第003話 ~指輪とお盆~
「たっだいまーー。お兄ぃ~、いる~?」
「おぉ、いるぞー、店の方にいるー」
「ちょっと学校の事で聞きたいことあるんだけどー」
「なんだー」
「ちょと、待って!着替えたら直ぐに行くー」
「お待たせー。でね、聞きたいのが授業の件。体育はとらなくてもいいの?」
「体育はどっちでもいいぞ。確か選択授業だろ?学校で運動したい奴が受けるだけだな。ちなみにどの授業でも期末のテストで75点以上で合格だからな。」
「ボーダーライン結構高いね。少し勉強時間多めにするか・・・。でも、朝は毎日一緒に通学するよ!」
「はいはい。あ、そうそう、愛にこれやるよ」
「なにこれ? キーがペンダントトップになってる! すっごくかわいいね。くれるの?」
「あぁ、いいぞ。ほら髪上げて。つけてやるよ」
「ちょっと待って。こ、これでいい?」
「おっけー。ほら、どうだ?」
「なかなか、かわいいね。あ……。 も、もしかしてお兄ぃとペア!?」
「まー、ペアといえばペアかな。あと三本ある」
「え? 三本? どういう事? ちょっと説明してもらおうかしら。場合によっては…」
「お、落ち着け愛。これだ、これ。」
「なるほど父さんからの送りものね。で、お母さんからの方は?」
「まだ空けてないな、一緒に開けるか」
「お兄ぃ。なにこれ?」
「あぁ、アフリカの部族で使ってるっぽい冠。あと、腰ミノと笛がある。民族セットだな、これは」
「これを送ってきて、私たちにどうしろと?」
「腰ミノと冠装備して、ダンス大会に行くか?」
「お兄ぃ。とりあえず、封印しておこうか。あれ?封筒があるよ」
「あぁ、父さんからの手紙じゃないか? まだ読んでないな」
「お兄ぃ、手紙は先に読まないと。今さらだけど読んでおこうか」
「そうだな、先に読んでていいぞ。俺はちょっとコーヒーでも入れてくるよ」
コーヒーはやっぱりドリップ!インスタントとは味が違う!
「お、お兄ぃぃぃぃーーーーー! ちょっと、これ読んで!」
「どうした? 何かすごいことでも書いてあったか?」
「書かれていることが本当だったら、ちょっとどころじゃないよ!」
「そうかそうか、どれどれ…」
俺は父さんからの手紙を読んでみる。
これは、もしかしたら、やってしまったか?
「お、お兄ぃ。これ、どう思う? 本当かな? 私、ちょっと嫌な予感がするよ」
「まずは落ち着け。一度内容を整理しよう」
手紙の内容はこうだ。
この錠前は決して使ってはいけない。この手紙を読んだら、何もせず保管してほしい、と。
錠前、キーはセットの物でどんな手法でも壊すことができない。
今の技術ではどのように作られたのか解明できない。
とある貴族の宝物庫にあったもので、いつからあるのか全く分からない。
その貴族の残した記録では、白金のキーが持つ力が一番強い。
キーを身に着けた状態で錠前を取り付けてはいけない。キーを身に着けた者が異世界に消えてしまう。
他にもまだ未解明な所があるらしいが、詳細は不明。
絶対に錠前を使わない。キーを身に着けない。異世界に飛んでしまうから。
「そんなこと、あるかい! どこぞのラノベじゃあるまいし、そうそう簡単に異世界にいけるか!」
「お、お兄ぃ。これはお父さんのシャレなの? 大丈夫なのかな?」
「大丈夫に決まってるだろ! 実際に錠前も掃除用具入れに使っているが、俺はここにいるぞ」
「え? 錠前も使ったの? 手紙を先に読まずに、なぜここまでの事を…。お兄ぃのバカー!」
「じゃぁ、何でも無いって事を証明しよう。錠前を見に行くぞ。さっき付けたばっかりだ」
俺は愛と一緒に倉庫へ行く。
錠前を取り付けた掃除用具入れの目の前に来たが、いつも通り。何にも変わりない。
「ほらな、愛。なんでもないだろ?」
「確かに何ともないね。でも、この錠前の模様、すごく引き込まれる模様してるね」
「そうなんだよ、キーにも模様ついてるし、おしゃれだろ?」
「え、まぁ、そうだけど…。でも、あんな手紙も一緒に送ってくるということは、何かあると思うんだけど…」
「大丈夫だって。じゃぁ、中のバケツと雑巾持って、店に戻るか」
「そうだね。掃除くらいしておかないとね」
白金のキーを使い、錠前のカギを開ける。
音も無く、スゥーっと鍵が開く。その時に耳鳴りがしたような気がするが、特に気にはしなかった。
扉を開け、いつものように右手でバケツを取ろうと手を伸ばしたとき、自分の指先が消える。
手のひら、手首、腕とまるで水面に入っていくような感じでドンドン吸い込まれていく。
右肩まで入った、戻れない。何かに引っ張られているようだ。まずい。
引き込まれる。あの手紙の内容は本当だ。父さんはなんでこんなもの送ってきたんだ?
