第034話 ~商人ギルドと出身地~
「お兄ぃ!絶対に二階のテラスに出ないでね!絶対だよ!」
「わかった、わかった。そんなに大きな声で言わなくてもわかってるよ」
「ユーキは何度言ってもわからない時があるようなので、念を押しているのよ」
洗濯は無事に終わったようで、二階のテラスに干しているようだ。
きっと天使の布も干されている事に間違いはない。
俺は出禁だけどな。
「二人とも、そろそろ行こうかしら。もう、ギルドも開店していると思うわ」
「何か持ち物とか必要か?」
「特に何も。手ぶらでいいわよ」
「お兄ぃ。持ち物って。私たちの私物、この世界には何も無いよ!」
ですよねー。愛と二人ですぽぽーんで転移しちゃったみたいだし。
でも、ネックレスだけはそのままだったな。
「鍵の形をしているだけに、帰れるキーアイテムだったり」
「お兄ぃ。何か言った?急に気温が下がった気がしたんだけど」
「気のせいだ。何でもない。さぁ、異世界の街へ、レッツゴー!」
「ゴー!」
「二人ともはしゃいじゃって。子供みたいね」
きっと元の世界には帰ることができる。今はルエルと愛を守ることが優先だな。
第一に稼がないと!!
店の出口から街へ。ずいぶんと人が多く行き来している。
「ルエル。この道ってどこに繋がっているんだ?」
「右に行くと南の門。そのまま街の外に出れるわ。左は貴族街。さらに行くと王宮があるわね」
右は昨日の酒場にパン屋。もっと奥に門がるのか。
俺たちはルエルの後を追いながら、話をする。
「王宮!王様とお姫様いるの!すごい!!」
「王宮を過ぎてそのまま行くと、北の門があって門を出ると地下ダンジョンの入り口があるわ」
「あぁ、昨日話していた魔王が作ったっぽいやつか」
「ダンジョン!お兄ぃ、ゲームの世界みたい!モンスター居るのかな!」
「モンスターもいるわよ。倒すと魔石や素材を手に入れることができて、ギルドで買い取ってくれるわ」
「お兄ぃ。稼ぎ時だよ!退治に行こう!」
「愛。俺たち強いのか?ここは日本でもないし、ゲームでもない。間違ったら死ぬぞ」
「し、死んじゃう?」
「アイ、ダンジョンは冒険者でも間違ったら命を落とすところよ。階層が浅ければ良いけど、深くなればなるほど・・・、ね。」
「お兄ぃ!レヴェル上げたら行こう!」
「だから、この世界にレヴェルはない。ユニークスキル、巨大魔力、チート武器、例外な力を持った仲魔。なにもないんだぁぁぁ!!」
そうだよ!なんでだよ!ここは異世界だろ!
何か一個でも、チート級の何か欲しかったぁ!!
魔力は弱く、スッポンポン。
スキルもなしで、スッポンポン。
身体能力も普通で、スッポンポン。
俺、この世界で生きていけるのかな。
その前に帰れるのか!この状況で!
何だか、急に不安になってきた!!
「ユーキ。何があったかはわからないけど。心配しないで。私が何とかしてあげるから」
ルエルー、ありがとう。ルエル良い人だな。いや良いエルフか。
恩返しはさせてもらう!借金も何とか返済しないとね!
「お兄ぃ。心配しないで!きっとこっちの世界でも上手くやっていけるよ!」
帰る気ないのかーい?このままこっちの世界に住んじゃうの?
家族は?学校は?友達は?店は? きっと向こうれは、俺たち行方不明者扱いになってる!
「大丈夫だって。こっちに来れたんだし帰れるよ。気楽に観光しながら考えよう!」
愛。ポジティブだな。そんなところ、結構好きだぜ!
