第115話 ~花束と小さい石~
ルエルと街中を歩いていく。通りにはたくさんの人が行き交っている。
べったりくっ付きながら歩いているのは俺達位だ。
他の人の目線を浴びる。手を繋いで歩いているカップルはいるが、ここまでべったりなのはいないな。
「どこまで行くんだ?」
「もう少し先よ」
さっきまでルンルン気分だったルエルの表情が少し曇っている。
心境の変化なのか、女心は分からない……。
しばらく歩いて行くと大通りから外れた道に入る。
人通りも少なくなり、店もなくなってきた。
「ちょっとだけ買い物していいかしら?」
「ああ、一緒に入るか?」
「私一人でいいわ。たいしたものでもないし」
ルエルは小さな店に入って行き、すぐに出てくる。
手には小さな花束が握られている。
「お待たせ。さ、行きましょうか」
再び、腕を組み歩き始める。
どんどん人が少なくなっていき、店もなくなった。
通りを抜けると、小さな丘があり、そこには小さな石がいくつも並んでいる所に出た。
少し遠くに大きな木が見える。街から少し離れた場所にこんな所があったのか。
「こっちよ」
ルエルに腕を引かれ、小さな石の間を通り抜けいていく。
この石はなんだ? 見た感じ相当数ある。
「ついたわ」
目の前にはやはり小さな石。そばには何個か同じような石があり、文字が刻まれている。
「ここはなんだ?」
ルエルは組んでいた腕を離し、手に持っていた花を石の前に添える。
そして、座り込んで石をなでる。
「ユーキにも紹介するわね。私の家族よ」
はい? あ、そうか。ここは霊園か。
「おじい様。お久しぶりです。ユーキを紹介するわね」
俺もルエルの隣に座り、何となく手を合わせる。
宗教が違うが、亡くなった人への気持ちを伝えるのであれば、多少やり方が変わっても問題ないかな?
「えっと、初めまして! 勇樹です。ルエルにお世話になってます!」
ルエルは微笑みながら俺の方を見る。やり方はあっていたのかな?
「ふふ、おじい様。今一緒に暮らしているの。とても楽しいわ。今日は最後のあいさつに来たの……」
そうか、もしかしたらここにはもう来れないかと思ったのか。
明日の期日に間に合わなかったら、来ることができなくなるもんな。
「ジーさん! 心配するな! 俺が絶対に何とかするから! また、ルエルと一緒に絶対に来るからな!」
そんな悲しい顔するな。二度と来れないとか。
俺が絶対にそんな事にはさせない! 絶対に回避してやる!
「ルエル! そんな挨拶するな! ジーさんに心配かけるなよ。俺に任せろ」
「そうね、また一緒に来れるといいわね」
ルエルの瞳から一粒の涙が流れる。
俺は指で涙をふき、抱き寄せる。
「ジーさん、ルエルの幸せは俺が守る。見守っていてくれよな!」
「おじい様。ごめんなさいね、こんな所見せてしまって。また、来ますね」
風が通り抜ける。添えた花から一輪、花が落ちる。
その風に乗って、ルエルの足元まで花が転がってきた。
「ジーさんの返事だな。この花はもらって行こう」
花を取り、ルエルの耳へひっかける。
「なんだ、ルエルは何でも似合うな」
「あ、ありがとう……。ちょっと恥ずかしいわね」
「じーさん、今度時間作ってみんなで来るよ。まだ紹介しないといけない家族がいるからな」
「おじい様。また、来ますね」
ジーさんの墓を背に、街に戻る。
気のせいだと思うが『よろしく』と聞こえた気がした。
実際問題、時間がない。どんな手を使っても百万ジェニ必要だ。
やってやる。ルエルの為でもあるが、俺自身の為にも。
「行きたいことろってジーさんの所だったのか?」
「ええ、ユーキを紹介したくてね。だって、未来の旦那様でしょ? 紹介しておかなかれば」
嬉しいような、悲しいような。
ルエルには何度も元の世界に帰るからと説明はしている。
俺と愛に依存した生活は良くない。いなくなった時が大変だ。
「俺が元の世界に帰ってしまったらどうするんだ?」
「待つわ。もう一度、この世界に来てくれるのをずっと待つ……」
「やめておけ。俺は異世界の人間だ。ルエルとは住む世界も種族も違うぞ」
「それでもいいの。恋愛は自由よ。もちろん住む世界が違ってもね」
「俺はルエルより先に死ぬぞ。エルフは長寿なんだろ?」
「大丈夫よ。種族が違っても、一緒にいる時は幸せよ。半生を共に出来るもの。これ以上の幸せはないわ」
何を言っても、気持ちは変わらないか……。
「ま、それはあとで考えよう。今は期日までに借金を返済する事だ。それに集中しよう」
「ええ、わかったわ。そんな時間があるわけではないものね」
全く焦っている様子の無いルエルは何か秘策でもあるのだろうか?
俺はこんなに焦っているのに……。
「何か一気に返済できる秘策でもあるのか?」
「秘策という訳でもないけど、ユーキが何とかしてくれるのでしょ? だから焦ってないわ」
おっふ。他力本願ですな。秘策もなしか。
こんな時誰かに相談したいが、なんせ知り合いがいない。
金を貸してくれる知人もいなければ、親も頼れない。
ん? 親?
「そうだ! ルエルの両親に借りたらいいんじゃないか? 今すぐ打診しよう!」
「無理ね」
おっと、即答ですね。
「な、なんでだ? もともと親の借金だろ?」
「手紙を送ったとしても向こうに着くのに時間がかかるわ。明日には間に合わない」
「そ、そうか……。だったらもう一度借金をして、一時的にでも……」
「二重借りはできないわね。一度全額返済しないと」
「だったら俺が代わりに……」
「ユーキはここの住人に登録はされてないわ。たとえ登録できてもすぐに借りることはできなのよ」
八方塞ですね。どーしーよー……。
「早くみんなの所に帰りましょ」
「そうだな、早く帰ろう」
ルエルと一緒に丘を下りながら、大通りに戻る。
一緒に歩いているルエルはとても美しく、綺麗だ。
そんなルエルの隣に俺がいる。
俺以外の男が立った時、俺は祝福できるのだろうか?