頭では色々と考えては消える。父さんの事。母さんの事。
今、目の前で泣きそうな顔をしている愛の事。
声が聞こえない。何か言ってる?すまん。
大丈夫、きっとすぐに戻ってくる。
俺は愛の、たった一人の兄だから……
どこだ、ここは?
寒いし暗い。
でも、息はできている。手紙には異世界と書いてあったが、ここは外国か?
あれ? 俺、服着ていない? 裸足。裸。ネックレスだけつけて、他は何もなーーい。
これは、まさに 大 事 件!
こんなことろ誰かに見られたら、日本でも外国でも非常にまずい!
ガタン ッカッカッカ コンコン
誰か来た!
「×××? ×××××」
何か話しているが、全く分からないぞ!
と、とりあえず隠れなければ!
ギィィィィ
扉が開き、ろうそくを持った少女が入ってくる。
まずい!
俺はとっさに手元にあったお盆でムスコを隠した。
モロ出しの仁王立ちよりはマシだ!
少女と目が合う。
肩まで伸びたきれいな金髪。とがった耳。緑の瞳。
年は10代半ば位?非常に整った顔立ち。
うん、美人だな!
「あ、お、俺は怪しいものではない!俺の名前は勇樹。学生で…」
「×××! ××! ×××××!!」
何か言ってる! 何と言ってる? 顔はびっくり顔。
何か叫んでる。まずいな。どうしよう。
「何もしない! 俺は安全です。あなたに危害は加えない!」
そう言って俺は、両手を上に上げた。
「×××!! ×××! ×××××!」
まずい、まだ叫んでる。
さっきより悪化したかも。
こうなったら強行突破するか?
いや、この家の外もどうなっているかわからない状態で行くのは得策ではない。
何とかして、この状況を打破せねば!
そうだ! 歌おう! 歌は世界共通だ!
俺は必至で歌った。童謡からJPOP。校歌や演歌まで。
もちろん、お盆はムスコをカバーしている。
俺がどんなにアクティブな動きで歌っても確実にキープしている。
少女は叫ばなくなり、半泣きでこちらを見ている。
と、思ったら出て行ってしまった。
初対面の女性の前で全裸で熱唱。
いじめか? これは。
ッタッタッタ 少女が戻ってきた。
何かを俺に投げつけてきた。頭に当たり、下に落ちた。
少女が 『ゆび に つけろ』 とジェスチャーで言ってくる。
ほぅ、俺は片手にお盆を持っている。で、指輪を拾ってつけろと。
イイだろう!
ムスコをお盆でキープしたまま指輪を拾ってつけてやる!
はぁぁ…。
ほぉぉ……。
いまだぁぁぁぁ!
「っしゃぁっは!」
俺はおぼんキープしたまま、光速の動きで指輪を拾い、指に着けた。
決まった。
今の俺は輝いている。
やったよ父さん。俺は頑張った。
付けてから少しすると、また耳鳴りがした。
指輪には宝石が一つ埋め込まれている。
な、なんだ、この不思議な感覚は。
「私の言葉、わかる?」
「あぁ、わかる。俺の言葉も通じるのか?」
「えぇ。一つ聞いていいかしら?」
「一つと言わず、なんでも聞いてくれ。 わかる範囲で答えよう」
「あなたは ヘンタイなの?」
祝異世界!