第125話 ~空腹とおじさん~
ギルドの建物の横。樽が個数並んでいる。
そこに小さな影が映っている。さっきから俺達を覗いている奴だ。
こっちから声をかけてみたが、出てこないのかな?
「用事がないなら、俺達はもう行くぞ!」
「早く出てきてくださーい」
なかなか反応がない。
――ガタンッ! ガタガタガタ!
「出して―!」
何か聞こえた。こもったような声で助けを求めている。
「イリッシュは聞こえたか?」
「はい」
俺達は恐る恐る樽の方に近寄っていく。
一歩、二歩、三歩……。。
確かに、声はする。しかし、姿は無い。
何だ? 隠れているのか?
ふと、蓋の空いた樽を見てみると、中に逆立ち状態の子供がいる。
「何してるんだ? 遊んでるのか?」
「ち、違います! 慌ててたら入ってしまって、出れないんです!」
「助けた方がいいですか?」
「このままにしておくのも少し可哀そうだしな」
俺は両足をつかみ、そのまま引っ張り出す。
大変残念なことに、スカートがそのままひっくり返っている。
少女はスカートを必死で押さえているが、色々なところが見えてしまっている。
小僧と思ったら少女だった。すまん、女の子とは思わず……。
俺はそっと、元に戻す。
「えっと、イリッシュ。どうしたらいい?」
「すいません! お取り込み中とは思いますが、そのまま一気に引っ張って下さい!」
「ユーキ兄は何もしないで下さい。そして、向こうを向いてください。今直ぐす」
「あい」
俺は後ろを振り返り、通りの方を見る。
色々な人が行き来し、色々な格好をしている。
日本だったらまさにコミケ会場だな。レイヤーの皆様のようだ。
でも、あの武器も、鎧も本物なんだよな……。
「んーーー! ふんっ!」
「た、助かりました! ありがとうございます!」
「ふぅ。怪我はありませんか?」
「はい! 大丈夫です!」
どうやら無事に抜け出せたようだ。
「そろそろいいか?」
「お待たせしました。もう大丈夫ですよ」
振り返ると一人の少女が立っている。
やや汚れた服に、少しボサボサの髪。でも、チビっ子ながらになかなかかわいい顔立ちをしている。
きっと将来は美人になるな!
「して、お主何用じゃ? まさか、奴の手先か!」
「ユーキ兄。普通に話してください」
「すまん。 えっと、君は誰かな?」
「は、初めまして! 私はコロムと申します」
「こんにちわコロムちゃん。さっきから私たちの事見ていましたよね?」
「はい。実は……」
なんとなーく長話になりそうな気がする。
そして、きっとこれはイベント発生のフラグが立っていると思われる。
このフラグ、回収した方がいいのかな? 一応話だけは聞くか。
「なぁ、立ち話もなんだし、昼を一緒に食べないか?」
こんな道の隅っこで、樽の隣で長話は遠慮したい。
日差しもそれなりにあるから、お肌が焼けてしまうわ。真っ黒になったらどうするの!
なーんて事を考える。
「いいですね。コロムちゃん、一緒に行きましょう」
「ごめんなさい。行きたいのですが、持ち合わせがなく……」
「いいよ、ランチ位出してやるよ」
「いいのですか! ありがとうございます! 今日は朝から何も食べていなくて!」
「じゃぁ、行きましょう! こっちです!」
見た感じイリッシュよりも年下だな。
まだ小学生くらいか? いったい何の用があって俺達に近づいてきたんだか……。
イリッシュはコロムの手を取り、前を歩いている。
イリッシュに手を引かれなくなったので、俺は自由に歩ける。
ちょっと寂しい気もするのは内緒だ。
「コロムちゃんはここに住んでるんですか?」
「はい! この先の裏の方に」
「家族はいるの?」
「弟と母がいます」
「そっか……」
イリッシュが目で俺に話しかけてくる。
『この子、お父さんいないみたい。変なこと聞いちゃった。話が続かない! 助けて!』
合っているか、いないかは全く分からない。
でも、さっきからイリッシュはこっちをチラチラ見てくる。
しょうがない、助けてやるか。
「そんなに急いでいくなよ! 店は近いのか?」
「えっと、そろそろです」
「そうか。じゃぁ、着くまで何が食べたいか考えておくか。コロムは何が食べたいんだ?」
「お腹に入れば何でも!」
「そ、そうか……。じゃぁ、好きな食べ物は?」
「お腹に入れば何でも!」
「……。もしかして、普段から空腹か?」
「はい! 三日間何も無しなんてこともありました!」
誰か助けて……。きっとこの子訳ありだよ。絶対にそうだよ。
そして、このフラグは強制イベントで、絶対に回収するようになってるんだよ。
まいった、いったいどんなイベントが発生する事やら。
「じゃぁ、今日はたくさん食べてくれ!」
「ありがとうございます! おじさんは、優しいですね!」
あーん? おじさんだと? この俺の事をおじさん?
「コロムちゃん。この方はユーキさんです。おじさんではないですよ」
「そ、そうだぞ。おじさんではないぞ」
「分かりました」
「私はイリッシュ。よろしくね」
「はい! ユーさん、イーさんよろしくです!」
『勇樹は新しいあだ名を獲得した!』
「あ、見えてみましたよ! あの店です!」
やっと着いたか。
……。真っ黒な壁に、白の扉。
窓はなく、屋根まで黒い。看板も黒背景に白文字。
完全モノトーンだ。白黒な店だ。よし、パンダ店となずけよう。
いったいに何を提供されるんだ……?




