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第111話 ~正妻とアイコンタクト~


いったい何回目だろうか。ルエル、イリッシュ、フィル。そしてサーニア。

色々と問題はあるかもしれないが、俺の方から求婚した形になっている。


 この世界は様々な人種がおり、それぞれのルールや形式、掟などがあるらしい。

日本では役所に紙を一枚書いて提出すると結婚したことになる。

この世界のルールはまだわからないが、各種族によって異なっている事は確かだ。


 現に俺は四人に求婚してしまっている。

この世界の住人はきっとすべての種族の求婚方法を熟知しているに違いない。

そうでなければ気が付いたら求婚してしまっている人たちがわんさかいる。


 愛とイリッシュの目線がこ怖い。サーニアはドヤ顔で座っている。

まぁ、サーニアも今の状況は分かっていないんだろうな。

とりあえず簡単に説明だけしてみるか……。


「模擬戦中に俺はサーニアの首を絞めた。サーニアも俺の首を絞めた。その行為が求婚になるらしい」


 さすがの愛も今回は口を半開きにしている。

イシッリュは知っていたのか、知らないのかわからないが、大きく深いため息をついている。



 突然、腕の中にいたルエルが俺に全体重を預けてきた。

おいおい、そんなに焦るなって。みんなが見ているじゃないか。

ちょっと恥ずかしいぞ。イリッシュはこっちを見て何か言いたそうな表情だ。


 ルエルがどんな表情をしているのか気になり、俺はルエルの顔に目線を移動させる。



――ルエルは息をしていない!


なぜかって? 俺の手で口と鼻をふさがれているからだ。

な、なんだと! 道理で静かだと思った!



「ル、ルエルが息をしていない! 大丈夫かっ! しっかりしろ! 誰だこんなことする奴は!」



 軽いボケをかましながら、ルエルをその場に寝かせ、首の脈を確認する。

脈はある。えっと、この場合どうすればいいんだっけ? 心臓マッサージ?


「お、お兄ぃ! 気が動転したからって何しているの!」

「ユーキ兄! は、早く!」


 ぐったり倒れているルエルはまるで眠り姫のようだ。

俺は少し動揺しながら心臓マッサージの為、ルエルの服を脱がそうとする。


「ユウ。何しているのかしら? 遊んでるの?」

「遊ぶか! こっちは大まじめだ!」


 サーニアは席を立ち、こちらに向かってくる。


「お嬢ちゃん達、これから何があっても、私に対して好戦的にならないでね」


 サーニアはルエルの頭の方に回り、わきの下に腕を入れ持ち上げる。

中腰の状態でサーニアは片膝をつき、もう片方の膝でルエルの背中を押しだす。


「はぁっっ!」


 ルエルの腰が若干浮き、両目が開いた。


「かはっ! こ、ここは店内?」


息を吹き返したルエルは少し涙目になりながらはぁはぁ肩で息をしている。

キョロキョロして辺りを見わたして、状況を確認しているみたいだ。


「ル、ルエル。大丈夫か?」

「ユ、ユーキ……。私、川を見たの。沢山の人がいたんだけど、変な服着た女性の人に『帰れ!』って怒られちゃった」


 ルエルは少しトリップしていたようだ。見た感じどこに異常はなさそうだな、良かった!

 

「ルエルちゃん、でいいのかな? どこか痛いところない?」


 サーニアはルエルに声をかける。多分ルエルより年上だな。

ルエルが『ちゃん』をつけられてる。ちょっと可愛いかも。


「だ、大丈夫です。助かりました。ユーキの手で逝くところでした」

「ユウのテクニックはなかなかのものね。私も体験したわ」


 ルエルとサーニアは少しだけ打ち解けたように、いがみ合いも、にらみ合いもなく話している。

ちょっと離れたところから愛とイリッシュの二人はサーニアを(にら)んだままだ。


「ま、そんなわけでユウは私がもらうことになったの。その挨拶もしておくわね」


 だから!

その挑発的な話し方やめて!

さっきもそうだし、もっと和やかに行こうよ!


「残念ね。ユーキはすでに売約済みよ」

「あら? 先約がいたのね。 でも、この世界は重婚可能でしょ? 私が正妻でいいわよ」



 ピキッ!



