第114話 ~販売料と行きたい所~
まだ朝早い時間、俺は商人ギルドにいる。
美少女エルフのルエルと憩いのひと時を過ごしている。
最近、ルエルの笑顔を見る機会が増え気がする。
会った頃は冷徹な少女のイメージだったのが、今では時折見せる笑顔にズッキューンすることもある。
こんな時間が心地よく、ずっとこうしていたいなと思うのだが……。
現実を見ると返済日が明日。それに目の前のハゲマッチョが暑苦しい。
「すまん。話が脱線した。で、販売料がどうしたんだ?」
今日から商人ギルドに卸されたばかり。まだ販売本数は少ないと思われるがどうなんだろう?
「ごほんっ! すでに卸した本数から計算し、今日の夕方にはルエルのカードに販売料が支払されると思う」
――ガタンッ!
勢いあまって立ち上がってしまった。ルエルはきょとんと俺を見ている。
ブロッサムはニヤニヤしている。おっと、興奮しすぎた。
「いくらだ? いくらになる予定だ?」
「おいおい、そんなにがっつくなって。恐らく二十万ジェニ位じゃないか?」
仕入れたコームの販売で利益が二十五万、特許の販売料で二十万。手元に五万位。
五十万ジェニは何とかできそうだ。あと五十万ジェニ。
「ボロッサムありがとう、いい知らせだ」
「小僧、いい加減名前を憶えろ! ブロッサムだ! ブロッサム!」
「ふふっ、ボロッサムだって。ユーキ、間違ったら失礼でしょ。これでもギルド長なのよ?」
「いや、本当に申し訳ない。ちょっと興奮してしまって……」
そんな話をしているとブロッサムは席を立ち、帰ろうとしている。
「話はこれで終わりだ、時間取らせて悪かったな」
「いや、わざわざありがとう。このタイミングで教えてもらえて助かった」
「ブロッサムも仕事ばかりしていないで、彼女とデートでもしてね」
俺達も席を立ち、ブロッサムと一緒に出口に向かい始める。
「ルエルちゃん。そいつは無理だな。今、心に穴が開いている。すっぽり抜けた穴に仕事を入れて埋め込んでいる。そこの小僧のせいでな!」
あ、なんか俺ディスられた。俺は何もしていないのに、いじめられた。
頑張れブロッサム。明日はきっといい事あるさ。
「あら、ユーキが何かしたの? 詳しく教えてくれたら後で注意しておくわよ?」
「だ、大丈夫。今度会ったときにでも小僧に直接話す」
「そう。無理しないでね」
ルエルはブロッサムに対して微笑みながら優しい言葉をかける。
おかしい、ルエルはもっと冷たい対応するはずだ。
なぜこんなに可愛い対応をしている? 理想の彼女っぽい事をしている?
キュピーン
わかった。そういう事か。店に帰るまではカレカノという事か。
この微笑みは恋人として演じているって事だな。
いいだろう、それはそれで面白い。俺も付き合ってやろう。
あとでブロッサムにネタばらししたら大爆笑だな。
俺は歩きながらルエルの腰に手を回し、体ごと引き寄せる。
ルエルも俺の顔を見て微笑み、俺に抱き着いてくる。
お、さすがルエルさん。無言で意思疎通できてるね。
この状態をブロッサムが見て、あとでネタばらししたら笑える。
ルエルも人が悪いなー。ドッキリ番組みたいで、ちょっと楽しい。
そのままブロッサムの後ろを歩いて、ギルドから出る。
カラン コローン
外に出ると少し暑くなっている。気温が高くなったのか。
今日は暑くなりそうだな。
「小僧。何をしている?」
俺ルエルはお互いに抱き着きながら歩いている。はたから見たらいちゃこらカップルで爆ぜろ状態だ。
「いや、今から軽くデートなんだ。でも、ものすごい急いでいるから」
「……。デートの為に急いでいたのか?」
いいえ。借金返済のためにかなり急いでいます!
「ええ、今からちょっとだけデートなの。私、デートって初めて。楽しみだわ」
「じゃ、行こうかルエル」
ブロッサムの拳がプルプルしている。肩も少し震えている。
「小僧。俺はルエルちゃんが子供のころから知っている。正直惚れてた! 悔しいが潔く身を引こう。 だが! だがしかーし! ちょっとでもルエルちゃんを悲しませてみろ! 凄いことがおきるぜ!」
ルエルがびっくり顔になっている。予想範囲外の事が起きたのだろう。
俺もそうだ。びっくりだ。こんな人が多い通りで『惚れてた!』とか俺には無理だ。
流石だギルド長。あんたってやつは……。
「ああ、ルエルは俺が幸せにしてやるさ。心配するな」
「ブロッサム、ありがとう。でも、私いま幸せよ。あなたも幸せにね」
ルエル、それ以上えぐらないで。惚れてた女に言われたくない言葉なのよ。
「じゃあな」
肩をやや落としながら帰っていくブロッサム。背中が寂しいぜ。
しかし、あとでネタばらしできないような状況になってしまった。
まさか、ブロッサムが本音を叫ぶとは夢にも思わなかったな……。
まぁ、いいか! ブロッサムだし。気にするだけ無駄だろう。
きっと後で笑ってくれるさ。多分。
「さて、ルエル。いつまでくっついているんだ?」
「え? 帰るまでよ?」
あっさりと返事をするルエルさん。
えっと、この状態で街中歩くのですか? まぁ、確かにルエルと一緒に歩くのは悪くないんだけど、ちょっと恥ずかしいな……。
「さ、行きましょう。時間がないのでしょ? でも帰るまでは腕を組んで歩いてもいいわよね?」
「ああ、問題ない。早く帰ろうか。あと、どこか行きたい所はあるか?」
ルエルは人差し指を顎に当て、目線を斜め上に上げながら何か考えている。
「一か所あるわ。ちょっとだけ時間かかってもいいかしら? そんなに長くはかからないわ」
「分かった。じゃぁ、そこまで行こう。案内してくれるか?」
「もちろん。こっちよ」
ルエルと腕を組みながら歩く。歩く度にボインボインがあたる。
ああ、俺の理性よ持ってくれ。ガリガリ精神力が削られているが、何とか帰るまでは……。
そんな事気にもしていないと思われるルエルは、少しはしゃぎながら俺に街の案内をしてくれる。
果物店、金物店、雑貨店、宿屋などなど。この街にはたくさんの店と住人がいる。
俺と愛は異世界人。本来ならここに居ない人物だ。
やはり帰らないとな。この世界も、俺のいた世界も本来の姿に戻さなければ。




