第138話 ~お仕事と腹の虫~
さっきまで表にいた客が全員店内に入っており、ものすごいことになっている。
カウンターにいるルエルもパタパタしており、イリッシュはフロアを駆け回り、フィルはレジにカウンターのサポートで行ったり来たり。
うん、まったく回っていないね。
「愛、落ち着いたら出かけようか?」
「そ、そうだね。さすがにこの状況では出かけられないね……」
俺は一度カウンターに行き、装備と荷物をバックに入れる。
愛はそのままの格好でフロアに出る。
「アイちゃん! フロアに出るのかい?」
「そうだよー、みんなまだいるから、お仕事だね!」
「疲れてないかい? なにか飲み物でもおごろうか?」
一人の客が愛に声をかけてくる。
どうやら愛に気があるっポイな。
なんだ、愛はここじゃモテモテだな。
「だいじょーぶ! 今度おごってよ! でも、沢山買ってくれてありがとう!」
一人の客に対して満面の笑顔プラス半裸は破壊力が高いらしい。
客は頬を赤くしながら愛の頭から足先まで舐めるように見ている。
おい、そんな目で見るな、いやらしいったらありゃしない。
「はいはいーい、失礼しまーす」
俺はわざと客と愛の間を通り、隣のテーブル客にオーダーを出す。
早く愛から離れろ! そして、たくさん買い物をして帰れ!
そして明日また買いに来てくれ!
……俺は結構わがままだな。
「お兄ぃ! 目の前通らない! お客様に失礼でしょ!」
愛に正論を言われた。非常に悔しい。
「あぁ、すまない。急いでいたからな」
店内はまだまだ混んでいる。
早く回さないと、クレームになりかねない。
フィルもイリッシュもレジや接客、オーダーを運ぶなど、絶賛パタパタ中。
「じゃぁ、また来てくださいね!」
愛はカウンターに一度戻り、トレイを片手にオーダーを運び出す。
……お、終わった!
こんなに人が入る事はそうそうない。さすがに疲れた!
「みんなお疲れ様。なんとか終わったわね」
ルエルがみんなに声をかける。
「さ、さすがに疲れましたね」
「……工房のほうが楽。話すのは疲れる……」
イリッシュもフィルもさすがに疲れたようだ。
椅子に座りぐったりしている。
「昼時も過ぎたし、一度休憩しましょう。冷たいもの持ってくるわね」
ルエルの提案にみんな賛成のようだ。
「ルエルさん、疲れてないの?」
「私も結構疲れたわよ。でも、みんなも疲れているでしょ? お昼もまだだし」
「そっか、私も何か手伝おうか?」
「アイは少し休んでで。ずっと表で大変だったでしょ?」
「んー、少し暑かったかな? でも、ここの人っていい人多いね。みんな色々と買ってくれたんだよ!」
「そうね、少し変わった人もいたけど……」
変わった人。そういえば副団長とか来ていたな。
「なぁ、王宮騎士団って知ってるか?」
愛以外のみんなが、ピクリと耳を動かし、動きを止める。
「……今、王宮騎士団と言った?」
はい。言いました。さっきまでその席に座っておりましたが何か?
「王宮騎士団は国王直下の騎士団です。普段は街に居ません」
あ、そうなんですか? イリッシュにいちゃもんつけてきた男がそこの副団長だぞ?
さっき裏路地で頭下げていたがな。
「ユーキは王宮騎士団の人と、何かあったの? あ……、まさか」
勘のいいルエルは気が付いたのかな?
俺が外で話して来ると言った奴が、王宮騎士団の人だと。
「お兄ぃはそんな偉そうな人と何か関係あるの?」
うーん、俺というより、愛に気があるんだけどな。
まぁ、この件は秘密にしておこう。
話が余計に混乱しそうだしな。
俺はさっき裏路地であった事をみんなに話す。
もちろん愛に好いた惚れたの話は伏せてだ。
一番びっくりしているのがイリッシュだ。
少し顔が赤くなっており、目が怖い。
「ひ、ひどいです! 私にあんなことしておきながら!」
結構怒っていますね。まぁそりゃそうか。
イリッシュは謝罪もされていないし、汚されただけだもんな。
今度店に来たら慰謝料を分捕ってやろう。
お、これで借金解決か!
「ユーキもすごい人と話をしてきたわね。私だってそんな人と話したこともないのに」
「んー、たまたまだって。みんなだって、下手に客ともめたくないだろ?」
「……僕は話もしたくないんだけど」
「フィルはもっと接客スキルを上げよう! イシッリュ先生に教わるといい」
「わ、私ですか!」
イリッシュは少しびっくり顔で答える。
このメンバーでは一番接客スキルが高いからな。
「ああ、よろしく!」
「わ、わかりました。頑張ります!」
――ぐぅぅぅ きゅるるるる
な、何だこの音は!
「ご、ごめんなさい。お、お腹減っちゃった……」
大きな腹の虫が愛から聞こえてきた。
さて、一段落したら食事に行くか!
愛と二人で出かけるって言ったらみんな怒るかな……。




