第118話 ~最重要案件とトイレ~
見た目はにーちゃん! 頭脳は普通! 迷探偵ユーキ!
さぁ! ここで推理してみよう。何故フィルがマッチョになったのか。
今朝、一緒に工房にいたがその時は普通だった。
むしろ小っちゃかった。え? 胸じゃないよ。背丈だよ。
しかし! 今、目の前にいるフィルは身長二メートルを超えるマッチョだ。
筋肉隆々、その腕で抱きしめられたら窒息死するくらい。
腕もめっちゃ太い。俺の太もも以上の太さがあるんじゃないか?
短時間の筋トレで増えない筋量だ。
だがしかし、この世界には魔法がある。
他にも飲んだらマッチョになる薬があるかもしれない。
マッチョの薬があったとして、それが必要になる事件でも起きたのだろうか?
俺が頭の中で色々考察していると、ルエルがひょこっと俺の後ろから顔を出し、フィルを見る。
「あら、今回は随分大きくなったのね。大丈夫?」
「……ルー。お帰り。今回はちょっと疲れた」
ん? ルエルの反応を見る限り、いたって普通だ。
過去にも何度がマッチョになったという事か。
「お帰りなさい。何かいいアイテムはありましたか?」
「お兄ぃ、お土産! ルエルさん、お帰りなさい!」
愛とイリッシュも駆け寄ってくる。
愛の第一声が『お土産!』か。まぁ、愛らしいと言えば愛らしいな。
「すまん、いろいろあってお土産はない。また今度だ」
「ごめんなさいね、予定外の事があってね」
俺達は店内の奥の移動し始め、いつものテーブル席に座る。
しかし、お客さんがいないな。
「ふぅ。どこから話せばいいのか……」
俺は一人一人目を見て、どう話せばいいか考える。
「少し、お茶でも飲みましょうか」
ルエルが席を立ちカウンターへ行く。
「あ、私も手伝いますよ」
イリッシュも席を立ち、ルエルの後を追う。
目の前にはマッチョフィルと愛。
「愛はフィルの姿を見て何とも思わなかったのか?」
「それがさ! 超びっくりしたよ。『倉庫から大女でた!』とか思っちゃたし」
「だよな。俺もびっくりした。それで、フィル詳しく話してもらえるか?」
フィルはちょこんと椅子に座ったたまま語り始める。
椅子が小さく見える。ギシギシいっている。大丈夫かな? 壊れないよな?
「……鍛冶錬成するとき、自身の魔力を解放する。一時的に体が最適化する」
なるほど。鍛冶をするときに魔力開放でこうなるのか。
しかし、ここまで変わるものなのか……。
ん? そうするとボムおじさんはさらにマッチョになるのか?
「元に戻るのか?」
「……しばらく休んだら勝手に戻る。心配ない」
「そうか。じゃぁ、しばらく休んだ方がいいな」
「フィルはさっき来たばっかりだからさ、ゆっくりするといいよ!」
「……ん。あと、これ渡しておく。試作と依頼品。できた分だけ持ってきている」
フィルがテーブルに置いたアイテムは俺が依頼していた試作品と商品。
さすがフィル。仕事が早い。見た感じ思っていた通りのアイテムができている。
「フィルは仕事が早いな」
「……もちろん。早い、うまい、安いがモットー」
「どこかで聞いたフレーズだな……」
「お兄ぃはフィルに色々とお願いしていったんだね」
「まぁな。これで少しでも魅力あるお店になるといいな」
そんな話をしていると、カウンターから二人が戻ってきた。
カップをテーブルに置き、紅茶を注ぐ。全員に飲み物がいきわたった。
「さて、全員揃ったところで本題に入りたい」
テーブルにあった試作はバックに商品は一時的に後ろのテーブルに移動する。
そしてバックから仕入れ品のコームを取り出す。
「まずは、コームの仕入れをしてきた。販売は一本一万ジェニ。残数は五十だ」
「おお! お兄ぃのコームがお店に並ぶんだね!」
「この地区の他の店にも卸されているみたいなので、うちでも早く売りましょうね」
「分かりました。頑張ります!」
「……個人的に欲しい」
各々がそれぞれの想いを口にする。
「次に最重要案件だ。各自よく聞いてくれ。明日の日が落ちるまでに百万ジェニ必要になった。間に合わなかったらこの店が無くなる」
チーン
沈黙。全員言葉を発しない。
まぁ、突然の発表だしな。さっきまでワイワイしていたのに、一気に空気が悪くなった。
現実問題、一致団結しみんなで儲けないと恐らく間に合わないだろう。
今こそみんなの力を合わせる時だ! みんな現金を少しずつ分けてくれ!
場は沈黙。まだ誰も話さない。みんな俺を見ている。そんなに見つめるなよ照れるじゃないか。
しかし、空気が重すぎるな。軽いギャグでも言って重い空気を飛ばした方がいいかな?
「トイレ」
俺は一言、伝え席を立つ。
立ったと同時に椅子にからまたふりをして盛大に転んでみせる。
「う、うわぁぁ!」
ドタッ! ガタン! ガタガタガタ!
「痛たた……」
テーブルに手を伸ばし立ち上がろうとし、頭をテーブルの裏に打つ。
ガタンッ!
そして、テーブルの上にあったカップが倒れ、中のお茶がこぼれる。
かなり熱いお茶がそのまま俺の首元から背中に流れ込み、大変な事に!
「ホワチャー! あ、あつぅぅ!」
急いで服を脱ぎ、上半身裸になる。
予定外だ。熱い、誰だ紅茶を置いたのは! 熱いじゃないか!
「ハァハァハァハァ……。トイレ行ってくる」
上半身裸のままトイレに向かう。ここまでしたんだ。
もっと和やかになれよ! 何で誰も突っ込まないんだ!
「お兄ぃ。寒くない? 二つの意味で」
「ユーキ兄。冷やしますか?」
「……ボクもトイレ」
ルエルはまだ黙ったままだ。思ったより落ち込んでいるのかな?
「寒くない。このままでいい。よし、フィルもトイレに行くか」
「……二人で入るのか?」
「入るか!」
「……ならよし」
フィルも席を立ち、トイレに向かう。
「愛、すまんがテーブルの上拭いておいてもらえるか?」
「はいはい。やっておきますよー」
フィルと席を離れ、トイレの前まで来た。
「……ユーキ、ルーがそうとう落ち込んでいる。なぜ?」
「フィルにはわかるのか。まぁ、いろいろあってな。トイレ、先に入れよ」
「……音が聞きたいの?」
「そんなわけあるか! 早く入れ!」
「……ユーキ、そんなに怒らない。軽いジョーク」
「分かったから早く入ってくれ」
「……ん」
フィルはトイレに入った。俺は隣の脱衣所で顔を洗う。
流石に女性がトイレに入った後、その場にいる訳にはいかないしな。
バタン!
お、出たのか。じゃ、俺も用をたしに……。
脱衣場から廊下に出る。
な、何だと! これはいったい何が起きたんだ!




