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第134話 ~非常識と嫁~


 フェアリーグリーンが目視できるところまで来た。

店の前には少し人だかりができている。なんだ? 何かあったのかな?

愛の声は聞こえてくるが、ざわついていて良く聞き取れない。


「ユーキ兄。アイ姉はいったい外で何をしているんですかね?」

「ああ、上半身はだけて、濡れている。それを多くの人に見てもらっているんだ」


 イリッシュの動きが止まり、立ち止まってしまった。

どうしたのだろうか? 具合でも悪くしたのか?


「どうした? 急に止まって。顔が赤いな、熱でも出たか?」


 赤面しながらイリッシュはもごもご何か話している。

え? 良く聞こえないよ? 何と言っているのかしら?


「イリッシュ? すまんが良く聞こえない? どうしたんだ?」

「ア、アイ姉は何をしているんですか! 公衆の場で! す、すぐに止めないと!」

「なぜだ? そこまで止める必要はないんじゃないか? 本人も大丈夫そうだぞ?」

「そんな事! 止めるに決まってるじゃないですか! こんな昼間っから!」

「え? 実演は昼間じゃないと難しいんじゃないか?」

「今回の場合はどちらかというと夜の方があってますよ! でも、外でするなんて、非常識です!」

「……言っている意味が良くわからないな。とりあえず、現状を確認しに行くか」


 と、話した瞬間イリッシュはナイスバディな女性にへんしーん!

身長もグッと伸び、胸もドーン! 少女から大人に変わる。

そして、あっという間に走って行ってしまった。


「おーい! そんなポンポン身体強化するな! 待てってば!」


 俺の言葉も聞かず、走って行き、人だかりの中をすり抜けると思ったら、なぜか跳躍し、人だかりを一気に抜けていった。

おっふ、イリッシュの方こそ公衆の面前で何してる?

人だかりの上のハイジャンプしたもんだからスカートが風になびき、太ももが眩しく光っているのが見えた。

うん。確かに色っぽく、ポイントは高いけどみんなに見られているのに気が付いているのかしら?


 俺も急いで二人の元に走っていく。

俺はそんな超人的な身体能力はないので、普通に人だかりの中を無理くり押しのけ、前の方に行く。


 そこにはさっきと同じ服装で実演販売中の愛の姿がある。

水しぶきが時たま陽の光で輝き、愛の笑顔を引き立てている。

パッと見た感じ、青春まっただ中のドラマのワンシーンのようにも見える。スポーツドリンクのコマーシャルがあれば採用されているな、きっと!


 笑顔でハキハキとトークしながら、実演販売。確かに、見る価値はある。

そして、愛の後ろになぜかイリッシュが壁を向いて体育座りをしている。

さっきまでのスレンダーボディから、いつものイリッシュに変わっているが、落ち込んでいるようにも見える。


 実演中に邪魔しちゃ悪いかな? イリッシュに小石を投げつける。

肩に当たり、こっちを向いた。そして、俺の存在に気が付いたようだ。


 俺は手招きでイリッシュを呼ぶ。

イリッシュも腰を上げ、俺の方に来るが、その目は激しくよどんでいいる。

肩を落し、いかにも『私不幸です!』と声が聞こえてきそうなくらいだ。


「イリッシュ。どうした? さっきまであんなに元気だったのに?」

「何でもないです。私が悪いんです」

「どうした? 大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです。この場を早く離れたいです」

「そうか。じゃぁ、一度店に入るかか?」

「穴があったら入りたいですね」

「どうした? 何があった?」

「ユーキ兄も悪いです。ちゃんと説明してくれないから」

「何の説明だ?」

「アイ姉の実演販売について」

「さっき説明しただろ? 上半身はだけて、濡らして、見てもらっているって」

「言葉が足りないと思いませんか?」

「……。イリッシュはすごい勘違いしたのか?」

「そうです。ユーキ兄のせいで」

「そうか、イリッシュもエッチィですね」

「……早く店に行きましょう。体が熱いです」

「そうだな」


 俺とイリッシュは実演販売中の愛を横目に店に入る。



 カランコローン



 まぁ、なんという事でしょう!

普段は閑古鳥も真っ青な店内が、カウンター含め、テーブル席も埋まっているではありませんか。

一体何が起きたのでしょう! 


 そうか!プラシーボ効果か!

俺が儲けたい! って想いが伝わったのか! さすがは俺!


 そんな妄想中に近くのオッチャンの声が耳に入ってくる。


「いやー、あの子はいい! あの笑顔はすばらしいね!」

「んだな! うちの息子の嫁に欲しいだ!」

「可愛いし、元気がある! いい子供を産んでくれるべ!」

「んだな! うちの嫁にこないか、聞いてくるべ!」

「いや、オラ自身が嫁に欲しいだ!」

「バカ言いってんじゃね! お前いくつだ!」

「まだ二十八だ! まだまだいけるべ!」

「っは! うちの息子は十五だ。うちの息子の方がお似合いだべさ!」

「なにおー!」

「やるかー!」


 ……。何だこの不毛な会話は。愛は嫁にやらんし、そもそもそんな事で店でもめるな。

あ、でもドリンク注文してくれているのか。

じゃぁーしょうがない。少しは大目に見てあげよう。


「いらっしゃいませー! 申し訳ありません、ただ今満席なんで、 ってユーキね。お帰り」


 初めはナイス笑顔に、ナイスヴォイスだったのだ、俺だとわかったとたんに豹変する。

声も普通になり、笑顔も消え、無表情に近い。

確かに、仕事としてはそうかもしれないが、なんか寂しいよね……。


「ただいま。すごいことになってるな」

「話したいことも色々あるけれど。とりあえず、ホールに出て。イリッシュもよ」


 さすが俺の見込んだ女、ルエルさん。仕事はきっちりこなすタイプですね。

俺もイリッシュも一度裏に行き、仕事の準備をする。


「さて、イリッシュさん、戦場に行きますか」

「私にとっての戦場は今夜ですよ」

「それは絶対に秘密だからな」

「はい。わかってます」


 扉をあけ、ホールに出る。

ここまでお客さんがいるのは珍しいだろう。

さて、まわしますか!


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