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第113話 ~狼男と胸筋~


 後ろを振り返ると大きな狼男がいた。俺の身長は百七十八センチあるが、ゆうに頭一個分大きい。

二メーター位はあるんじゃないか。しかし、どこかで見たような気が……。


「なんだ? そんなすっとぼけた顔して。 俺がわからないのか?」


 俺に狼男の知り合いなんていない。何より、この世界で知り合いと呼べる人はほぼ皆無だ。

なぜに俺に声をかける? 人違いか?


「すまない。あなたはどちら様で? 俺の事を知っているのか?」


 狼男は少し肩を落したようだ。がっくりしている。

ルエルの方を見ると少し怒っている表情だ。


「本当にわからないのか? つい先日会ったばかりだろ?」


 こいつは何を言っているのだろうか? 俺はこの世界に来たばかりだ。

きっとこの狼男の勘違いだろう。


「すまない。人違いじゃないか?」

「ユーキ。本当にわからない? 店に取り立てに着たギーンよ」

「ルエルは覚えているようだな」


 思い出した! そうだ、取り立て屋だ!

あの時は色々とあって、まったく思い出せなかった!


「悪かった。それで、なんのようだ?」

「おいおい、そんな言い方していいのか? まだ借金は返済終わっていないんだろ?」

「そうね、終わってないわね」


 ギーンは、ニヤニヤしながらこっちを見ている。

ルエルも俺から離れ、一歩前に出る。


「まだ期日前よ。必ず返すから店には来ないでね」

「わかってる。返済時は絶対に俺を通せよ。ギルドに直接返済されると俺の回収ポイントが減るからな」


 なるほど。返済を渋っている客から回収してくるとポイントになるのか。


「分かったわよ。そのかわり私達の邪魔はしないでね」

「へっ、わーってるって。期日は明日だ。明日の日が落ちる時には店に行くから、準備しておけよ」


 は? 明日? 今、明日って言ったか?


「ちょ、ちょっと待て! 借金の返済期日って明日なのか?」

「そうよ。明日までに百万ジェニ。 何とかするわ」

「じゃぁ、頑張れよ。明日、回収に行くからな」


 とんでもないことを言い残し、ギーンは去って行った。

とんでもーない。明日? 明日までに百万ジェニ? 無理ゲーじゃないか?


 再びルエルは俺の腕を組み、歩き始める。


「ごめんなさい。期日、話していなかったわよね?」


 その通りだ。まったく時間に猶予が無くなった。

何故もっと早く言わない。対策の施しようがないじゃないか。

またっり、ゆったりしている場合じゃないぞ。


「何故もっと早く言わない?」


 ちょっときつめに言う。ルエルの店とルエル本人がかかっている。

奴隷になるなんて絶対に避けなければならない。


「絶対に間に合わないって思ったの。だったら、その時間を思う存分自分の為に使いたかった」


 わからんでもない。でも、あきらめるな! あきらめたらそこでゲーム終了だろ?

どこかで聞いたようなセリフが頭をよぎる。


「ルエル。金儲けが好きか?」

「私は、普通の生活ができればいいわ」

「余裕は欲しいよな?」

「少しわね」

「俺が何とかしてやる。絶対にあきらめるな!」


 今までルエルに引かれていた腕を掴み、俺は走って商人ギルドに向かう。



「仕入れがしたい!」


 受付のミンミンに話しかける。


「び、びっくりした! いらっしゃいませ。えっと、ユーキさんとルエルさんですね」

「ああ、急いで仕入れをしたい。はい、ギルカ。二階に行ってもいいか?」


 ささっとミンミンにギルカを渡す。

ルエルもギルカをミンミンに渡す。早く! 早く受付して―!


「えっと、少々お待ちください。」

「悪い。急いでいる。 先に二階に行く。ギルカは預かっておいてくれ」

「ちょ! あと少しで終わりますから!」


 そんな声を後ろで聞きながらルエルの手を握り階段を駆け上がる。

即金だ。早く現金化できる商品を探す。


 仕入れ品が並んでいる部屋に入り物色する。

何が売れる? どれだったら早く現金化できる?


