第103話 ~片山バインとルール~
サーニアのバインが持っている攻撃力は半端ない。
バインが現れてから俺は数秒動けなかったが、すぐに気を取り直し、サーニアに背を向ける。
決して直視していたわけではない。
「サーニア! ちょっと中断してもいいか! 試合に集中できない!」
後ろを向いたとき、フィルが俺の事をジト目で見てくる。
ああ、そんな目で見るなよ。わざとじゃないよ。これは試験中に起きた事故なのさ。
「あら、ユウがその状態であれば棄権って事でいいかしら? その場合は私の勝ちよね?」
「そうだな! 実戦形式で行っているからな! ユーキ殿の棄権になるな!」
そ、そんなバカな。バインは危険。じゃなかった。
バインで棄権なんて、そんなことできるか! 試合に勝って半額を手に入れるんだ!
俺は再びサーニアの方を向き、短剣を持ちなおす。
斬ってダメ、刺してダメ。いったいどんな攻撃をしたらいいの?
攻撃対象はすでに半裸。しかも、なかなかの美人でバインである。
俺の精神的ダメージは相当なものだ。しかも、直視できない。
「サ、サーニア! それ直してもらえないか?」
俺は、サーニアに今の半裸状態を何とかしてもらえないか、提案する。
片山バインのままだと、俺が圧倒的に不利になる。
「このままでいいわ。さ、続けましょう」
っちぃ。俺が不利になってしまった。直視できない。
目を閉じて気配だけで戦ってみるか? ……素人には無理ですね。
仕方ないので、なるべくバインを見ないように戦うしかないな。
「分かった、続けよう。そして、早く終わらせよう!」
俺はユックリ短剣を構え、サーニアに近づく。
サーニアもナイフを両手に持ち、俺に歩み寄ってくる。
何を仕掛ける気だ? 警戒しながら後、数歩でお互いの間合いに入る。
――間合いに入った瞬間!
サーニアは左手に持ったナイフを俺に突き刺してきた。
しかし、遅い。こんなゆっくりな動きでは避けるか防御するか、反撃するか選択できてしまう。
俺はサーニアのナイフを弾き飛ばそうと短剣をふるった。
――キィィン!
激しい音と共にサーニアのナイフが真っ二つになる。
え? 軽くふるっただけなのに……。
「ユウ、その武器面白いわね」
「だろ。武器破壊の短剣だからな」
嘘です。はったりです。でも、武器破壊できるのであれば、防具とかも破壊できるのでは?
後で実験だな。
「ちょっとやりにくくなったわね。一つ確認していいかしら?」
「何だ?」
「この試合は魔法一切禁止よね?」
「そうだ。先にルールを決めた通りだ」
サーニアは怪しい笑みを浮かべ、俺を見ながら微笑む。
「生きるために勝ちたい。私の事、嫌いにならないでね、ユウ」
サーニアはそんな事を言いながら両手を天に向け、何か呪文のような言葉を発する。
魔法は禁止。でも、今魔法を使おうとしていないか?
「ボムおじさん!」
「ユーキ殿。サーニアはまだ魔法を使ってはいない! 一撃は耐えてくれ!」
おっふ。どうやって耐えるんだ? これは躱す一択ですね。
サーニアの動きをすぐに感知できるよう、細心の注意を払いながら待つ。
しばらくするとサーニアからモクモクっと白い煙が出てきた。
ん? これは何だ? 毒か? 睡眠? 混乱? 吸いこんだらまずい系か?
とりあえず、直接攻撃魔法ではなかったようだ。
少し距離を取り、ボムおじさんのちょっと手前まで移動する。
次第に煙が薄くなっていき、サーニアを目視できるようになった。
が、誰? さっきまでそこに立っていたサーニアが消えている。
そのにいたのは、背中からが蝙蝠のような翼が見えている。
髪と瞳がやや紫のロングヘアーの女性。パッと見た感じサーニアと似ているが……。
「お主! 魔族か!」
ボムおじさんが攻撃態勢をとり、目の前の女性に声をかける。
「そうよ、私は魔族。トランスの魔法を解除したわ。魔法は禁止なんでしょ? 少しだけ見た目が変わったけど、大丈夫かしら?」
俺は初めて魔族と話をした。戦った。そして、昨夜チューされた……。
試合は続行なのか?
「問題ない! 試合続行だ! ユーキ殿、サーニア、思う存分戦うといい!」
ですよねー。 ボムおじさんなら絶対続行すると思いましたよ。
さて、どうやって攻略するか……。




