第021話 ~天国と地獄~
愛がベッドに入ったままの状態だ。
顔が赤く、なぜか焦っているように見える。
「愛、具合はどうだ?気分悪くないか?」
「大丈夫だよお兄ぃ。さっきは少し頭痛かったけど、今は何ともない」
「良かったわ。でも、少し顔が赤いわね」
「そ、そんなこと無い!赤くないよ!普通!どこからどう見ても普通!」
「わ、わかった。愛が大丈夫っていうのであれば大丈夫だな」
愛は起き上がり、ベッドに座った状態でこちらを向く。
「ルエルさん。今何時?どのくらいの時間がたったの?」
「ごめんなさい。うちには時計は無いのよ。深夜の鐘はまだ鳴っていないので、夜~深夜の間くらいかしら」
「ルエル、この家には時計が無いのか?」
「時間を計る魔道具はとても高価なの。王宮や貴族、教会や大商人位しか持っていないんじゃないかしら?」
「それじゃぁ、この世界の人はどうやって時間を知るんだ?」
「大体の人が鐘が目安にしているわ。教会では早朝、朝、昼、夕方、夜、深夜の鐘がそれぞれ鳴るの。早朝と深夜の鐘は他の鐘より音が小さく、一回しかならないので注意が必要ね」
うーん、正確な時間がわからないのか。
体感だが元の世界と同じくらいの時間間隔なんだがな。
そもそも、まったく同じ環境の星でもないかぎり、一日の時間や一年の周期などまったく異なるからな。
この世界では呼吸ができ、空が青い。星も見えるし、気温や時間も含め元の世界と近いことろがあるな。
鐘の鳴るタイミングは6時、9時、12時、15時、21時、24時位かな?
多少はずれているかもしれないが、これを目安にしておこう。
「愛、多分1時間は経過していないと思うぞ。食事が終わって、帰ってきて、愛をベッドに下してから練習していたんだ。練習時間は恐らく30分位じゃないかな」
「そっか。正確な時間がわからないから、なんだかゆっくりしちゃうね!」
「この町に住む多くの人は正確な時間がわからないの。なんでも早めにしないと色々と遅れてしまうわね」
この世界で持ち運び可能な時計を作ったら儲かりそうだ!
腕時計も視野に入れておこう!
「アイ、今日はそろそろ寝ようと思うのだけど、体を洗いに行きましょう。外にも行ったし、寝間着に着替えたくない?」
「お風呂!入る入る!」
「ごめんなさい。お風呂も無いのよ。本当に体をふくだけなんだけど、アイの家にはお風呂あったの?」
「私達の世界じゃ、お風呂の無い家の方が圧倒的に少ないよ。お風呂は毎日入ったし、汗かいた時はシャワー使ってたし」
「裕福な家が多い世界なのね。どうする?体だけでも拭く?」
「もちろん!ルエルさんありがとう!」
「お、俺は?俺も汗かいたし、軽く流したいなー、とか」
「ユーキはあとでね。先に私とアイで入って、その後案内するわ。少し長めになると思うから、店の売り場でも見てていいわよ」
「わかった。一人で待ってるよ」
ルエルと愛は一緒に扉から出ていき、ルエルの部屋で何かガサガサしている。
音がやんだと思ったら、ルエルの部屋から出てきて、2人で下に行く。
風呂場はやっぱり一階何だな。
俺は一人、ルエルの店内を見て回る。
服、バック、アクセサリー、雑貨類、ナイフ。
このナイフはルエルの使っていたナイフと同じだ。
同じナイフでも魔石の入ったナイフは高い。
この値札と思われる紙に数字と思われる何かが描かれているが、桁が違う。
このナイフはどんな効果があるのだろうか?
バックは普通の布を使った肩掛けバックが多いな。
色もベージュ一色だ。リュックもあるが、お世辞にも便利そうとは思えない。
服も単色が多く、ワンピースやズボン、ボタンがないシャツ、下着?が置かれている。
最低限の生活をするためのバックと服といった感じだな。
靴もサイズ違いで見た目一種類。
ローブのようなフードつきのマントっぽいのも黒一色で変わりない。
アクセサリーはどうだろう?
ドクロの指輪、骨のネックレス、牙をモチーフにしたペンダントトップ。
何個か魔石の付いたリングもあるが、効果不明。たとえ効果が良くても、装備したくないのが本音だ。
このドクロの指輪は呪われているように感じてしまう。
何この禍々しいの・・・。可愛くない!お花とか羽とか、アクセサリーって着飾る物でしょ!
