第010話 ~転移の原因とポニーテール~
「アイ、服を用意するから一緒に来て」
ルエルは愛に話しかけ、扉を出ようとしている。
「お兄ぃは向こうを向いていて!絶対にこっちを向かない事!」
愛はルエルの後を追うように一緒に出ていく。
しかし、あれだな。いつまでも子供と思っていたが、大きくなりやがって。
すぐにグーパンをする癖を直さないと、彼氏の一人でもできないな。
俺は、何故愛がこの世界に来たのかを考える。
さっきまで、ドタバタしていたが都合がいい事に今は一人だ。
父さんから送られてきた錠前とキーが原因なのはなんとなくわかる。
恐らくあれが異世界に繋がった原因だ。
異世界転移物の小説を良く読んでいたが、まさか自分が転移するとは夢にも思わなかった。
小説の中ではよくチート能力があり、結果的にウハウハのストーリーが多い。
しかし、現実問題、俺は転移初日から命を落としそうになった。
俺一人ならともかく、愛も転移してしまっている。
せめて、愛一人だけでも元の世界に帰してやらなければ。
たった一人の妹を危険にさらすわけにはいかない。
一人残され、部屋を物色する。元の世界に戻るヒントはないか・・・
床にはさっきルエルが投げつけたナイフが落ちている。
念のため護身用に持っておくか。そのまま持つと危ないな。何かくるむものはないかな?
お、あったあった、この布でナイフを巻きつけておくか。これで安全に持ち運べるね!
ん?壁にもナイフが刺さってる。危ないな、この勢いで俺に投げつけてきたのか。
そのまま俺に刺さってたら重症ものだ。落ちたら危ないから、抜いておくか。
壁に近づき、ナイフを抜く。
すると、隣の部屋から声が聞こえてきた。壁が薄いな、丸聞こえじゃないか!
しかも、穴まで開いてる!どうする!?
『コマンド どうする?』
1、見ない
2、妹が心配なので、仕方なく観察する。決して邪な気持ちではない
っふ、仕方ない。妹に万が一、何かあったら大変だしね。
「ルエルさん、申し訳ないんだけど、服ってこんな感じの服しかないの?」
「そうね、この服がこっちの世界じゃ一般的なの。貴族であればドレスになるんだけど・・・」
「そう、えっと、下着もこれしかないんだよね?」
「そうね、これしかないわ。いらないなら履かなくてもいいわよ?」
「そんなこと無い!履きます!でも、これって、両サイドが紐になってるよ?布部分も小さいし・・・。あと、ブラってあるの?」
「ブラ?それは何かしら?」
「やっぱりないのか。簡単に言うと、胸を保護する下着なんだけど」
「胸を保護?ここにはないけど、プレートメイルって言う胸当て用防具ならあるわよ」
「いや、防具じゃなくて・・・。えーっと、言い方が悪かったかな。服の下に着る、薄い布でできた服は?」
「うーん、薄い布ね。それだったらあるわよ」
二人の会話は何となくかみ合ってない。生活スタイルはもちろん、世界も違うんだ。こっちの世界に日本と同じ物があるとは限らない。
俺だってボクサーパンツが欲しいが、この世界にはきっと無い。さっきルエルに借りた下着だってそうだ。
トランクスみたいな短パンに、紐がついていて、腰部分で結ぶ。恐らくこの世界に『ゴム』が無いんだな。
ルエルは薄い生地でできたタンクトップのような服を愛に渡す。
「それでいい!ありがとう!それも貸して!」
「はい。じゃぁ、これで大丈夫かしら?私のサイズの服なので、ちょっとサイズが合わないかもしれないけど、ごめんね」
「そんなこと無い!ありがとう!ぴったりだよ!」
「もしあったらでいいんだけど、シュシュある?」
「シュシュ?それは?どんなものかしら?」
「えっと、髪をまとめて結ぶゴムっぽいものなんだけど」
「髪をまとめたいのね。それだったら、この細めの布でいいかしら?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
愛はいつものようにポニーテールにして、髪をアップにする。
うん。いつもの愛らしい。
着替え終わった愛を見ると、ルエルと同じようなワンピースっぽい服を着ている。
胸部分は若干ブカブカ。丈も足元まで来ている。
総合的に判断すると、ルエルの方がナイススタイル! ということだ。
愛、頑張れ!愛はまだ成長途上だ!
「じゃぁ、戻ろうかしら。いつまでも倉庫に一人にさせておくと危険だわ」
「え?危険なの?この世界って家の中も危険なの?」
「そういう意味で危険なわけではないわ。倉庫には私の服とか下着とかもあるから、ユーキが色々と漁り始めてるかも」
「お兄ぃはそんな事しないよ!ルエルはお兄ぃをどんな目で見てるの!?」
「こんな目よ」
ルエルの目は冷たい。まるで虫けらを見下すような凍りついた目線だ。
そして、その目線は俺の方を見ている!
ま、まさか気が付かれたか!
俺は、何事もなかったように壁から遠ざかる。
部屋の中央に移動し胡坐を書いて、座禅を組む。
無の心だ。
これから何か起きるかもしれないが、あと数十秒で悟りを開かなければ、俺の命が危ない。
ガチャ 扉が開き二人が戻って来る。
「お兄ぃ、お待たせ。何しているの、それ?」
「ユーキ。何か話す事はあるかしら?それが、最後の言葉になるかもしれないわ」
俺はゆっくりと目を開き無表情で話しかける
「我、このナイフで切腹いたす。我は過ちを犯した」
「お、お兄ぃ。突然何を言ってるの!?何があったの!?」
「あら、察しがいいわね。その過ちは決して許されるものではないわ」
「愛を。愛を守るためだったんだ!」
「言い訳はしない。で、切腹するの?しないの?」
「ちょっと待った!切腹なし!NOー切腹!こんなところに私一人にしないでよ!」
「だそうよ、お兄さん。どうするの?」
「償う。いつか許される日が来るまで、償っていこう」
「当たり前ね。私自身には被害ないけど、しっかりと償ってもらうわ。あと、金貨20枚もね」
「え?増えてないか?金貨10枚だろ?」
「何を言ってるの?さっきアイにも指輪、売ったじゃない」
なにぃぃぃ!この商売上手め!
確かに俺が「もう一つあるか?」とか聞いたけどさ!
この状況で借金増えてしまった!
「さ、2人とも少し向こうで話をしましょう。もう、日が落ちかけているわ」
倉庫部屋を後に、俺たちはさっきまでいたテーブル席に移動し始めた。
この後、さらなる大惨事が勇樹に襲い掛かるとは、誰も考えていなかった・・・
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