第109話 ~設計図と招かざる者~
フィルと一緒に工房で試作品を作る。図面を広げ、一緒に見る。
昨夜実験した魔石と、これから作る試作品を合わせれば完成する。
恐らく問題ないはずだ。
「……ユーキ。これはなに?」
「完成してからのお楽しみ。試作品もそうだけど、この世界の女性が使う武器ってなんだ?」
「……その人による。ただ大型な武器や重い武器はなかなか売れない」
女性は軽く、小回りの利く武器が多いのか。どのファンタジー小説でも一般的にはそうだな。
ルエルの店に置く武器は、可愛く丈夫で、安心できる武器がいい。
「フィルは武器外に何が作れるんだ?」
「……要望あれば何でも。設計図と素材があれば大体の物は作れると思う」
さすがボムおじさんの娘。心強い返事だ。これだったら売れる可愛い武器やアクセもいけそうだ。
「昨夜色々と考えてみた。この図面をパッと見た感じで難しいアイテムはあるか?」
フィルは俺の作図した紙を眺める。
武器や装飾品、生活雑貨っぽいものなど色々だ。
わかりやすく絵や図を中心に描いている。
「……大体大丈夫。素材は何を使う?」
「任せる。フィルのイメージでいい」
「……わかった。この量だと時間はかかる。昼まで時間が欲しい」
「そんな短時間でできるのか?」
「……父さんはもっと早い。ボクはまだ半人前」
フィルは少し肩を落としながら図面を見ている。
初めて見る形が多いのか、何かイメージしているのか。
「そんな事無い。この量を昼までに作れるのであれば十分一人前だと思うぞ」
「……。頑張ってみる。何点か確認をしておきたい。ここは……」
「ああ、ここは筒状になっていて、中が……」
フィルはいくつか質問をしてきた。各アイテムの不明点なところだ。
色の指定はあるかとか、具体的な使い方とか、仕組みの説明とかだ。
一通り説明をするとフィルの目に輝きが出てきた。
頭に黒のタオルを巻き、袖をまくる。そして、軽く準備運動をして入いる。
「……以前言っていたナイフとフォークは作るの?」
あ、すっかり忘れていた。えっと、あのナイフとフォークの件だよね?
「そ、それは今度俺と一緒に作ろう。今は商品を優先したいな」
「……わかった。それは今度一緒に作る。ユーキへのお願い、今ここで話していい?」
昨夜起きた事件。俺はみんなのお願いを聞くことになっている。
この状況でお願いごとか。少し時間もあるから大丈夫かな?
「分かった。お願いを聞こう。俺にできる範囲で頼むぞ」
フィルは俺の目の前まで来て、腰にまとわりついてきた。
「……ルーとはお揃いのイヤーフック。アイとイシッリュとはお揃いの腕輪。ボクもお揃いが欲しい」
そうか、フィルだけ俺とお揃いのアイテムがない。
それはそれでちょっとかわいそうな事をしてしまった。深く反省しよう。
「分かった。どんなお揃いのアイテムがいい? フィルの好きなものでいいぞ」
「……ネックレス。ボクとお揃いで、この魔石を入れたい」
フィルの手には魔石がある。淡い水色でとても綺麗なカットがされた魔石だ。
「この魔石は?」
「……以前父さんからもらった。対の魔石で魔力を込めると、もう一つの魔石の場所が大体わかる」
「いいのか? 大切な魔石じゃないのか?」
「……いい。この魔石を使ってユーキとお揃いを作りたい」
「分かった。かっこいいデザインにしてくれよな」
「……頑張る」
フィルはニヤニヤしながら俺に抱き着いてぐりぐりしてくる。
工房は暑い。さっき取り出した素材もまだまだ冷めていなく、暑さが増してくる。
「……そろそろ作業に入る。ここからはボクの仕事。任せてほしい」
「ああ、任せる。無理はするなよ」
コクリとうなずき、フィルは作業に入る。
トロトロに溶けている素材を型に流し込む。俺は邪魔にならないように後ろの方で見ている。
真剣な眼差しで仕事に打ち込む姿はとても美しい。
俺もフィルを見習い、頑張ろう。
「俺は店に戻る。何かあったら来てくれ。あ、ちょっとだけルエルとギルドに出かけてくるな」
「……集中したい。話しかけないでほしい」
「す、すまん。じゃぁ、また後でな」
こ、怖いな。邪魔して悪かった。フィルは職人気質だな。
俺は静かに戸を開け、工房を後にする。
倉庫の裏口を開け、中に入る。中は暗い。
この倉庫から異世界生活が始まった。ルエルと初めて会ったのもこの倉庫だ。
異世界に飛んできた愛と会ったのもここだな。
ルエル父のレポートだと、異世界からの出口はこの倉庫のようだ。
きっと、この倉庫も調べれば何かヒントがあるはず。
後で、時間を見つけてじっくり、しっとり、ネットリ、隅々まで調べてみよう。
倉庫から廊下に出て店に戻る。
店には三人そろっていた。お客様もみんな帰ったようだ。
「お帰りなさい。作業は進んでいる?」
ルエルが声をかけてきた。
「ああ、順調だ。ルエル、そろそろ特許ギルと商人ギルドに行こうと思うんだが、行けるか?」
「私はすぐに行けるわよ。二人とも、店番頼んでいいかしら?」
試作品を作っているイリッシュと愛にルエルが声をかける。
ミシンを使ってぬいぬいしているイリッシュも真剣な眼差しだ。
隣で愛も何かしている。邪魔になってないといいんだけど……。
「ユーキ兄、お帰りなさい。私は大丈夫ですよ。まだ試作品完成していないので、作業を続けますね」
「お兄ぃは一人でパタパタしてるね。少しは休んだら?」
「そうも言っていられない。商売は毎日が勝負だ」
「あ、そう。あまり無理しないでね」
愛は少しさみしそうに言ってくる。心配されているのかな?
でも、稼ぎが必要なんですよ! 働かざる者食うべからず。
いつまでもルエルに世話になるわけにはいかないしな。
「よし、ルエル行こうか」
「ええ、わかったわ」
二人で店から出ようとした時、お客さんが一人入ってくる。
カランコローーン
「いらっしゃいませ」
ルエルが挨拶をすると、入店したお客様はそのまま俺の目の前に来る。
隣にいたルエルは無視して俺の目を真っ直ぐに見て近寄ってきた。
ルエルやイリッシュ、愛の目線は全てこの女性に向けられている。
そして入店してきた少女はみんなの前で抱きついてきた……。
ガタン!
後ろの方で何かが倒れる音がした。
何の音だ?




