第117話 ~牛乳と筋肉隆々~
どうしてわかったんだ? そんなに俺は顔に出るのか?
いや、たとえ顔に出たとしてもあそこまで詳細にわかるはずがない。
何かタネがあるはずだ……。
「なぜ、わかったんだ?」
「当たりのようね。ユーキも結構エッチなのね。そんな事ばかり考えているの?」
そんな事無い! いや、たまにはあるかもしれないが今のはたまたまだ!
年がら年中頭がピンクではない!
「いつもではないな。ちなみに今は何を考えているか分かるか?」
ルエルにつたえた直後、俺は裸で片手を腰に。
牛乳ビンに入った牛乳を一気飲みしている自分を妄想する。
「……。ユーキ、遊んでるの? 裸でギューニュ―。どう? 当たった?」
「凄いな。どんぴしゃだ」
まさまここまで読まれるとは思わなかった。
裸なのはともかく、牛乳瓶もこの世界にあるのか?
「なぁ、この世界に牛乳ってあるのか?」
「それは何?」
あれ? さっき牛乳と言ったのに牛乳を知らない?
そうか、俺の考えている事を読んだからルエルの知らない単語でも言えるのか。
「牛乳は白い飲み物だ。ルエルは知らないのか?」
「初めて聞いたわ。それで、何か分かった?」
「ああ、俺の考えを読んでいるのだろ? だから知らない単語もルエルから出てきた」
「当たり。良くわかったわね」
ルエルはそっと、右手から指輪を外す。
あれ? ルエルって指輪なんてしていたっけ?
「はい、これ返すわね。さっき見せてもらったアクセサリーの一つよ」
ルエルは外した指輪を俺の指にはめる。
「さっき見せた時に一つはめていたのか?」
「ええ、これだけはどんな魔道具かわかったの。たまたまね」
「どんな効果なんだ?」
「実際に使ってみた方が早いわ。私の目を見ながら私に触れてみて」
俺はルエルの目を見ながら手を握る。
これでいいのかな?
しばらくするとルエルは言葉を発していないのに何か聞こえてきた。
『いつまでも一緒に。私のそばに』
心の声って感じだな。ルエルからテレパシーが届いているみたいだ。
でも、一方通行だし、相手の目をみて、さらに触れなければならない。
使い方に困る魔道具だな。
「何か聞こえた?」
ルエルは少しもじもじ、そわそわしながら俺に聞いてくる。
「ああ、多分な。その気持ちは俺の心にしまっておくよ」
「そう、きっとユーキには伝わったのね」
ちょっと緊張しながらドリンクを飲む。
ルエルも飲むが、さっきと違って、そこまでドキドキしない。
ルエルの目を見て、手に触れる。
『恥ずかしいな。でも、嬉しいな』
いつものルエルとは違う事を聞いている感じだ。
いつもはちょっと、ツンとしたお姉さんって感じだが、今の声を聞くと甘えん坊の女の子って感じだ。
どちらも同じルエルだが、ちょっとそのギャップが可愛い。
「そろそろ指輪をはずしてもいいか?」
「早く外して! なんでまだつけているの!」
なんか怒られた。なぜに?
取れっていうのであればしょうがない。指輪を巾着に戻す。
「これでいいか?」
「いいわ。もっと早くとってほしかったわ」
「悪かったな。なぁ、手っ取り早く現金を手に入れる方法ってなんだ?」
ルエルは少しだけ考えている。販売はそれなりに現金化できるが、出来ない可能性もある。
この状況で失敗は許されない。この世界で現金を得る方法を知っておきたい。
「そうね……。一番早いのは冒険者ギルドの依頼を受ける事かしら?」
「冒険者ギルドか……」
「難易度にもよるけど、魔石回収や討伐系は報酬が高いわね」
「俺にもいけると思うか?」
「正直なところ、ユーキの戦闘能力が分からないわ。対人ではなく対魔物って、戦えるの?」
「わからん。他には?」
「盗賊のアジトに行って、お宝回収」
「却下だな」
そんなこんな話している間にドリンクは空っぽに。
「ふぅ。そろそろ行くか」
「そうね。私のお願いもかなったし、結構満足よ」
ルエルに手を引かれ、店を出ようとする。
会計を済ませ、さっきの幼女? が出てくる。
「ルエルたん。また、お待ちしてまつね」
「ええ、また来るわね」
「ご馳走様でした、また来ます」
「あい、ありがとうございました」
ルエルと通りに出る。少し日も高くなり、昼に差しかかろうとしている。
この後は店に商品を卸して、販売の準備して、フィルの様子とイリッシュの様子を見て……。
愛は大丈夫かな? ちょっと心配。何も問題起こしていなければいいのだけど。
「さて、店に戻りましょうか?」
「そうだな。行きますか」
再びルエルと腕を組み、歩き始める。
俺達は肩を並べて歩いている。あとどのくらい一緒にいることができるのだろうか?
数時間、数日、数か月、数年、数十年、死ぬまで……。
不安な事もあるが、楽しい事も、嬉しいこともある。
こっちの世界でも、結構満足している自分がいる。
「ルエルの未来は明るいか?」
「ん? 明るいわよ。ユーキが解決してくれて、ユーキと一緒になれるんですもの」
そうか、明るいか。良かったな。
そんな話をしていると店についてしまった。
カランコローン
「ただいまー」
店に入ってすぐ目の前。身長約二メートル。筋肉隆々な方がいる。
後ろから見ると、髪が長く、ボインもあるので女性と思われる。
しかし、見事なマッスルボディ。美しい。
で、誰? お客さんかな?
その女性は振り返り、俺に向かって歩いてくる。
で、でかい。そして、筋肉が美しい。
「えっと、初めまして?」
一言話した途端、ぎゅーーっと抱き着かれた。
わぁお。苦しい。息が……。
「……おかえり。試作と商品少しできた」
え? その話し方フィルか! そんな!見た目も声も変わって!
「もしかして、フィル?」
「……そう。ちょっとだけたくましくなった」
「……ちょっと?」
いったい何が起きたんだ? ややちびっこのフィルが筋肉隆々っ娘になってしまった。
そして事件は謎に包まれる……。




