第012話 ~誤解と借金~
「きゃぁぁぁぁ!!!!狼男!!!」
叫びながら愛は狼男の胸におでこをぶつけ、盛大にはじけ飛ばされる。
「なんだ!この活きのいいねーちゃんは!この店の客か!?おい!ルエルいるんだろう!顔出せや!」
騒がしい。そんな大声を出すな。十分聞こえている。それより愛は無事か?
「いったぁーーーい!思いっきり腰打ったじゃない!どこ見て歩いてるのよ!」
「何だぁ!?ねーちゃん。人にぶつかっておいて、その態度はいけないなぁ。ちょっと、表でろや」
狼男は愛に向かって右手を出し、頭を鷲掴みにしようとしている。
「いやぁぁぁ!お、襲われる!!!!」
愛は泣きながらこっちを見ている。どうやら助けてほしいようだ。
俺が狼男に向かって声を出そうとした時
「ギーン。今日は来る予定がないはずよ?今、商談中だから、出直してもらえるかしら?」
席を立ったルエルが、ギーンと呼ばれた狼男に近づいていく。
ギーンの目の前まで来たルエルだが、身長差が激しい。50cm位はあるんじゃないか?
「あぁ!?ずいぶんと、大きな口がきけるようになったな!ルエルさんよー!」
「今、この二人と商談をしているの。破談にしたくないわ」
「っけ!何が商談だ。どうせちっぽけな取引なんだろ?」
「いいえ、そうでもないわ。金貨20枚分、私にとっては大口の取引だわ」
「ほぅ、それなりの額だな。返済の目途は立ちそうか?ん??」
「大丈夫よ。期日までには間に合うわ」
「そうか。それならいいんだ。俺も好きでこんな事しているわけじゃないんでな。悪く思うな」
「そうね、仕事なのでしょうがないわね。でも、返済不可だった場合、あの契約は実行されるのでしょう?」
「そうだな。契約だからな。契約がなければ、俺たちはただの金貸し慈善事業になっちまう」
「期日までには絶対に間に合うわ。それまでここには来ないでほしいの。しばらく忙しくなるし、店を空けることも多くなるわ」
「なぁに、期日さえ守っていりゃ俺たちは問題ない。今日は大口の客に免じて退散してやるよ。でもなぁ、ルエルさんよ。期限は近いぜ!金貨100枚、きっちりそろえておくんだな!」
「えぇ、わかったわ。」
「じゃぁな!それから活きのいいねーちゃんよ、次から前見て歩くことだな!」
でっかい狼男は蹴って入口の扉を開け、くぐるように出て行った。
な、なんだあの大きさは。2メートル以上あるんじゃないか?
「アイ、こっちに来て座って。今起きたこと、今まで起きてしまったことを話すわ」
愛は訳のわからないまま椅子に座った。どうやら落ち着いたようだ。
いいのか、悪いのか、誤解は解けているのか、いないのか。
ルエルの話が始まる
「ここまで知られてしまったら、隠しておけないわね。さっきの大声獣人はギーン。金融ギルドの取り立てメンバーよ。この店は彼のギルドに借金があるの。支払期限が近いんだけど、なかなか返せなくてね・・・」
「借金があったのか。金貨100枚って言ってたな」
「そう。期限までに払えなければ、この店は無くなり、私は奴隷として売られてしまう契約になってるの」
「ルエルさん・・・。そんな事より、お兄ぃとナニがあったか詳しく教えて」
「え、えぇ、いいわよ。その話が終わったら、私の話の続きをしようかしら・・・」
ルエルはユーキと一緒に魔法の属性テストや台所で行った水の魔法の経緯を話した。
4属性とその強さ、水の出し方、水がお触れ出てしまった事など、一通り説明が終わった。
愛はなぜか、ニコニコしている。
「お兄ぃ、ちゃんと説明しないと。ダメだよ、誤解されちゃうよ?」
「そ、そうか?俺が悪いのか?良くわからないが、すまん。でも、決して愛を嫌いになんてならないからな」
「そうだね、私達たった二人の兄妹なんだし、仲良くしないとね!」
良くわからないが、何とか仲直りし、場に笑顔が戻った。いったい何をナニと誤解していたのか・・・。
「ちょっとまじめな話するから、お店もう閉めるわね」
ルエルは席を立ち、入口に向かって歩いていく。扉を開き、外に出ていく。何かをしているようだが、ここからは見えない。
すると、ルエルが戻って来る。『クローズ』のプレートでも出したのだろうか?
「お待たせ。これで、新しいお客さんは入ってこないわ。話の続きをしようかしら」
仕切りなおして、もう一度ルエルが話し始める・・・。
ルエルも借金。俺も借金。お金がないと、首も回らん。
借金とか奴隷とか聞いてしまったら、元の世界に戻りにくいじゃないか!
しょうがないな!返してやるよ!俺の借金も、ルエルの借金も!




