さなくていいぞ。どうしても返したいなら働いて、ルエルに返してくれ。俺はいらん」


「そ、そんな!ユーキ様はそれでいいのですか!」


「もんだいなーい!俺は儲けるのは好きだしお金も好きだが、この世界の儲けはルエルに流したい」


「ユーキ様・・・」


「様いらない!」


「それでは、なんとお呼びすれば?」



はて、何と読んでもらえばいい??

勇樹ちゃん?木下さん?ユッキー?ユーキドン?


これはこれで、どうしましょう・・・。



「イリッシュちゃん!私の事『アイ姉』と呼んで!私、妹欲しかった!」


「それじゃぁ私は、『ルエ姉』でいいわ。可愛いい妹ができたわね」


「じゃ、俺は」


「ユーキ(にい)。この呼び名でいいですか?」


「あぁ、いいぞ。二人目の妹だな」



「みなさん。ありがとうございます。私、頑張りますね!」



「そうね、みんなで頑張りましょうね」


「そう!頑張る!イリッシュちゃんもわからないことあったら何でも聞いてね!ルエルさんに」


「そうだな!ガンバろうな!早く借金返して、帰る方法を見つけないとな!」




新しい家族が異世界で増えた。

あと、何日この世界にいるのだろうか。

家族が増えるのは嬉しい。


でも、それは守るべき人も増えた って事なんだよな。


俺の両手ではいったい何人守ってやることができる?



「イリッシュ。俺から話しておきたい事がある」



関係が深くなって別れにくくなるより。

初めから別れる前提でいた方がいい。


さよならする時がつらいからな。



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