第106話 ~混血と結婚~
目の前には紐パン一枚のサーニア。
隣にはおばさんがいる。
い、痛い! 誰だ!
足元を見ると俺の足の上を、かかとでぐりぐりしている奴がいる。
「えーっと、フィル? 何しているのかな?」
「……着替えを凝視するのは良くない」
ふと、サーニアがこっちに気が付いたようで、顔を向けてくる。
どうやら傷や痕になるものは何も無いようで、こっちを見ても微笑んでいる。
「起きたのね。どう? 具合は悪くない?」
俺はサーニアの顔をちらっと見るだけで、すぐにそっぽを向く。
話したくないからじゃなく、恥ずかしいからだ。
「ああ、大丈夫だ。着替え中に入ってきて悪かったな。すぐに出ていく」
「あらあら、ユーキさん入ってきちゃったのね。ごめんなさいね、鍵かけ忘れたみたいね」
おばさんはあわてる訳でもなく、サーニアの服を準備しているようだ。
さっきまで着ていた服ではなく、明るいベージュ色をした服を準備している。
サーニアはおばさんの用意した服を着ると、くるっとその場で一回転した。
「ありがとうございます、おば様。大切にしますね」
「気にしないでおくれ。今日から早速仕事を教えていくからよろしく頼むわね」
「はい! 頑張りますね!」
サーニアは笑顔でおばさんに答える。仕事、見つかって良かったと言えば良かった。
だがしかし、魔族、吸血? 誘惑の仕草。どれをとっても危険だ……。
「……ユーキ、心配ない。父さんはきっと考えている」
まるで俺の心の中を見たかのようなセリフ。
考えなしに採用すると話思わないので、おじさんには何か考えがあるのだろ。
「それじゃぁ、私は店に戻るのでサーニアちゃん一段落したら来てね」
「分かりました。ユウと少し話をして、終わったらすぐに行きますね」
おばさんは、そのまま店の方に戻って行った。
「良かったな。仕事見つかって」
「ありがとう、素直に喜んでおくわね。首、痛くない?」
俺は絞められた首を片手でさする。特に違和感わない。
呼吸も普通だし、つばも飲める。声も普通だよね?
「フィルから見て俺に異常はあるか?」
「……ユーキは異常だが、怪我はない。さっき父さんと確認したから大丈夫」
「だそうだ。心配はいらない。今日から仕事なんだな、まぁ、頑張れ」
「早く仕事覚えないとね。ねぇ、ユウは結婚している?」
ボフゥ! 何を突然聞いてくるのかしらこのお嬢さんは……。
「しているように見えるか?」
「……ユーキはすぐに結婚する。サーニアは出る幕無い」
フィルが何かを警戒している。俺を守るかのように半歩前に出て、俺をかばってくれている。
やだ! フィルったらかっこいい!
「私はユウに聞いているの。私の種族はね、生死をかけてお互いに絞め合ったら一生を共にすることになってるの」
いーやーだー。この世界こんなのばっかり。その種族ごとのルール、やめないか?
絶対に勘違いしたり、たまたまだったり本意ではなく結婚している人たちが絶対にいるよ!
「……サーニア、何だそれは? 俺には全くワカラナーイ」
「模擬戦でお互いに首を絞め合ったでしょ?『死ぬまで一緒にいます』って意味よ。ユウが先に絞めたわよね?」
記憶があいまいだ。えっと、確かマウントポジションとられて、そうだ! 血を舐められたんだ!
「サーニア、なんで俺の血を舐めるんだ! もしかして吸血鬼か?」
「……サーニアは魔族だけど、ヴァンパイアとサキュバスのハーフ」
「なんでフィルがそんな事知っているんだ?」
「ユウが寝ている間に少し話をしていたのよ。どうせ隠しきれないしね」
確かに隠せないな。しっかりと魔法を解除して本来の姿になっていたし。
魔族同士でも混血児っているんだな。各種族で独立した生態系だと思っていたよ。
「ハーフだと何か変わるのか?」
「親の能力や力とか見た目とが、色々と影響を受けるわね。多分性格もそうなんじゃないかしら?」
「やっぱり生血が欲しいのか?」
俺は半歩下がり、何となく警戒する。フィルはまったく動かない。
むしろ、リラックスしていないか?
「別に欲しくないわね。飲みたくもないし。ただ、味は分かるわね、甘いとか苦いとか」
「俺の血はいらないな、吸わないな?」
「安心して、首筋を噛んだり舐めたりしないわ。ユウの血は変わった味がしておいしいけどね」
「是非、そうしてくれ。じゃぁ、俺は帰る」
フィルの腕を取り店に歩いて行こうとしたが、サーニアが俺の目の前を仁王立ちで止める。
少し怒った顔がちょっとかわいいかも……。
「で、ユウは結婚しているの? いないの?」
「してない。する予定もない。これでいいか?」
「いい返事をありがとう。 フィル、宣誓しておくわね。ユウは私がもらうわ」
「……好きにするといい。ユーキは心に決めた人がいる。簡単には落ちない」
なぁーにぃー! 俺ってそんな人いたのか! 誰だ? 自分でもわからないぞ!
誰だ? 誰だ? 誰だー? って、あとでフィルに聞いてみればいいか。
「そうだ、俺には心に決めた貴女がいる。あきらめてくれ……」
「じゃぁ、私がその心を奪うわ。どこかの大泥棒のようにね。私の人生をかけても奪ってみせる」
あーあ、結局こうなるのか! なんか、なるようになるしかなくなってきたな。
「ああ、勝手にしてくれ。俺は素材を買ったら帰る。フィル行くぞー」
「……あいあいさー」
サーニアを横目にその場を過ぎ去ろうとしたとき、サーニアは俺の頬にキスをする。
「なんだ、まだ血が欲しいのか?」
「今度ゆっくりね。私はしばらくここでお世話になるわ。また来てね」
「ああ、素材が必要になったら買いに来るよ。サービスしろよ」
そうするとサーニアは片手でスカートをスススと持ち上げ、太ももを露わにする。
もう一つの片手で胸の谷間を見せてくる。
「ユウはこの位のサービスでいいかしらね? もっと激しい方がお好み?」
「ああ。サービス満点だな」
俺は適当にあしらって店の方に行く。サーニアにかまっていたら時間がいくらあっても足りん。
「思ったより冷たいのね。時間はあるからじっくり攻めていくわね」
「ああ、がんばれー。フィル、素材を買いたいんだが」
「……店に母さんがいるから聞いてみる」
サーニアは少し身支度するらしく、部屋残るらしいので俺とフィルは先に店に行く。
ギィィィ
扉を開け、店内に入る。
店には多種多様の武器武具、何かのアイテムが所せましと並んでいる。
その一角にカウンターがあり、おばさんがいる。
「……母さん。素材を買いたい」
「あら、お話は終わったの? 素材ね? 父さん呼ぶからちょっと待ってね」
おばさんは手元にあったベルを鳴らす。
カランコローン
どこかで聞いたことのあるベル。
少し遠くからドドドドと音が聞こえてくる。
突然扉が開いた。
ガチャ!
「いらっしゃーい! 武器かね? 防具かね? それとも魔道具かい?」
マッスルボディに笑顔。そしてこの声。
うん、ボムオジさーん! って感じだ。
お客は俺だがな……。
「……父さん、素材が欲しい」
「なんだ! フィルとユーキ殿か! 早く言ってくれれば良かったのに!」
やっと、取引ができる。
偉く長かった気がする。三日位模擬戦していたんじゃないか?
早く買って帰ろう!