「そうだな!帰れるな!」
そんな話をしていると、大きな建物の入り口に着く。
「ここが商人ギルドの南支部よ」
「でっかーーーい!ルエルさんのお店より、何倍もでかーーい!」
「アイ。声が大きいわ。他の人に迷惑よ。あと、私のお店はそこまで小さくないわ」
「ご、ごめん。ちょっとはしゃぎすぎちゃった」
「ここが支部?本部は別にあるのか?」
「大体のギルド本部は貴族街にあるの。東西南北の区画にはそれぞれ支部があることが多いわね」
「ふーん。ここで今から登録するんだ!」
「そうよ。そんなに時間はかからないわ。さぁ、行きましょう」
ルエルに案内され、俺たちはギルドの中に入る。
入り口は普通の木の扉。
窓はガラスが張ってあり、全体的に石造り。
入り口正面はカウンターがあり、受け付けっぽい人が何人かいる。
右手の方にはテーブルやいすがあり、休憩できるようになっている。
軽食やドリンクなどの販売もしているようだ。
左手には掲示板と階段があり、掲示板には所狭しといろいろ張られている。
ギルドの中にはほとんど人はいない。
「普段からこんなに人が少ないのか?」
「今日は少し時間をずらしたの。もう少し早く来ると、ごった返してるわ」
「さっすがルエルさん。空いている時間を狙ったんだね!」
まっすぐ歩き、受付の所に到着する。
ウサ耳だ!この受付の人、頭の上にウサギの耳が生えてる!!
瞳も赤くなってるし、カラコンじゃなければ天然赤目だ!
「お兄ぃ!可愛い!!ウサさんだよ!!撫でたい!!」
「アイ。だめよ。少し静かにしてて。ユーキも鼻の下伸ばさない!」
俺は伸ばしていない!ウサ耳の白いサワサワに見とれていただけだ!
決して、その下の方にあるボインボインに目を奪われた訳ではない!
「この二人の登録をしてほしいの。種族は人間よ」
「ルエル様。お久しぶりですね。最近来なかったので、心配していたんですよ」
「そう、しばらく忙しくてね。ここで仕入れたドクロのアイテムがなかなか売れなくて」
「そうですか、他の商店ではそれなりに売れたんですがね・・・」
あの趣味が悪いドクロリングはここが発祥か。絶対に仕入れ間違ってるぞ。
次から俺も一緒に仕入れにこよう。
「二人とも。初めまして。商人ギルド受付のミンミンです。今日はよろしくお願いしますね」
「「よろしくお願いします!」」
「ユーキ、アイ。私は向こうのテーブルにいるから終わったら来て」
「「はーい」」
「では、受付しますね。ギルカってご存知ですか?」
「ルエルからざっくりだが聞いた」
「では、簡単な説明で終わらせますね」
ギルカは一人一枚。所属はいつでも買えることができる。
ギルカには個人名、所属ギルド名、出身地、ランクなどが表示される。
商人ギルドでは、ギルドが保有している在庫を大量に安く買うことができる。
ギルドで購入したアイテムを自店に持ち帰り、販売できる。
また、アイテムや素材をギルドに売る事もできる。
ギルドとの取引金額が一定値になると商人ギルドランクが上がり、自分に少しだけ有利な取引が可能になる。
そしてギルカにお金を入れることもできる。上限金額はない。
多額の現金を持っていると盗賊に狙われるから、基本的にお金はカードに入れておく。
引き出しはどこのギルドでもできる。
「では、発行しますので、こちらに手を乗せてください。あと一つ注意事項です。初期登録は一回のみです。嘘はつかないようにお願いします」
俺たち二人は黒いプレートに手を乗せる。
「では、それぞれに質問しますので、声に出してお答えください」
「あなたのお名前は?」
「きのした ゆうき」
「きのした あい」
「年齢は?」
「18」
「15」
「出身地は?」
「日本」
「杜都市」
え?愛、その回答でいいのか?
そもそも、異世界で俺の回答はあっているのか?
と、思った瞬間!
手のひらにチクッと痛みが走った!
「「痛っ!」」
「あ、ごめんなさい。説明忘れていたわ。最後に個人登録をするので、血を一滴もらうの」
びっくりした!先に言ってほしいな!
「お兄ぃ。痛い」
「ちょっとだけだろ。すぐに治る。チクッとしたところ舐めておけ」
アイはペロッと手のひらをなめている。ちょっと半泣きになっている所が何となく可愛い。
「これで登録は終わります。カードができるまでちょっとだけ時間かかるの。終わったらお名前呼びますね。それまで向こうの席でお待ちください」
「「ありがとうございました!」」
「アイはちょっと先に行っててくれ。俺はちょっと聞きたいことがあるから」
「わかった。先にルエルさんの所に行ってるね」
俺はさっき受付してくれたウサ耳さんに声をかける。




