第105話 ~血と勝敗~
反撃開始の為、俺はサーニアの股の下にいる。ここから攻撃を開始だ!
と、思ったらサーニアが俺の腹の上に座ってきた。
「ユウは戦闘のセンスがあまりないのかしら? こうなるってわかってなかった?」
俺はサーニアにマウントポジションを取られ、しかも両手はサーニアの膝で押さえられている。
あれ? 全く動けないのですが……。 幾ら腹筋を使ってもサーニアはびくともしない。
「これも作戦の内だ。それより、さっきから胸が見えているが恥ずかしくないのか?」
さっきからサーニアの胸がちらちらバインバインしている。
気になるのはこっちだけで、サーニアは気にも指定無いような気がするが……。
「あら? そろそろ何とかしようかしらね」
サーニアは片側に結んでいるスカート部の一部をナイフで切り取り、胸にあて、後ろで結んだ。
ちょっとした水着みたいだ。
しかし、さっきから後ろの方でユラユラしている尻尾が気になる!
「この試合に勝ったら、ここで働くのか?」
サーニアの両手から武器が地面に置かれ、その両手が俺の首元にゆっくりと近づく。
初めに頬をなでられ、首元を指でなぞられる。
「そうよ、普通に働いて、生活するの。休みの日は雑貨を見たり、他の地区を見に行ったりしたいわね。この傷痛む?」
サーニアは指で頬の血をふき取り、蜜を舐めるかのごとく、俺の血を真っ赤な舌で指ごと舐める。
少しトロンとした目になり、体を震わせる。少し息も荒くなって、ハァハァしている。
「なんだ? 様子が変だぞ?」
その途端、サーニアは俺の頬を両手で押さえ、頬を舐め始めた。
うーごーけーなーいー! 逃げたいが全く動けない。顔をがっちり固定され、腕もサーニアの膝で押さえられている。
完全に決まったマウントポジションからは逃げられない!
その間にも、蜜を舐めるかのように俺の頬に着いた血を舐めてくる。
おっふ。どさくさに紛れて首も軽くかまれた。血に飢えた野獣って感じがする。
少し離れたところでボムおじさんとフィルが何か話している。
「……父さん、ユーキは大丈夫?」
少し不安な声でフィルが話している。俺はこの状況でフィルの方を見る事はできないが、声は少し聞こえた。
「まだ大丈夫。いざとなったらわしが止めに入る」
「……サーニアは魔族。勝ったら雇うの?」
「雇う。魔族の事を知りたいしな。それにユーキ殿の目を見てみよ」
「……ユーキの目」
「真っ黒で腐った魚のような目をしているだろ? まだあきらめていない証拠だ!」
「……父さん、多分その表現は違うと思う」
俺は腐った魚の目なんかしてない!
まだ俺の頬を舐めているサーニアに対して、俺は腰を上に。両足を上に上げる。
そのまま両足でサーニアの首を絞める体制に入る。
「グェッ! ユウ、う、動けたの?」
首に俺の脚が巻き付き、サーニアの首を絞める。
手で首を絞めるより、腕で首を絞めるより、足で首を絞めた方が逝きやすくなる。
筋力が全く違うからな。確か腕の三倍だっけ足の筋力は。
サーニアは両手で俺の足を外そうともがき始めた。
「サーニアはバンパイアか? 俺の血を舐めてたな。そんなに俺の血が欲しいか?」
サーニアはまだマウントポジションを取っている。
俺はその場からは動く事が出来ないが、このまま落としてやる!
サーニアは俺の方を見ながら舌を出し、唇をなめまわす。
「ユウの血は不思議ね。この世界の血ではない気がするわ。味わった事なの無い何かがある。ユウの血、欲しいわね!」
サーニアは俺の脚から手を離し、俺の首を絞めてくる。
うーん、この状態危険だ! このまま続行したら二人とも天に召されるのでは?
い、意識が遠くなる。俺もサーニアの首を絞めているのに、さっき普通に話していなかったか……?
……も、もうダメ。ち、力が入らない……。
―― ……って! 頑張って! しっかりして!
遠くから誰かの声が聞こえる気がする。
俺は、ここで負けるわけにはいかない! 半額だ! 経費削減だ!
そして、サーニアに負ける訳にはいかない!
両目をカッと開き、サーニアをにらむ。
サーニアも、意識朦朧俺の首を絞めているのがわかった。
ここが正念場! 普通のバトル漫画なら剣と魔法が飛び交いかっこいいシーンがクライマックスだが、俺はお互いに首を絞め合うという、ノーアクションなクライマックスを迎えている!
ま、負けてたまるか!
――ここはどこだ?
気がつたら俺は空を見上げ寝ている。あれ? まだ模擬戦の途中だった気が……。
少し目線を移動させると、うつらうつらしているフィルの顔が目に入る。
頭の下にはフィルの膝があり、膝枕状態だ。
近くで見ると良くわかるが、綺麗な顔立ちをしている。
ボムおじさんも顔立ちはきれいなんだよな……。
……模擬戦って終わったんだっけ?
俺は頭を上げようとしたが、フィルにおでこを押さえられ、止められた。
「……ユーキ、。少し休む。急に立つと倒れるかもしれない」
フィルは目を閉じたまま、俺に話しかけてきた。
なんだ、起きていたのか。
「なぁ、模擬戦ってどうなった? 途中から記憶がないんだが」
サーニアとお互いの首を絞めあったところまでは覚えている。
二人ともそのまま落ちたのかな?
「……試合はサーニアの勝ち。ユーキが先に気を失った」
そうか、負けたのか。話を聞くと、ボムおじさんが気を失った俺に人口呼吸をしようとしたが、フィルが変わったらしい。
そもそも気を失っただけで呼吸もしていたし、心臓も動いていたので人工呼吸する事はなかったみたいだ。
横で見ていたサーニアがそういっていたらしい。
ボムおじさんはそのままサーニアと今後について話があるから、先に戻っているそうだ。
「そうか、負けたのか……。やっぱ、俺はそんなに強くないんだな」
フィルが俺の頭をなでながら微笑む。
「……ユーキは十分強い。トランスを解除したサーニアと向き合えるユーキは尊敬する」
まぁ、大型のアックスと等身大のバスターソードを片手でサクサク扱えるやつとは対峙したくないな……。
「サーニアは魔族なのか?」
「……サーニアは魔族。間違いない」
「この街で普通に暮らせるのか?」
「……それはわからない。この街の人間次第」
「そうか……」
俺は空を見上げ、遠くを見る。
日本だって差別はある。この世界は種族が違うのだ。差別位あるだろう。
でも、本人は普通の生活を望み、トランスしてまで、力に制御をかけてまで……。
ふと、ゴブリン達の事を思い出した。
見直さないといけないのは、俺達の考え方。
お互いの想い方、思いやりの心とか、感謝の心とか……、難しいね。
「……そろそろ戻る」
「そうだな」
フィルの膝から頭をおこし、立ち上がる。ややくらくらするが大丈夫だろう。
背伸びをしていると、フィルが抱き着いてくる。
「……ユーキ、心配した。無事で良かった」
フィルの頭をなでながら答える。
「心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ。フィルの膝で寝たら治った」
フィルは俺の目を見ながら微笑んでいる。
どれ、負けてしまったが収穫は少しあったな。
俺とフィルは来た道を戻り、部屋に入る。
――ギイィィィ
そこで目にしたのは人間の姿のサーニア。
しかし、サーニアは紐パン一枚で立っている。
隣にはおばさんがいる。
おじさんはいない。
俺とサーニアの目が合った。
……。
へ? 入る場所間違った?