 俺があわてて物色しているとルエルが何かアイテムを持ってきた。


「ねぇ、これは仕入れてもいいわよね?」


 ルエルの手にはクシが握られている。

あ、このコームは……。商品化されたんだな。ちょっと嬉しいな。


「ああ、仕入れる。何本ある?」

「ここには五十本あるわ」


 一本一万ジェニで売るとしても五十万。足りない。

他に何か、売れそうなものは無いか……。


「全部だ。そのコームは今日中に全部売る。他に何かないか?」


 ルエルも一緒に物色するが、目新しいものは無い。

昨日来た時と同じようなレパートリーだ。

売れるかわからないものを仕入れるのは危険だな。

今は極力経費を削りたい。


「コームだけ買って帰ろう」

「他はいいの? せっかくだから何か仕入れましょうよ?」

「今はいい。即現金化できるアイテムに絞る」


 コームをかごに入れ、受付に戻る。


「ミンミン! これ全部! 支払いはギルカで」

「い、急いでいますね。何かあったのでしょうか?」

「説明は今度ゆっくりする!」

「わ、わかりました。ドリンク券は?」

「それも今度!」


 会計を終わらせ、急いで帰ろうとする。


「ユーキ、そんなに慌て無くてもいいんじゃ?」

「慌てるわ! 明日だぞ! 明日までに何とかしないと!」


 ギルドの扉を開け、飛び出ようとした時、誰かの胸筋に顔をうずめる。

あふっ。だ、誰だ! この急いでいる時に!


「なんだ、また会ったな」

「あら、ブロッサム今日も元気そうね」

「今日からコームが市場に出るぞ。早く市場に出てよかったな」

「ああ、さっき仕入れたところだ。じゃぁ、俺達急いでいるから」


 俺はブロッサムの横を抜けようとしたが止められてしまった。


「そんなに急ぐな。ルエルちゃんに話がある」

「えっと、長くなるか?」

「直ぐに終わる。少しだけ時間いいか?」

「本当に手短に頼むぞ」

「ユーキ、いいから落ち着きなさい。さっきから変よ?」


 ルエルが俺の腕に絡みつき、俺の思考を(おろそ)かにする。

あ、それは反則だよ。す、少しだけならいいかな?

ブロッサムの頭に少しだけ青筋が見えたのは見なかったことにしよう。


「ごほんっ! まぁ、こっちに来て座れ」


 ブロッサムに案内されテーブル席に着く。

早く早く! 話ってなんだ?


「まぁ、その何だ。二人の関係って……」

「そんな話か! 本当にその話なのか!」


 俺はややキレ気味に話してしまう。


「あ、すまない。本題は全く違う。コームの販売料についてだ」


 そういえば、初回の支払いとは別に販売した分だけルエルに収入があるって話していたな。

すっかり忘れていた。


「今日から販売なんでしょ? まだそんなに市場には出てないのでは?」

「いや、それがな原価が安いものだからギルドに相当数卸したんだが、全商人ギルドで完売したそうだ」


 おー! それはすごい。いい事じゃないか。

ん? 俺達が仕入れたコーム以外にももっとあったって事か?


「ちなみにこのギルドにはどの位の本数を卸したのか分かるか?」

「よくぞ聞いてくれた小僧! このギルドには三百本卸した!」

「え? 俺達さっき仕入れたが五十本しかなかったぞ?」

「そうね、残りは先に買われてしまったって事かしら?」

「そうだな! 他の商人が買っていったのだろう。なんせ今までにないくらい安い魔道具だしな!」


 し、失敗した! フィルの店に行くよりも先にこっちに来るべきだった!

先を越された! どこのどいつんだー、先に買って行ったのは!


「先を越されたのであればしょうがない。俺達は仕入れたアイテムで何とかする」



 まずい、先を越されたって事はこの地区でも同じアイテムが販売されるって事だ。

何とか先に売らないと、こっちのアイテムが残ってしまう。時間がない!


 どうする? どうすれば・・・


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