第119話 ~危機的状況とフォーメーション~
廊下に出た俺はトイレの方を見る。
そこには筋肉隆々の女性はいなく、元の姿に戻ったフィルがいた。
たったの数秒で元に戻るとは、いったいどんな仕組みなんだ?
「フィ、フィル? 元の姿にもどったんだ」
「……ん。錬成タイム終了。今回は思ったより維持できた」
フィルのおでこにはうっすら汗があり、大変だったことが伝わってくる。
そして、懐から何か取り出す。
「……これ」
そこには剣をモチーフにしたペンダントトップ付きのネックレス。
魔石も埋め込まれており、なかなか良くできている。
そしてもう一つは楯をモチーフにしたペンダントトップ付きのネックレス。
こちらも魔石も埋め込まれており、なかなか良くできている。
「これが例のアイテムか」
「……ん。ユーキは剣を、ボクは楯を」
「どれ、つけてやるよ」
「……ありがと」
楯のペンダントトップのネックレスをフィルに付けてやる。
これが海岸とかもっと雰囲気のいい所だったら、いい絵になるのだろうが、ここはトイレ前。
雰囲気も何もあったもんじゃない。
まぁ、二人の世界に入ればどこでもオッケーなんですがね。
「なかなか似合うな。じゃぁ、俺も剣のネックレスを」
フィルとお揃いのネックレス。
皮紐を首の後ろで結び、トップを胸元に。
お、なかなかかっこいいじゃないか。日本でも売っていそうな感じなアクセだ。
違和感がない!
そんな事を考えている俺の首には、もう一つネックレスがある。
鍵の形をしたペンダントトップが付いているネックス。
唯一、日本からこの世界に持ち込めたアイテムだ。愛も同じようにネックレスだけ持ち込めている。
日本に帰るキーになるか。ならないか。
カギだけに、帰る気ーになるな。まさにキーアイテムだ。
もう一度言っておこう。このアイテムはキーアイテムだな。
重要なので二回いいました。
「なぁ、このペンダントに魔力流したら、フィルの居場所わかるのか?」
「……目を閉じて、魔力流す。相手のいる方角が何となくわかる」
俺は魔力を流し、目を閉じる。
お、何かイメージ出てきた。感覚的に『こっち』というのがわかる。
迷子の時に便利なアイテムだね!
「ああ、何となくわかった」
「……何となく、方角がわかる。これでいつでもユーキを探せる」
「心配するな。迷子にはならないさ。ありがとな、かっこいいネックレスで嬉しいよ」
「……ん。それは良かった」
フィルは少し照れている。言葉ではぶっきらぼうだが、顔はニコニコしている。
「さて、俺も用を足したら戻るから先に行っててくれ」
「……ん」
フィルを背に、俺はトイレに入る。
実は結構前から我慢していた。でも、ルエルの前では言えないので我慢していた。
急いでトイレに入る。早くしなければ、一刻の猶予もない。早くズボンを脱がないと!
ちょっとだけ焦る俺。危機的状況だ。正確にズボンを下ろさないと、大変まずいことになる。
急げ! 急げ! 早くぅー!
…………ふぅ。
セーフティ!
間に合った。良かった。ギリギリだ。
もう少し、余裕をみておかないとね!さて、手を洗ったら戻りますか!
そして、ギリギリのところで何とか用足しが終わり、俺は元の席に着く。
相変わらず空気が悪い。静かだ。
遠くから『カコーン』とか、ししおどしの音が聞こえてくるよな雰囲気だ。
「さて、最重要案件は伝わったかな?」
俺はみんなを見る。
「お兄ぃ、何とかしないとまずいね」
「そうですね。どうしたらいいですかね?」
「……商品を売るしかない」
三人はそれぞれ考えを伝えてくる。声が若干曇っており、少し緊張しているようだ。
「現実的に考えて、百万ジェニを稼ぐにはどうしたらいいか。何か案はあるかしら?」
ルエルが皆に問いかける。
まぁ、あったらすでに実行しているような気もするがな。
再び沈黙の時間が流れる。
「売るにしても、お客さんがなかなか来ないですからね……」
「そうだねー。じゃぁ、売りに行っちゃえばいいんじゃない?」
「外に売りに行くんですか?」
「そうね、外で売ってもいいかもしれないわね」
「……店の前で実演販売するのは?」
おお、フィル。グットアイディーア。
「そうだな、俺も同じ事を考えていた。店の前だったら勝手に売ってもいいのかな?」
「自分の店の前は大丈夫よ。他で販売するには許可が必要だけど」
ちょっとだけ場が和み、会話が進む。
でも、実際問題ここにあるアイテムを全て売っても足りすかどうか……。
どうやって販売していくか、誰に何をしてもらったら、いいか考える。
販売に向いている、声が大きい方がいいかな?
一人ではなく、サポートも必要だろう。
よし! 決めた!
次の作戦とフォーメーションはこれだ!




