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第129話 ~緊急事態と後姿~


 ここはスラムの一角にある、コロムの家。

コロムの身だしなみを見る限り、スラムの子に見えてもおかしくはない。


 年は十歳くらいだろうか。可愛い顔をしているが、服装はボロ。

髪もボサボサのもさもさ。住んでいる家もスラムときたもんだ。


 俺とイリッシュはコロムに続き家に入った。

そして、予想とは真逆な光景が目に入る。


 木目調のきれいな床と家具。玄関もきれいになっており、清潔感を感じる。

木のいい匂いがするし、何より一番のびっくりはコロムの母親も十歳くらいに見える。


「あら、お客様なの? コロムったら遊びに行ったと思ったら何をしてるのかしら?」

「このお二人にチチを探してもらえる事になりました!」

「あら、そうだったの。いらっしゃい、どうぞ中に」


 コロム母に案内され、部屋に入る。

ここも木目調の家具一式で統一され、とてもスラムの家とは思えない。

出てきたカップにはお茶が注がれており、いい匂いがする。


「わざわざこんな所まで、本当に申し訳ありません」

「いえ、帰る途中に寄っただけなので、お気になさらずに」

「まぁ、そう言っていただけると助かりますわ」


 コロム母はいったい何歳なんだ? さっきから気になってしょうがない。

後ろから見たらコロムもコロム母も同じ背丈だし、見間違えるくらいそっくりだ。

髪の長さが少し違うくらいだな。


「えっと、コロムのお母さんでいいのでしょうか? お姉さんではないですよね?」

「あら! お世辞がうまいわね! 私はコロムの母で間違いないわよ」

「そうですか。いや、正直なところコロムと同じくらいの年にしか見えなくてですね……」

「そうね、私たちホビット族は若い時期が長いですからね」

「そ、そうなんですね」


 それにしても目の前には子供が二人いると言っても過言ではないな。


「コロム、そんな格好になって。早く着替えて、顔を洗ってきなさい。お客様に失礼ですよ」

「わかったよ。ユーさんもイーさんもお茶でも飲んで待っててね!」

「ああ、分かった」


 コロムは小走りで奥の方に行ってしまった。

さて、これからどうしようか?


「お母様、お尋ねしたいことが」


 イリッシュが切り出した。


「何でしょう?」

「コロムちゃんはいつから探しているのでしょうか?」

「いなくなってからずっとね。先日、街で見かけた時にギルドに依頼しに行く! って張り切っていたわ」

「そうですか……」

「でも、あの子のおこずかいで依頼できる内容ではないのでしょうが、本当に依頼を受けたのですか?」

「そうですね、ユーキ兄。正直に話しますか?」

「ああ、問題ないだろう」

「盗賊の討伐依頼を私たちは受けたのですが、どうやらその盗賊のアジトにいるみたいなんです」

「まぁ、そんな事に……」

「私達が討伐に行った時に見つけることができれば、一緒にここへ戻ってこようかと」

「そんな事になっていたのですね……。うちの子が、本当に申し訳ありません……」


 コロム母は肩を落としながらため息をついている。


「討伐のついでなんです。コロムにも同じように伝えています」

「ユーキ兄は甘いんです! 討伐で精一杯なのに!」

「まぁまぁ、そうカッカするなって。人助けだと思ってさ」

「でも、もし見つかったらコロムも喜びますね」

「俺は子供の味方だ! できる限りの事はする!」

「そう言っていただけると助かります」

「ち、ちなみにホビット族の女性と一緒に食事したら結婚の申し込みになるとかないですよね?」

「うふふ、それだけでは申し込みになりませんよ」

「良かった! 一応念のためホビット族の結婚申し込み方法を聞いていいでしょうか?」


 コロム母の目つきが変わった。

細く、長い目つきになり、後ろに黒のオーラが見える。

指の先にある爪が少し長くなり、切れ味がよさそうな形に変わっていく。

髪も少し逆立っており、戦闘能力が五倍くらいになった気がする


「あなた、うちの子に何かするつもりかしら?」

「ち、違います! 結婚を申し込まないようにしたいので、予め聞いておこうと!」

「え? うちの子はそんなに魅力がないと?」

「そんな事ありません! すごく魅力的です!」


 ど、どうしよう! どうしたらわかってもらえる?

このままだとどっちに転んでも結果が悪くなりそうだ!

イリッシュ! 助けて! と、目線で合図する。


 ところがイリッシュは出されたお茶を飲みながらのほほんとしている。

おーまいがっ! おーい、イリッシュ! 助けてくれよ!


「じゃぁ、うちの子に結婚を申し込むのかい?」

「申し込みません!」

「うちの子はそんなに魅力がないと?」

「そんな事ありましぇん!」

「じゃぁ、どうするんだい?」


 た、たすけてー。 誰か助けてー!

……っは! いい事思いついた!


「イリッシュ! すまん! 商人ギルドで会おう!」

「え?」


 俺はその場で目を閉じ、体全体を魔力で包み込むようなイメージをする。

緊急事態だ! あとは任せた! イメージする先はえっと……。

フェアリーグリーンの倉庫! あそこなら急に転移しても大丈夫なはず!


 いける! これならこの場を一気に回避できる!

さらばイリッシュ! 後は任せた!



――――



――



 そっと目を開ける。暗いどこかに移動したようだ。

イリッシュもコロム母もいない。


 目が慣れてきた。うっすらと明かりが見える。

その隣で何かが動いている。 え?ここは店の倉庫のはず。誰かいるのか?


 俺はゆっくりと音を立てずに明かりの方へ歩み寄る。

そこで目にしたのは、フィルの後姿。


 上半身裸で下着一枚の姿だ。タオルで体を拭いているみたいだ。

しかし、フィルは幼い体つきだが、しっかりとしているな。


 って、まずい! なんでこんな所にフィルがいるんだ!

何とか、こそっと逃げ出さないと……。



――カタンッ


 おわっふ! やばい! 何か蹴っ飛ばした!


 そしてフィルと目が合う。

見つめあう二人の時間は永遠のように感じる。


 ゆっくりと、スローモーションのようにフィルが近づいてくる。

俺、この後どうなるんだろうか……。



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