カタッ・・・
ん、向こうの方で音がした?何か落ちたのかな?
音がした方に行って見るが何か落ちた後はない。
向こうか?俺は扉を開く。
何の音だったんだ?二人は今、風呂に入っているし、風が入って来たとも思えない。
ッサ・・・
何か動いたように見えた。
何かいる?
ドキドキしながら奥に進む。念のため、さっきまで使っていた練習用の剣を持っていこう。
巨大なGだったら速攻逃げる!
ヒタッ ヒタッ ヒタッ ・・・
影が見えたのはここか?
音がしないように扉をゆっくりを開く。
ドキドキドキ
息が荒くなる ハァハァ・・・・
フーーーー
息を殺す
ドックン ドックン ドックン
下を見ると、カゴが2つあり、一つにはさっきまで見ていたタンクトップとショートパンツ。
もう一つのカゴには白のワンピースが入っている。
折りたたまれたタオルも2枚、棚に置いてある。
はめられた!罠だ!これは、事故ではない。誰かの陰謀だ!!!
扉がもう一枚奥にある。そこから声が聞こえてくる。
「ルエルさんすごい!どうしたらこんなになるの?」
「特に何もしてないわ。気が付いたらこうなってたの」
「私も少しはあるけど、ルエルさん大きいね!」
「そう?アイも十分大きいじゃない。これからもっと大きくなるわよ」
「これでも結構努力してるんだけど、なかなか大きくならなくて」
「毎日の積み重ねが大切だと思うけど、あまり気にしなくていいと思うわよ」
「そうかな?でもきっとお兄ぃは大きいのが好きだと思うよ!」
「そうね。今日半日くらい一緒にいたけど、きっと大きいのが好きそうね」
「でしょ!絶対そうだって!!ルエルさん、大きくていいなぁー」
「大丈夫よ、アイもこうすれば大きくなるわ」
「きゃ!くすぐったい!ちょっと、ルエルさん、やめてっ!」
「ふふっ。あ、アイ、私はいいわ、ちょ、ちょっとやめて!くすぐったい」
「このこのー。こんなに大きくして!両手でもんでやる!!」
「アイ、くすぐったいわ、もぅ、いいでしょ。やめて・・・」
「お兄ぃがここに居たら大変なことになるね」
「ユーキはきっと耐えられないでしょうね」
この会話はなんだ?
何が起きている。これは俺にこの扉を開けろとのお告げか?
きっと開けたら天国だと思うが、あるいみ本当に天に召されてしまう可能性が非常に高い。
残念だが、今日はここまでだ。無念・・・。
「でも、ルエルさんの力こぶ、本当に大きいね!」
「アイもなかなか大きいと思うわ。何かしてたの?」
「格闘技を少々。基礎稽古は毎日家でしているから、体はなまってないはず!」
「私は、今日久々に模擬戦したら腕が痛くなっちゃったわ」
「じゃぁ、さっきと同じように、両手でもんであげるね!」
「ちょっと、くすぐったいからいいわよ。自分でほぐすわ」
ちーーん。
そうだね。うん、腕っぷしはあった方が好いよね。
上腕二頭筋とか腹筋とか、筋肉いいよね!
そんな事を考えていると、背中に悪寒が走る。
後ろを見ると、見慣れない人?がこっちを見てる。
あ、どうもコンバンワ。どちら様で?
その見慣れない人は小柄で、肌の色が若干、灰色っぽい。
目つきも悪く、ボロを着ている。しかも、素足だ。
そんな人が4人も。
俺の目の前にいる方は、こっちを見ている。
目が合う。お互いに見詰め合う。 恋する よ・か・ん!
そんな事あるかーーーーー!!!!
誰?何?あなたたちここで何しているん!!!!
侵入者?と思われる四人は店の方に走って逃げていく!
扉一枚の向こうには天国があるのに!
今から行こうとしている所は地獄が待っているかもしれない!
右手には練習用の剣
左手には練習用ナイフ
心には勇気
後ろには裸体の少女二人
俺は守らねばならぬ!
そう思いながら、物音出さずに、そーーーーっと脱衣所を出る。
音を出してはいけない。絶対にだ!
扉を出て、そっと閉める。
店の方に走って行った四人組みはどこだ?
俺はゆっくりと、警戒しながら店の方に走って行く




