第137話 ~貴族とアイコンタクト~
昼時から少し時間も経過し、若干ではあるが空きテーブルができた。
店外からのお客様も軽食を頼む訳でもなく、店内を物色している。
さっきより若干女性のお客さんと、恋人同士と思われる数組のお客さんが店内に入ってきている。
少しは忙しくなくなったかな?
「ルエル、ちょっと席を外してもいいか? さっきの客と話してきたいんだが」
「この位であればユーキが抜けても大丈夫ね」
ルエルに断りを入れ、さっきの客の所に行く。
「待たせたな」
「いや、そうでもない。表に出ようか?」
客は会計をすませ外に出る。
俺は念の為、短剣と魔銃を装備し、表に出る。
相手は二人。恐らく二人位なら俺でも何とかなるかな?
男たちは装備品を手に持ち、そのまま裏路地に入っていく。
辺りに人はいない。襲うにはもってこいの場所だ。
「話を聞こうか?」
俺は少し距離を取り二人に話しかける。
突然目の前の男が頭を下げる。
「さっきは本当にすまなかった!」
「大変申し訳ない!」
意表を突かれた。一体なんだ? クレーマーでもなさそうだ。
「なぜ謝る?」
「さっきの女性にひどいことしてしまった事も、店の中で騒いだこともだ」
「なぜ今さら?」
「申し遅れた。私はこのようなものだ」
差し出した手にはギルカ。
名前は『ハンス・ラビルト』と書かれている。
所属は『王宮騎士団』『副団長』と書かれている。
へ? のこ肩書は恐らく貴族な気がする。
確か苗字と王宮騎士団ってところは一般市民がいないような気が……。
ここにイリッシュがいたら教えてくれるだろうが、今はいない。
「で、副団長がなぜあんなことを?」
「通報が入った。店の前で半裸で客引きを行い、中で違法な行為が行われていると」
まぁ、半分正解な気がする。
「実態を調べるために、調査しに来たのだ」
「それで、実際はどうだったんだ?」
「客引きはギリギリ見逃せる範囲だが、あれ以上脱いだり、怪しい発言は困る」
「分かった。今後は十分注意しよう。他は?」
「店内に関しては全く問題ない。むしろ、いい店だった」
「そうか、それは良かった。また来店してくれ」
「うむ。所で表にいた子の名前は?」
「ん? 愛の事か?」
「そうか、アイちゃんか……」
おっさんが頬を赤くしている。まさかとは思うが、念のため聞いておこう。
「何故名前を知りたがる?」
「惚れた。可愛い。是非、我が妻に迎えたい」
あー、やっぱり。勘違いする方多いと思うんですよね。
「愛は成人していないし、俺の妹だ。兄から言わせてもらうと、結婚は断る」
「そ、そんな事言わないでほしい。兄さんと呼ばせてくれ」
「断る。話は終わりか? 店に戻りたいのだが」
「話は終わりだが、外での販売には注してくれ、兄さん」
「分かった。十分注意するが、兄さんと二度と呼ばないでくれ」
「また、店に顔を出してもいいかな? 兄さん」
「じゃあな」
「ま、待ってくれ兄さん! アイちゃんの好きな食べ物とか花を教えてくれ!」
何か叫んでいるおっさんを振り切り、俺は店に戻る。
実演販売中の愛はまだまだ実演中。確かに可愛いけど、嫁にやるなんて無理っす。
俺達はこの世界の人間じゃないからな。
愛の周りに客が集待っているが、その中をすり抜け先頭に立つ。
目線で愛に訴える。
『実演は終わり。店に戻れ』
言葉は交わさないが、きっと伝わるはず。
『了解』
愛からアイコンタクトで返ってきた。うん、兄妹の力は便利だ。
「さぁ、そろそろ販売も終わるよ! 今回見逃したらもう買えないよ!」
愛の声が響く。群がっていた男どもは我れ先にと愛に近寄り、クシをに手にする。
「あの! また店頭で販売したりするの?」
「そうだね! いい商品があったらするかもね!」
「俺、また来るよ! 絶対に来るから!」
「ありがとう! お得い様はサービスするよ!」
「ど、ど、どんなサービス!」
「次回来店時のお楽しみでね!」
愛も商売上手になったものだ。
これでしばらく一般客は来店してくれるだろう。
ルエルは『可愛いアイテムで女性のお客さんがたくさん来てほしい』とか思っているが、まずは売り上げだ。
安定してからもっと、女性客を増やしたらいい。
今回来ている男どもを餌に、女性客を連れてきてもらう。
ムカデでタイを釣るだっけ?
イモずる方式に客数を増やしていける気がする。
準備したクシが無くなり、販売が終わる。
店の前には俺と愛だけになった。
「売れたか?」
「お兄ぃ。売れたよ! 完売! 私って才能あるかも!」
そうだな。ある意味才能があると思うぞ。
「良く頑張ったな」
愛の頭をなでなでする。
愛も『えへへー』って感じで喜んでいる。
「ご褒美頂戴! お昼まだなんだよね! 一緒に外で食べようよ!」
「そうだな、帰ってきたら一緒に出掛ける予定だったし、皆に断ってから出かけるか」
「やったー! 何食べようかな! もうおなかペコペコだよ!」
愛と二人で店に入る。店の外にいた客は全員店内にいる。
さっきよりひどい状況だ。
「ユーキ! 何しているの! アイも早くフロアに出て!」
ルエルの叫び声が聞こえる。
すまんな、愛。お昼はもう少し先になりそうだ……




