第127話 ~熱くて固くて太いものと首輪~
コロムはゆっくりと話し始める。
さっきまでの明るい空気はどこに行った?
いきなり空気が重くなった。
「実は、ギルドに依頼を出したのですが断られました」
「どんな依頼だ?」
「チチを見つけて、家に連れてきてほしいと」
「それは難しいな。この世界中から探し出すんだろ?」
「そうですが、心当たりはあります」
「そうか、手がかりがあるのであればまだ探せるな」
こいつ、父さんを探してほしいのか。
変な依頼だったら断ろうと思ったが、真剣に聞いてみるか……。
「それで、いつからいないんだ?」
「随分昔です。でも、急にいなくなってしまって」
「見た目は分かるのか?」
「大きいです。そして毛が白く、長いです」
「そ、そうか。他には?」
「右目のまぶたに傷があります。切られた痕です」
イリッシュも真剣にウンウン相槌を打ちながら聞いている。
「傷か……。他には何かあるか?」
「この鍵です」
「これは何のカギだ?」
「首輪です」
え? いま首輪って言った?
首輪ってなんで父さんに首輪付けてるの?
それって、おかしくないか?
「く、首輪付けているのか?」
「はい、逃げられないようにつけていたのですが……」
父さんを逃がさないようにって……。いったいどんな関係なんだ?
ものすごい極悪環境の生活なのかな?
「そ、それで逃げられちゃったの?」
「はい、首輪は落ちていなかったので今もついていると思います」
「傷に首輪か。探し出せると保証はないな」
「いいえ、実は先日見かけたんです」
「え? 見かけた?」
「はい。でも、他の男に紐をつけられ、歩かされていました」
ど、奴隷なんじゃないか?
見間違いじゃないんだよね? 本当に本人なんだよな?
「見間違いの可能性は?」
「ありません。向こうも私に気が付きました」
「そうか。それで?」
「後を追いました。そしたら街の外に行ってしまいました」
「この街にはすでにいないって事か」
「そうなんです、チチは盗賊の仲間に連れて行かれていました」
おっとそんな展開ですか!
予想とはずれてたけど、イベント的には大きいな。
「もしかして、壊滅依頼があった盗賊たちって……」
「はい、チチがいる盗賊団だと思います。人数とか根城とか、依頼書と同じだと思います」
そうか、だからギルドでずっと見ていたのか。
この依頼書を手に取る冒険者を探していたって事だな。
「なるほどな。大体わかった。俺達が討伐に行ったら探してきてほしいってところか?」
「はい! もちろん報酬はお支払いします!」
コロムはポーチから巾着を一つ取り出し、テーブルの真ん中に置く。
拳サイズになっている巾着はボロボロだ。
中を開けてみると硬貨がたくさんある。が、恐らく二千ジェニもないだろう。
この金額ではギルドに断られるな。
「ユーキ兄。この金額では……」
イリッシュも顔が曇っている。
金額的に見合わないのだろう。俺だってそう思う。
「コロム。この金はまだ自分で持っておけ。成功報酬でいい」
「分かりました」
コロムは巾着をポーチに入れる。確かに金額は安い。
でも、三日も食べずにためた金だ。決して軽い金ではない。
いいだろう。今回はその重みで受けてやるよ。
「俺達も討伐できるかわからない。現地で何があるか分からんしな」
「ユーキ兄。いいのですか? 受けてしまって」
「いいよ、討伐のついでだ。そう、ついでなんだからねっ!」
ちょっとツンとしてみた。
実際討伐中に人ひとり探すのは難しいかな?
「では、これを渡しておきますね」
コロムはポーチから一枚のハンカチと鍵を出す。
「ハンカチを見せれば私だってきっとわかります」
「分かった。預かっておこう」
「はい! よろしくお願いします!」
「ユーキ兄。甘いですね。可愛い子だからですか?」
「甘くない! ついでの作業。おまけだよおまけ!」
やいのやいの話しているとスタッフが大きな皿を持ってきた。
何か沢山のっている。湯気までたってるし、いい匂いがする。
「お待たせいたしました! ランチ三人前でございます。お代わりは自由。なくなったらお呼び下さい」
目の前に大きなお皿。中にはソーセージがたくさん。
湯でウィンナー? 焼きソーセージ? が何種類も。
色々な形、色、調理方法で大皿に入っている。
確かに熱いし、長いしのも太いのもあるし、焼いたら固くなる。
皮つきのウィンナーは肉汁がたっぷり入っているな。
うん、イリッシュの言っていたヒントは間違いがない。
確かに間違いはないんだけどさっ!
「ソースは三種類、小皿とセットになっております。果物は自由にあちらのカウンターからお取り下さい」
カウンターを見ると果物の山。
それぞれが切られており、食べやすくなっている。バイキング方式なのかな?
何人か果物を取りに行っている。
「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。ユーキ兄は他に注文しますか?」
「いいや、大丈夫だ」
「では、追加ソーセージが必要であればお呼びください」
スタッフは去っていく。なかなかいい声のお兄さんだ。
俺よりも年上かな。
「さぁ、食べましょう! この赤いソースがおすすめです!」
イシッリュおすすめのランチ。
見た目はおいしそうだが、味はどうかな!
と、思ったらコロムはすでに口いっぱいに食べている。
お、俺もいただきます!