 あ、何かに亀裂が入った。正妻という言葉はこの場において禁句(タブー)じゃないか?

そもそも、俺この世界で結婚できないよ? 多分。


「はい。すとーっぷ。ここで終わり。これ以上続けるのは無し!」


 俺は全員を止めに入る。これ以上この場を混乱させても大変だ。

早く仕入れに行きたいんだよ俺は!


「お兄ぃ、結婚するの?」


 やめと言ったのに続けるのかいっ! まぁ、みんな気になる所なのか?


「俺だっていつか結婚する! でも、誰といつするかなんて決まってない! そもそも俺はこの世界の人間じゃないから、この世界では結婚できないんじゃないか?」


 沈黙の時間が流れる……。ちょっとっ遠くの方からはカーンカーンと甲高い音が聞こえてきた。

フィルが打ち始めた音だな。いい音色だ。


「やっぱりユウはこのこの世界の人間じゃないのね。血の味でそんな気がしていたわ」

「安心して。ユーキはこの世界でも結婚できるわ。ギルカがあり、家もある。身分証明できるわね」


 え? そんな簡単に?

イリッシュの方に目を向け、アイコンタクトで情報を渡す。受け取ってくれるか!


「えっと、この世界ではギルドカードと宿屋以外の家に住んでいる者であれば身分証明が可能で、国に申請すれば正式にこの国の国民になれます。国民になれば結婚もでき、重婚も可能ですね」


 さすがイリッシュ! 俺の心を読んでくれた。ありがとう!


「お、お兄ぃはこの世界の住人になっちゃうの?」

「必要があればなるが、必要無ければ住人になる必要もない。今は必要と感じないぞ」

「そっか。もし、住人になる時は教えてね。私も申請したいから」


 愛がそんな事を言う。俺と一緒に申請したいそうだ。

まぁ、その確率は限りなく低いがな。


「ユウはまだ国民じゃないのね。じゃぁ、しばらくお預けかしら……」

「そのようね。ユーキはこの店の。私の店で一緒に暮らしているの。この意味、サーニアさんならわかるわよね?」


 ルエルからサーニアへの宣戦布告だ。

サーニアからフィルへも宣戦布告がされている。

そろそろ図説しないとわからなくなってくるんじゃないか?


「はい。終わり! という事で、俺はまだ結婚しない。住人にもまだならない。その件についてはまた今度だ」

「そう、残念だわ。じゃぁ、これ渡しておくわね。ユウの忘れものよ」


 サーニアは一本の短剣を俺に渡す。模擬戦の時に使った切り裂きの短剣だ。

バックに入れ忘れたのか。


「ありがとう、すっかり忘れていたよ」

「この武器はあまり使わない方がいいと思うわ。特に女性に対してはね

「ああ。考えておく。 ボムおじさんによろしくな」


 サーニアはそのまま背をむけ立ち去っていく。

去り際に髪がふわっと、俺の顔を横切っていく。

いい香りがする。何のにおいだろう? 花のようないい匂いだ。


「また会いにくるわね」

去り際に投げキッスをしてくる。もっとおしとやかな性格ならいいのに……。



カランコローン



 嵐が過ぎ去って行った。今朝は朝から色々とある。

は、早くギルドに行かないと……。



「ル、ルエル行けるか?」

「ええ、ユーキに逝かされそうになったけどね」


 さすがに口と鼻を押さえられて、呼吸できなくなったら逝くよね?


「すまん。俺が全面的に悪い。まさか鼻までふさいでるとわ思わなかった」


 ルエルは少しニヤつきながら俺の方を見る。

イリッシュも愛も、ルエルの事が心配でそばに来ている。


「ユーキへのお願い事は、ギルドに行く途中ですることにしたわ」


 おっと、そうきたか。


「ああ、わかった。俺にできる範囲でな」


 ルエルはすっと立ち上がり、スカートを払う。

服装に乱れがないか確認し、一回転する。


「じゃぁ、今度こそ。二人とも留守番お願いね」

「わかりました。無理しないでくださいね」

「お兄ぃ、余計な事しないでね!」

「分かった、肝に銘じておくよ。フィルのサポートもよろしくな」


 こうしてやっと、ルエルとギルドに出かけられる。


 目的地は商人ギルド。コームの仕入れができるようになっているはず。急げ!



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