第025話 ~うなじと複合魔法~
俺は白のシャツに黒の長ズボン。
首にはタオルを巻いている。
「ユーキ、ごめんなさい。服、間違えてしまったわね」
「気にしなくていい。たいした事ではないから」
「そうだよ、お兄ぃは風呂上り、いっつも裸なんだから、大したことじゃない!」
「愛、語弊がある。パンツは履いてるぞ!」
「あ、そ、そうなの。ユーキは大胆ね・・・」
「お兄ぃも、もう少し気を使ってよね!」
「そうだな、ちょっと考えてみるよ。ルエル、ちょっと実験してみていいか?」
「何の実験かしら?」
「魔法の実験だな。『危ない!危険だわ!』と思ったら止めてくれ」
「たぶん大丈夫よ。ユーキの魔力は弱いはずだから、そんな事故にはならないと思うわ」
「そのまま座っていてくれ。動かないでくれよ」
俺は、座っているルエルの後ろに立つ。
頭に着けているタオルを取り、髪を下す。
長い髪だ。金色でとても美しい。胸くらいまでの長さだ。
さて、実験開始だ。
「ルエル、クシあるか?」
「あそこにあるわ」
カウンターに置かれていたくしを取る。
「念のために確認だ。これはただのクシで、魔石は無いな?」
「クシに魔石を入れるなんて聞いたことも、見たこともないわ」
「お兄ぃ、何するの?」
「儲けるための実験だ」
俺はルエルの髪をとく。毛先から少しずつとかしいていく。
時間は少し経過し、頭の上から毛先までとかし終わった。
ぺた っとしているが、それが逆に、色っぽい。
うなじが特にいい。
実験なのに、ドキドキしてしまう。
いや、実験はドキドキするのもか。
うん、それなら問題ない。
「行くぞ。ここからが本番だ」
「いいわよ。私も少し警戒するわ。何かあったらすぐに動くわね」
「お兄ぃ。大丈夫なの?」
「多分いけると思う」
俺は両手でクシを持ち、集中する。
イメージだ。イメージ。
右手にそよ風。左でに熱。
熱風までいかない、適度な温度、ちょっと暑い風。
熱と風が合わさるイメージ。
ドライヤーだな。
ドライヤーをイメージ・・・・
熱はコイルで。風はファンで。
実家は電気屋だ。イメージは完璧にできるはず!
何個も何個も見てき。一流メーカーのドライヤーは素晴らしい。
そのドライヤーをイメージだ!!
マイナスイオンはこの際なくていい!
電気屋魔法!その名は『ドライヤ』!!
と、心の中で叫んでみる。
声に出したら痛いな。
すると、くしから風が出てくる。
そのままの状態でルエルの髪を再度とく。
「あ、あったかい。なにこれ?」
「魔法使ってみた」
「ユーキ、熱いわ。ジンジンする。こんなの初めてよ」
「そうか、今まで経験した事はないか」
「はじめてね。こんな事されたこと無いもの。でも、気持ちいい・・・」
「もう少し、そのままでいてくれ。実験を続ける」
何度も何度もクシをとおす。
だんだんさらさらになってきた。
「ルエル、こっち向いて」
ルエルは椅子をずらし、座ったままの状態で俺の方を向く。
ルエルの顔は俺の腰の正面にある。
目を閉じたままのルエル。実験は続行だ!
「こっちもほぐすぞ」
「ええ、お願い。この熱いのいいわね。」
「気持ちいのか?」
「そうね、こんな事されて、どうかと思ったけど、この熱いの気持ちいい」
愛はジーーとこっちを見ている。
にらんでいるに近いか?
何か、だるくなってきた。
魔力がなくなってきたのかな?
「はぁはぁ、ル、ルエル。もういいか?」
「まだ駄目よ。もっと頑張って。こんな気持ちいいの、途中で終わらせないでよ」
「っう!も、もう少しだ。もう少しで終わる」
俺はルエルの髪をとかし終わり、ついにサラサラにすることができた。
「はぁはぁはぁ・・・。これは思ったよりきついな。俺の魔力が少ないからか?」
「それもあるかもね。ところで、この魔法って何?」
「さっきルエルの言っていた混合魔法。火と風の応用」
「詠唱してないのはなぜ?」
「え?詠唱って?」
「たとえば。『風の聖霊よ! 我にその力を!』とか、初めに、使う魔法のイメージをしやすくするために、詠唱は必要だと思ったんだけど・・・」
「イメージだろ。イメージ。詠唱は心の中でしてる」
「口に出さなくてもいいのね、初めて知ったわ」
「お兄ぃ。終わった?」
「あぁ、終わった。待たせたな」
「じゃ、次私ね」
なにぃぃぃぃ!!
「あ、愛も乾かしたいの?」
「そりゃそうでしょ!私も髪長いし!よろしく!」
再び俺はクシを片手に、愛の後ろに立つことになる。
やばい、俺、倒れそう・・・。
愛の髪も長くてきれいだよなー。
いつもポニテしてるから普段気にしないが、かなり長い!
腰まで来てるじゃないか!
これ、乾かすのか・・・。
頑張れ俺!
再発動『ドライヤ』!!
俺の魔力よ、持ってくれ!!!!




