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閑話 ~ポニーとグーパンの理由~



 私のお兄ぃはかっこいい。いつでも私を助けに来てくれるヒーローだ。

子供の頃、女の子が変身して悪者をやっつけるアニメを一緒に良く見ていた。

お兄ぃは『女の子はやっぱり髪が長い方が可愛いよな!』とか言っていた。


 それから私は髪を伸ばした。お母さんは短い方が似合うし、洗うのも楽だからショートカットのままでいいのではとよく言われていた。

それでも、私には髪を長くする理由がある。お兄ぃに気に入ってもらいたい。可愛いって言ってもらいたい。


 他の誰でもなく、お兄ぃに言ってほしい。


 髪を長くしてからしばらく経ち、クラスの男子にイジメられた。

私がロングだと女らしいからと。近所の公園で髪を引っ張られる。

まだ小学生の私は怖かった、されるがままだった。


 でも、お兄ぃが助けに来てくれた。私をイジメていた男の子をやっつけてくれた。

『俺の妹に手を出すんじゃねーよ!』いじめっ子は逃げていった。

お兄ぃ、ありがとう。お兄ぃはやっぱり私のヒーローだよ。


『愛は弱いんだから、何かあったら俺のところまで逃げるんだぞ。俺が守ってやるから』


 嬉しかった。まだ子供だったけど、本当に嬉しかった。


 お兄ぃに守ってもらえるのは嬉しい。お兄は強い。格闘技を習っている。

普段は喧嘩とかしないけど、私の為にだけ力を使ってくれる。

本当はダメなんだけど、それでもお兄ぃは全力で守ってくれる。


 私は弱い。だからお兄ぃに守られる。迷惑をかける。嬉しいけど、今はそう。


 だから私も自分を自分で守れるように。お兄ぃに迷惑をかけないように。

お兄ぃの隣に立てるように。お兄ぃを守れるように。


 私も強くならないといけない。


 家族は反対しなかった。私も格闘技を習う。初めは大変だった。

お母さんは格闘技するのであれば髪を切ったらと何度も勧めてきた。

でも、私は切らない。このままでいい。いや、このままじゃなければいけない。


 だいぶ長くなった。後ろでバサバサして、風が吹くと大変。

髪をまとめた。色々試したが、ポニーテールがしっくりくる。


『お、今日はポニーテールか? 愛に良く似合っていて可愛いな』


 お兄ぃ、ありがとう。言葉では上手く言えないけど、心では大はしゃぎだよ。

お風呂の時間も、髪を乾かす時間もかかるけど、それでいい。

たまにお兄ぃが乾かしてくれる。お風呂上りは決まって家族でリビングにいた。

お兄ぃ私の後ろに立って、くしを使いながらか乾かしてくれる。

至福の時だ。とても気持ちがいい。

ショートの時は自分で乾かしていたが、ロングの時はお兄ぃが高確率で乾かしてくれる。

この時間がずっと続けばいいと思った。


 お兄ぃが高校に進学した。結構有名なところらしい。

お兄ぃいわく、校風があっていると。自分のしたいことができるみたい。

出来れば同じ学校に行きたい。でも、私はあまり勉強が得意ではない。

中学二年の時、私は進路を決めた。今のままでは難しい。

必死に勉強した。自分の為に。友達も沢山いたけど、私はお兄ぃを選んだ。


 ある日、お兄ぃはヘルメットを持ってきた。

お父さんを説得して免許を取り、バイクを買ってもらったらしい。

バイト代から毎月支払う事と、店を一人で回せるようになる事が条件だったみたい。

お兄ぃは学校の勉強も店の事もしっかりとしている。私ももっと頑張らないと。


 しばらくたってバイクの後ろに乗せてもらえた。

風が気持ちい。この時間と空間は私とお兄ぃ、二人の物。

ちょっと嬉しかった。この席はずっと私の指定席にしたい。

独占欲が強いのかな? でも誰にも譲りたくない。


 私の気持ちはお兄ぃに伝わっているのか?

知られたくない。でも、知ってほしい。心がもやもやする。


 お兄ぃは高校から習い事をすべてやめてしまった。

学校と店と時間が取れなくなったのもそうだけど、力は十分についたらしい。

どのくらいなのかな? 私と比べたらまだお兄ぃの方が強いのかな?

私はまだやめられない。一つの格闘技だけではまだ足りない。

師範と両親に相談しある程度マスターしたら他の格闘技も習う。


 きっといつかお兄ぃに追いつける。肩を並べる事も、お兄ぃを守る事もできるはず。

子供のころから自分に言い聞かせてきたことだ。


 私はあまり女の子っぽくない。見た目はそこそこだと思うが、内面がね。

何回か告白もされているがお兄ぃよりも素敵な人にはまだ会っていない。

きっと、この世界にはお兄ぃを超える人はいないだろう。

私の為に全力を出してくれる人はきっとお兄ぃだけだ。


 家族は知らないと思うが、私は一つ秘密を知っている。

両親はその秘密の内容を知っているが、お兄ぃは多分知らない。

きっと両親はいつか話してくれるだろう。

それまでは今のままでいい。いつか両親が話してくれると思う。


 それまで私は自分の為、お兄ぃの為に勉強して、強くなって、可愛くなる。

隣に立っていても大丈夫なように。

たまに喧嘩して、お兄ぃにグーパンするけど、これには訳がある。


 自分の強さとお兄ぃの強さの差を確認するためだ。


 まだ勝てない。あっさりと躱されたり、当たってもへらっとしている。

投げ飛ばしてもあっさりしている。絞め技をしても抜けられる。

まだまだ私は弱い。もっともっと強くならないと。


 だから私はグーパンをやめない。お兄ぃに勝てるまで。





 両親が突然旅行に行った。お兄ぃと二人で暮らすことになった。

高校に進学し、やっと落ち着けそうなのに。でも、チャンスだ。

この機会にお兄ぃにアピールできる。頑張れ自分。



――私は今異世界で接客をしている。


 お兄ぃを助けるために来たのに、私は役に立てない。

悔しい。でも、お兄ぃとちょっと距離を詰めることができた。


 世界は違うけど。私はお兄ぃと一緒にいる、

それだけで私は幸せだと思う。お兄ぃはどう思っているんだろう。

私はただの妹なの? それだけなの?


 きっと、お兄ぃは私だけでも元の世界に帰れるようにすると思う。

でもそれじゃ嫌だよ。一緒に、いつでも一緒にいてよ。

約束したよ。ずっと一緒にいるって。


 だから私は頑張る。お兄ぃの力になれるように。


 お兄ぃ。大好き。


 きっといつか、一緒に……



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