第135話 ~ホールとカウンター補助~
イリッシュとホールに出る。そこには男性客で埋まったカウンター。
そして、男性客で埋まったテーブル席。さらに男性客で埋まった売り場。
見るからに暑苦しい。本当に暑苦し。鎧やローブを羽織った男どもが所狭しと動いている。
確かに実演販売で効果はあった気がするが、何か方向性が違う気がする。
予定では
『このクシかわいー!』
『こんな便利なものあるのー』
『私も買おうかしら?』
『いいわね! 私も一つ買っていくわ!』
『この紅茶もおいしいし、中で少しお茶していく?』
『いいわね!』
そんな女性客で埋まる予定だったのに……。
さっきからカチャカチャ鎧の動く音がする。耳障りきまわりない!
女の子のきゃっはうふふな会話はなく、外にいる愛についての会話がほとんどだ。
かわいいとか、気になるとか、嫁に欲しい! とか、今夜空いているかな? とか……。
この世界の男は女に飢えているのか……。
ふと、うちの女性陣を見ると、カウンターにはルエルが固定で何か作業しており、フィルはホールの中を動いている。
うん、フィル一人では回りきっていないな。
「さて、イリッシュこの状況で俺達はどう動く?」
イリッシュもこの人数の来店に少し戸惑っているようで、耳がピンとはねている。
「そうですね。会計とカウンターのサポートで一人。あとはフィルのサポートに一人でしょうか?」
「そうだな、それがいいと俺も思う。イリッシュはカウンターとホール、どっちがいい?」
「カウンターでは少し調理もしているようなのですが、私がカウンターでも?」
それはまずい。色々な意味でまずい。
ここで病人を出したら店の評判にかかわるな。
イリッシュの作る料理はまだ人前に出せるレベルではない。
「俺がカウンターに入ろう。イリッシュはホールを頼む」
「あっさりですね」
「まぁな。ホールがひと段落したら俺がフィルとカウンターを変わる」
「分かりました」
二人で一度ルエルの居るカウンターに行き、状況を確認する。
すでに作り終わったと思われる軽食とアイスティーが準備されており、出待ちの状態だ。
「ルエル、待たせたな。俺がカウンター補助に入るから、イリッシュをホールに出すぞ」
「お願いね。このオーダーは奥の三人いるテーブルにお願い」
「分かりました。では、行ってきますね」
イリッシュはトレイにオーダーをのせホールに出る。
「ユーキは会計できるかしら?」
「すまんが、会計はできないのであとでフィルと交代する」
「分かったわ。じゃぁ、それまでは調理補助と皿洗いをよろしく」
「かしこまりー」
たんまりたまった洗い物。結構な量ですな。
そして、この量をさばいたルエルもすごいな。
俺は洗い物をしながら、ルエルの作る料理に合わせ皿やコップを棚から出していく。
キッチンにはあまり入ったことはないが、なかなか使い勝手がいいな。
「おねーちゃん! 俺の頼んだものはまだ来ないのか?」
「申し訳ありません、もう少々お待ちください!」
やや店内も混乱気味だ。外の実演販売中の愛は一人で大丈夫だろうか?
「すません! このクシと髪飾りの会計を!」
「はい! 今行きますね!」
ルエルもややパタパタしている。
ふっと、レジを見るとすでにフィルが会計を始めている。
なかなかいい動きだな。自分の作業をしながらこっちを確認し、自分の動きをそれに合わせている。
「……クシと髪飾りで一万五百ジェニ」
「あいよ。ん? 外で飲んだドリンク代は?」
「……今回だけの特別サービス。是非、また来てほしい」
「そうか、それはありがたいな。今度彼女と一緒に来るよ」
「……是非」
会計を済ませた客が帰っていく。
フィルの接客もまぁまぁかな? 少し元気がないが、不快ではない。
愛の元気を少しフィルにあげたい位だ。
洗い物も半分位終わったので、フィルとポジションを変える。
「フィル、カウンターとホール交代。俺はレジが出来ない」
「……ん。わかった」
「洗い物しながら、ホールとカウンターを行き来するから、ルエルのサポートよろしくな」
「……了解した」
フィルはルエルと一緒に調理をしながら、盛り付けなどを行う。
出来たものから、ドンドン俺とイリッシュで運び、空いた席から食器を下げる。
そのまま、下げた食器を俺が洗い、棚に戻していく。
「お嬢ちゃん、会計いいかな?」
フィルに向かってオッチャンが声をかける。
「……お待たせしました」
オーダー表を見ながらレジをする。
俺もレジ位覚えないとダメだな。まったく役に立っていない自分が腹立たしい。
「……千五百ジェニ」
「じゃぁ、二千ジェニから」
「……五百ジェニお釣り。ありがとうございます」
「思ったよりこの店は良かったよ。また来るからな」
「……ありがとう。とてもうれしい。お待ちいてます」
微笑んでいるフィルは見ていてちょっとかわいい。
子供の笑顔とはちょっと違う微笑み。作り笑いかもしれないが、心に響く微笑みだ。
会計が終わったフィルはすぐにカウンターに戻り、盛り付けとトレイにオーダー品をのせていく。
「……手前の二名。このトレイでオーダー完了」
「分かった」
「私持っていきます!」
さっき『遅い』と言ったお客さんのオーダーだ。
若干、イライラしているお客様かもしれないので、ちょっと注意が必要かもしれない。
ちょっと注意して見ていた方がいいな。




